決別
「律、キミはこの国に居るべきではない」
そう言いながら、師匠は海の彼方へと視線を移す。
「この海を渡った向こうにはブリトゲンと言う名の大陸がある。その中でもララーナと呼ばれる王国では現在、隣国との争いに備えて『騎士』たるものを養成しているそうだ。キミの腕ならば傭兵としても十分に通用するだろうが、私としては是非ともキミに大成して欲しいと思っている」
ありがたい話だ。
彼女は今をもってなお、俺の身を案じてくれている。
「なあ、師匠。その『騎士』ってやつになれたら、俺は大切な人を守れるようになるのか?」
自分でも子供っぽいことを言っているのは自覚している。
だが、俺にはもう、それ以上に望むことはない。
「それは、キミ自身が経験して確認すればいい。だが少なくとも、『この国にキミの求めるものは無い』と私は思っている」
言い得て妙だ。
確かに、大切な人も守れないような『侍』になんて、俺には何の未練も無い。
「俺には、この国の『侍』がどうしても許せない。例え師匠が何と言ったとしても、これだけは生涯、絶対に変わらない」
「律、私はキミに、もっと広い視野を持って欲しいと思っている。例えキミが私を恨もうとも、それだけは事実だ」
敵わないな。この人の言葉に嘘はない。
彼女は本気で、本心から俺の身を案じてくれている。
「師匠、俺はあんたに礼を言わないといけない。あんたがいてくれたおかげで、俺はここまで強くなることができた」
「それでも、私はキミの大切な人を守る事が出来なかった」
「ああ、確かにあの時、師匠が居てくれたなら、あの人は死なずに済んだのかもしれない。でも、それがこの国の下した決断だった。そうだろ?」
俺は師匠の視線を追うように、遥か彼方の大陸へと目を向ける。
「俺はこの国を出るよ。倭国というこの国を恨んでいるから、俺は、海の向こうで強くなる」
この国にはあの人との思い出が多すぎる。それに、この国の在り方では、俺はまた何か大切なものを失ってしまうかもしれない。
「あの娘はどうする? キミが望むなら、私が面倒を見る事も出来るが……」
「いや、一緒に連れて行くよ。あいつの事は死んでも守ると、あの時、約束したんで」
「そうか、ならば、この場でキミを正式に破門する。――――達者でな」
「世話になりました。師匠、この御恩は決して忘れません」
――俺はあんたに師事して、本当に良かった。




