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番狂わせ

 4

 

 雨は一向に止む気配を見せない。どころか、渦巻く暗雲の向こうから、雷の鳴る音が聞こえてくる。このままでは間違いなく嵐になることだろう。


 しかし外の天気などお構いなしに、四年二組の教室は熱い興奮の坩堝に包まれていた。


『つ・よ・い――ッ! 強すぎるぞ《王者》タカフミ! 序列第三位のハツミをまさかの一蹴ーッ!』


 タカフミが教壇上で大きく拳を突き上げた。一際大きな歓声が湧き上がる。これぞ王者。勝利という絶対の理でもって君臨する勝者の姿である。

 そしてタカフミは、床にへたり込んだハツミの前に手を差し出した。敗北の悔しさに歪んでいたハツミの顔が一瞬あっけにとられ、フンと鼻を鳴らしてその手を取る。


「……まさか、あなたがあんな策を用いるだなんて思ってもみなかったわ」


 ハツミを立ち上がらせながら、《王者》は答えた。


「言っただろう。序列下位ならばともかく、上位を占めるお前ら相手はいつだって命がけだ、とよ。仕込みはハツミ対策じゃなかったが、それでも使うしか手はなかったんだよ」


 タカフミがにかりと笑った。先ほどまでの殺気混じりの獰猛な笑みではない。純粋に勝負を楽しんだ者だけが浮かべることのできる、清々しい笑みだ。


「お前相手に長期戦はまずい。気がついたらお前の術中に嵌って、後は嬲られ続けるしかないなんてことも十分にあり得るからなぁ」


 結果だけ見ればタカフミのストレート勝ちとなったが、間違っても楽勝の試合ではなかった。予定外とはいえハツミが罠にかからなければ結果が逆になっていたことも十分に有り得る、薄氷の勝利なのである。


「それで?」


 ぶっきらぼうに、ハツミが問いかけた。心なしか頬が紅潮しているようだが――熱い勝負の余韻が未だに落ち着かないらしい。


「それでって……何が?」

「馬鹿! アンタ、私に対ユウヘイの切り札を使ってしまったんでしょう? それであの《ブリザード・エッジ》に勝てるのかって訊いてんの!」


 一瞬タカフミはぽかんとした表情を浮かべて、そして笑った。


「なんだ、お前、俺のこと心配してくれてンのかよ」

「なっ!? そ、そんなんじゃないわよ! 馬鹿じゃないの!」


 慌てた様子でハツミが怒鳴った。


「わ、私はねぇ、私に勝ったアンタに優勝してもらわないと、相対的に私が弱いってことになって結局私が困ることになるから私は私の心配をしてるの! そうよ、私は別にタカフミの心配なんかしてないわ! 私は私の心配をしているのッ!」


 顔を真っ赤にしたハツミが一気に捲し立てる。そこでタカフミの手を握りっぱなしだったことに気がついて、彼女はいよいよ耳まで顔を紅潮させ、慌てて手を振りほどいた。


「わーってるって。変なやつだなぁ。でも心配するな。例え俺が負けたって、お前の評価が低くなることなんて絶対にない。お前は強い。それはこの俺が保証するぜ」


 と、得意げに自分の胸を叩くタカフミ。一方のハツミはほっとしたような残念なような目で小さくため息をつき、「このじゃんけん馬鹿……」と心の中で呟いた。


「それに俺だって《王者》の看板背負っているからには、負けるわけにはいかねぇ」


 タカフミの瞳に炎が渦巻いた。熱い炎――闘いを待ち望む、好敵手を迎え撃つ、そして勝利を渇望する、絶えることなき闘志の炎だ。

 タカフミから湧き上がる闘気の熱量に、思わずハツミが喉を鳴らしたその瞬間だった。


 教室の反対側で大きな歓声が沸き起こった。ユウヘイ対ミチオの、もう一つの決勝戦第一回戦が決着したのだ。


 観客のクラスメイト達の向こうに、タカフミとハツミは見た。


床に這いつくばり、信じられないと驚愕の表情に喘ぐ《ブリザード・エッジ》ユウヘイと――

 いっそ邪悪とすら言えるほど凶悪で残忍な笑みを浮かべる、序列最下位のミチオの姿だ。

 

 言葉を失うタカフミの隣で、ハツミが呻く様な声を上げた。


「うそ……まさか……ユウヘイが、負けた……?」



つ、ツンデレ……?

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