幼なじみが皇帝と呼ばれているらしい
ちょっと思いついてしまったんで。
私の幼なじみは規格外だ。
文武両道、智勇兼備、容姿端麗、貴顕紳士と美麗字句を並べて褒めそやされている。
そんな幼なじみとの出会いは母親同士が親友というよくある理由。出会った当初、つまり五歳の時の幼なじみは病弱でひょろくて、可愛くて真っ白で女の子みたいだった。身体が弱いから、外で遊ぶこともできず、それ故友達もあまりいなかったようだ。私は、その頃から友達と外で遊ぶよりも、夏は涼しく、冬はあったかい家の中で遊んでいる方がずっと好きだったので、病弱で家から出れない幼なじみと過ごすのはむしろ楽しかった。幼少時代のほとんどを共に過ごしたと言っても過言ではない。
そんな幼なじみとは中学に進んでしばらして一度疎遠になった。その理由はお互いの生活リズムの違いとか、小さい頃はひょろかった幼なじみが年をとるごとに丈夫になり、男らしく成長したので、友達や信者が一気に増えて彼らと過ごす時間が増えたとか、私も気の合う友達ができたというのもあるけど、一番の理由は幼なじみが私を避けていたからだと思う。本人は絶対に認めないが、あの中1から中2の夏くらいまで幼なじみは確実に私を避けていた。
家を訪ねればすぐに用事があると出て行き、学校帰りにこっちと目が合うと会釈だけして足早に去っていく。遊びに行こうと誘えば、いつも予定でいっぱい。うちの家族と幼なじみの家族の合同で行っていた家族旅行は来たけれども、一言も交わさなかった。これを避けていると言わずして何というのだろう。
しばらくすると私も察して、近づいていかなくなった。
それが始まったのも唐突なら、終わったのも唐突だった。
ある日家に帰るとそこにはすっかり久しぶりに見た幼なじみの姿があった。そして第一声は、何で会いに来ないんだという理不尽なもの。混乱はしていたが、言うことは言わないとと思い、避けていたのはお前だと言った。すると、一言、知らん、と。手に持った鞄を顔に投げつけたが私は悪くないと思う。
その後は幼馴染を正座させ、こんこんとお説教二時間コース。幼なじみ自身も自分が悪いという認識があったのだろう。ただ黙って説教されており、ごめんなさいという言葉が聞けたので再び私たちは仲良しに戻った。
それでも、やっぱり、学校が違うので幼いころのようにずっと一緒にはいられないけれども、休みの日はどちらかの家でだらだらと過ごしたり、テスト期間は一緒に勉強したりしてそれなりに共に過ごしてきた。本人には言わないけれど一番の友人は誰と聞かれたら間違いなく幼なじみの名前を挙げるだろうと思う。
そんな幼なじみに高校は一緒の学校に行こうと誘いつづけられると断わりきれず、頑張って特待生枠で上流階級の子息、息女が通うこの学校に入学することができた。
ここで話はやっと今に戻ってきた。
今現在の私は、入学式が終わり、ホームルームも終わって、さぁ帰ろうかというときに、呼ばれてしまった幼なじみを教室で待っているところに、いきなり現れたお嬢様二人に困惑しているところです。このお嬢様が現れてから、私を遠巻きに見ていたクラスメイト達はそそくさと荷物をまとめて帰ったため、ここにいるのは私たち三人のみとなった。
困惑していると言ったけれど、本当はわかっている。幼なじみの関係であろうと。
「ちょっとお顔を貸してくださる?」
やってきたお嬢様のうちの巻き毛が高飛車に言ってくる。顔なんか物理的に貸せるわけないじゃん、どっかのアンパンの正義の味方じゃあるまいしと茶化そうかと思ったけど、冗談が通じる空気ではなかったのでやめておいた。
「お断りです。私はここで人を待っているので」
のこのことついていったら、ボコられそうだし。ここなら、いつ幼なじみが帰ってくるかわからないから、そう派手なこともできないだろう。保身第一。
「じゃあ、ここでいいですわ。あなた、皇帝のなんですの?」
こっちが話に付き合ってあげているのにやたら上目線。でもたぶんこれがデフォルトなんだろうな。
ってか、皇帝ってなに?行間を読むと私の幼なじみを指しているとはわかるのだけれど、なぜ皇帝?別にどこの帝国も支配していなかったと思うんだけど。えっ、あだ名?うける。あとでからかってやろう。
「幼なじみですよ」
簡潔にやつとの関係を表すならばそうだ。友達である以前に幼なじみ。これは、誰に聞かれてもそう答えたし、これからも答え続けるだろう。
「幼なじみだからといって、この学園のルールを破るなんて許せません」
「ルール?破った覚えなんかないけど?」
「一般の生徒が皇帝と話すときは我ら親衛隊に許可をとってからではないと」
「それ、冗談のつもり?全然面白くないんだけど」
「冗談なわけないでしょう。なのでこれからはルールを守っていただくわ。今回は知らなかったということで不問に処しますけれど、今後はこういったことがないようにお願いしますわ」
その私がいうことを聞いて当然っていう態度、腹が立つなぁ。隣のやつもこいつの言うことにいちいちうなずいて腹立つ。さらに言うなら、幼なじみとの交友を何も知らない第三者に邪魔をされるのも。何もかもが気に入らない。
「そういやさ、そのルールっていつできたの?」
「皇帝が中学に進学された時からですわ。その頃から、わたくしたちはメンバーでした」
「そんな浅い歴史を自慢げに語らないでよ。気分悪い。私とあいつは五歳の時からの付き合いだよ?そのへんてこなルールができる前からずーっと幼なじみだったの。それを、なに?ルールに従え?ばっかじゃないの。それにあいつの交友関係をあんたらが支配する権利はないと思うんだけど」
「っっ、生意気なっ」
今までしゃべっていなかった方の黒髪ストレートが檄したようで、腕を振りかぶる。しかし、寸でのところで巻き毛がその手をつかむ。しかし、これだけは断言できる。止めたのは決して私のためではない、と。自分たちに不利な条件がつかないようにという判断だろう。
「要は皇帝から離れる気はないということですね。貴女の気持ちはよくわかりました。礼香、今日は出直しましょう。忘れないでください、貴女は我ら親衛隊を敵に回したことを。それではよい学園生活を」
最後に意味深に笑ったあと、礼香と呼んだ黒髪ストレートの手をつかんだまま、しずしずと退出していく。
あぁ、やだなぁ。めんどくさい予感がびしびしする。私高校で友達できるかな。
前途多難そうな高校生活にため息をつかずにはいられなかった。
幼なじみが主人公を避けていた時期は恋愛の目覚めの時期です。わけのわからない感情に悩まされていて、避けちゃった若気の至り。本当はちょっとの間のつもりだったけど、タイミングを逃してずるずると避け続けた不器用かつへたれ。おいおい、どこが皇帝だよ。
かなりすごいことを言っている巻き毛ですが、理由もあります。