第1章 始まり2
「ハァ、ハァ…ま、間に合っ…てないな…」
「ゼェ、ゼェ…そうだな…」
「この廊下、長すぎだろ…」
「ゼェ、ゼェ…そうだな…」
治広の言う通り、この竹前中学校の廊下は長い。
あくまで彼の体感だが、50mくらいはあると思われる。
それは、特にスポーツもしていない中学生が全力疾走し続けるのにはやはり長かった。
「初日から遅刻か…」
「ハァ…まあ、いいんじゃない?」
治広と航輔はそんなことを話しながら、ゆっくりと教室へ近づいて行った。
「ふぅ……ん?あれは…」
すると、教室の出入り口に誰かが立っているのが分かった。
「げっ…先生か?」
「いや、多分違う」
(先生は今、ホームルームの最中のはずだけど…)
と、その人物がこちらへ近づいて来た。
「に、逃げるか?」
「いやいや、逃げたって意味ないだろ?」
一歩一歩こちらに近づいて来る。
「……………」
「……………」
遂に二人の目の前までやって来た。そして、その人物はこう言った。
「君たち~、時間もう過ぎてるよ。もっと早く来てくれないと!」
「…………?」
「…………?」
((………誰だ?))
よくよく近くで見てみると、確実に先生でないことが分かる。
何せ身長は自分たちと対して変わらない。
髪はきれいに七三にわかれていて、正しくお坊ちゃまという感じだ。
「返事はどうしたんだい?」
「「あの……どなたですか?」」
2人の声が重なる。
「オーマイガッ!この僕を知らないなんて…。あぁ、君たちは何と哀れな人だろう。そもそも僕が───」
「はいはい、いいから。早く名前を教えて」
治広は話が長くなりそうだと感じたので、先手をうった。
「うん……まあいいか。僕の名前は高木護。将来的にはこの日本……いや、この世界を手に入れる男さっ!」
「「………」」
(…何なんだ、この男は…?)
(めんどくさいな…)
「フフッ…僕の威光に恐れをなして、何も言えないか。そうだろう、そうだろう。」
「………………………」
「………………………」
「おい、お前ら。席につけよ!」
気がつくと後ろに一人の男が立っていた。
が、こちらは確実に同級生ではない。
身長は180cmほどあるだろうか。
全身についた筋肉は、スポーツをしていますと言わんばかりだ。
「先生…ですよね?」
治広と航輔はこの人を知らない。
まあ、彼らは新入生なので、当たり前なのだろうが。
「あぁ、そうだ。ホームルーム始めるぞ!」
ニッコリと笑った先生の顔はその体格と真逆で、とても無邪気なものだった。
とりあえず言われた通り席に座る。
その順番は出席番号順、すなわち名字の五十音順なので……
「またお前が前か!」
「『真田』と『篠原』だからな」
まあ、こうなるのはいつものことなのだ。