第5話:勝っても終わらないのが訓練
「その様子だと、正道じゃなかったようね」
ポイっと木刀を母上が投げてきたので受け取る。
騎士の息子だからって騎士になる訳ではないし、楽を出来るならなるべく楽をしたい。
「言われた通り一太刀入れましたよ。これではなくて自作の木剣でですが」
「ヴィンセント?」
「騎士って言うかアサシンみたいな手口でやられちまったよ。戦場なら間違いなく躱せたけど、油断しちまったよ」
母上に睨まれた結果、やれやれと一太刀入れられた事を父上が認める。
これで旅についての許可は問題無いな。
旅に出るのは来年の予定だけど。
「それじゃあ旅に出るのは問題無いって事で?」
「……約束は約束だからな。出来れば正面から一太刀入れて欲しかったが、文句は言うまい」
ちゃんと正面から当てたと思うが、母上も居るので軽口を叩くのは止めておこう。
「――旅だけど、いつ出る予定なの?」
心配……その様な感情を読み取れる表情で母上が聞いてきた。
「来年位かな。今はまだ身体も小さいし、ジオの面倒もみてやらないと心配だしね」
「……直ぐに出るんじゃなかったのね」
「母上や父上を悲しませたい訳ではないのと、俺自身もまだ準備が出来ていないので」
準備をしっかりとしておくに越した事は無い。
傭兵していた時もだが、準備を怠れば怠った分窮地に立たされるのは自分だ。
食料もだが、冬場となれば身体を暖める方法も重要になってくるし、武器の手入れや排泄物なんかの問題もある。
旅に出る以上はしっかりと先の事を考えておかないと、困るのは俺だ。
直ぐに俺が出て行かないと分かったのか、母上の顔から力が抜けるら
「ちゃんと考えているようね。怪我は無い?」
「当てられる前に当てたので大丈夫。あっ、ギルドの登録と、ダンジョンにも行って良いですか?」
少し手は痺れているが、父上が思いっきり剣を弾いたせいだが、もう少し休めば治る程度なので問題ない。
「ギルドの登録は良いが、ダンジョンか…………それは隣町のだろうな?」
「勿論さ。金を稼ぐのと、訓練をするならダンジョンが最適ですからね」
ダンジョン。
または神の試練と呼ばれている事もあるが、細かいことを抜きにすれば金が稼げて訓練の出来る洞窟だ。
ダンジョンには難易度があり、ついでに入るには管理をしている領主や国からの許可や、ギルドにて一定以上のランクになっている必要がある。
俺が剣を手に入れた遺跡も広域の意味ではダンジョンであり、入るにはギルドのランクがA以上でなけらばいけなかった。
基本は傭兵として活動していたが、金策や肩慣らしにダンジョンへ入った事もあるので、事故って死ぬなんて事は早々起こらないだろう。
うちの領にあるのは最低ランクのダンジョンだし。
「俺を相手にあんな手段を取れるし、まあダンジョン位は大丈夫か。ただ、ジオやステラには話すなよ。僕も私もと言われても困るからな」
「分かってるさ。適当に手伝いを頼まれて出掛けたって話すようにしますよ」
「本当にヴィンセントの子って感じね……」
「俺だって家を飛び出したのは十二歳だぞ? ここまで早くはなかった」
大人の四歳差は誤差だが、子供の四歳差は大きいからな。
スラムにいた頃は、一度として年上には勝てなかったし。
「んじゃ、やることはやったわけだし、これから訓練でもするか。今日は頑張って仕事は終わらせたからな」
「……やらないと駄目?」
「駄目だ。正面から戦わないのも戦法の一つだが、真正面から倒せるようになっておいて損はないからなビシバシやるぞ!」
父上の笑顔には圧力があり、断ることは出来なさそうだ……。
やろうとすればもう少し正道で勝つことも出来たが、それだと疲れるからなぁ……。
手を抜いて勝てるならそれが一番だし、なんなら戦わないで勝ちたい。
やる気は出ないが、逃げることも出来ないし、仕方なく訓練するか……。
「あんまりやり過ぎないようにね。私は戻るけど、怪我をしたら呼ぶのよ」
訓練よりも勉強をしろと母上が鶴の一声を掛けてくれることはなく、父上と二人で庭に残される。
仕方ないので、先程みたいに隙を探すような戦い方ではなく、王国剣術の型通りに斬りかかる。
はぁ……慣れないなぁ……。
1
午前中は父上との訓練で終わり、痛む身体を動かして屋敷へと戻って昼飯を食べる。
負けは腹いせなのか、父上の訓練はかなり厳しく、普通に木刀を当ててきたせいであちこちに痣が出来てしまった。
一応魔力で強化しておいたのでそこまで酷い事にはなっていないが、父上への好感度はダダ下がりである。
母上に治して貰おうかと思ったが、この程度で母上の手を煩わせるのも良くない。
必要に駆られて覚えた、自然治癒能力を上げる身体強化で治す。
昼飯を食べ始めた頃は濃かった痣も、食べ終わる頃にはほとんど消えてなくなった。
この方法を使うととんでもなくお腹が空くので、いつもより沢山食べる羽目になった。
出来れば自分で回復魔法が使えればこんな事をしなくて済むのだが、才能がない以上どうしようもない。
才能とは努力では手に入れる事が出来ないものであり、こればかりは手に入れる事が出来ない。
代用や代わりの方法なんかはどうにかなるが、本質的に全く一緒とかは無理なのだ。
回復魔法とは正式な呼び方ではないか、水属性と光属性にだけある魔法となる。
どちらかを使えなければ駄目だリ、使えたとしても才能が無ければ使えない。
俺は父上譲りの火属性と母上の水属性が使えるが、二属性使える代わりに回復魔法は使えないみたいだった。
賢者なんて全属性が使えて更に回復魔法も使えていたが、あれはチートと呼ばれる存在だろう。
まあ俺も魔法をぶった斬ってたので、あまり人の事は言えないけど。
直ぐ黄昏ながら腹ごなしに休んでいる間に痣も全て消えて、完全復活だ。
午後は……予定としては領地経営についての勉強となっているが、既に一通り覚えてしまっているので、座学を学ぶ必要はない。
実技については簡単なことなら既にやっているし、なんならこの世界よりも高度な知識もあるので、無理難題を父上が出してきても問題ない。
……少し確認しないとだが、母上に魔法を習うとするか。
異世界の知識があるとはいえ、どうやら異世界には魔法が無く、傭兵をしていた頃は属性魔法が使えなかったため、魔法については素人なのだ。
色々と試行錯誤しているが、訓練とは基本的に一人でやるよりも誰かに教わった方が効率が良い。
本で調べた限り魔法は一般的に初級から最上級までの、四つのランクで分けられているのが普通なのだが、ギルドのランクの様にEとかAランクで表す場合もある。
どっちが正しいとかはないみたいだが、初級や中級と表した方が俺としては分かりやすいので、そっちで呼ぶようにしている。
ついでに最上級よりも上の魔法もあるのだが、難易度や消費魔力の関係で使える人が少ない。
賢者は使えていたが、下手に強力な魔法を使うよりも、程々に強い魔法を使った方が便利と言っていた。
強力な魔法は総じて火力や能力が高いの多く、ついでに範囲も広い。
戦争や魔物のスタンピードとかならばともかく、完全にオーバーキルって奴になる。
まあ今の俺にとっては、そもそも使う事が出来ないので関係ないけど。
母上は父上とは違い勤勉であり、様々な事をやっている。
父上の手伝いや俺達の料理の作製。
四つある領地の内一つは母上が管理していたり、他の貴族とのお茶会なんかもしている。
なので暇な日はあまりないのだが、今日空いているのは確認済みである。
なので屋敷内を歩き、母上がどこに居るのかを探す。
メイドに聞けばすぐ分かるのだが、自分で探す事に意味が有ったり無かったりする。
「失礼します」
「あら、ヴィンレットが来るなんて珍しいわね。どうしたの?」
数部屋程探し回った結果、母上は図書室で本を読んでいた。
この図書室は母上の希望で作られたものであり、下手な貴族家よりも立派な物らしい。
他の貴族の屋敷なんて数回しか入った事が無いのであまり知らないが、この図書室があってとても助かっている。
「魔法について教えて貰いたくて。一応勉強や訓練をしているけど、やっぱり母上に教わるのが一番だからね」
「暇だから大丈夫だけど、魔法はどれ位まで使える様になったの?」
因みに母上だが、騎士団で働いていた事は教えて貰ったものの、どんな仕事をしていたかは教えてくれない。
魔法を使っているのを見た感じ、賢者にも見劣りしない位の技量だったので、宮廷魔術師とかだったのではと思っている。
何故父上なんかと結婚したのかと思わなくもないが、多分父上もそれなりの地位の人間だったのだろう。




