第4話:ゼロの一撃
母上に呼びだされた結果、思いがけず旅の許可を貰えることになった。
いや、条件をクリアしないといけないが、条件のクリアは多分問題ない。
父上の力量はざっくりとだが肌で感じているので、勝つのは無理だろうが一発入れるだけならばなんとかなる。
全盛期にならば無傷で倒す事も出来ただろうが、メイン武器の剣も無いし、力は勿論手足の長さも足りていないので、傭兵の時の様に動く事も出来ない。
それでも経験として残っているし、最低限身体に馴染ませる様に訓練をしてきたので、俺の戦い方を知らない今ならばいけるだろう。
まあ旅に出るのは来年の予定なので、明日直ぐなんてしなくても良いのだが、少しでも油断を誘うならば早めの方が良い。
ジオとステラには心配を掛けたくないので、何も話さずいつも通り過ごし、寝る前に父上が町に出掛けて行かないか確認してから眠る。
出来れば出掛けて少しでも寝不足になってくれれば良かったが、そこまで気を抜いてはくれないみたいだ。
一週間後位にして、その間一切執務を手伝わないなんて方法を取った方が、効果があったかもしれないな。
そんな訳で翌日の朝。
いつもは母上が起こしに来るまで寝ているのだが、万全を期すため早めに起きておく。
勝率はあるが、大事な所でポカをやらかさない様に身体をしっかりと温めておく。
「あら、今日は珍しく早いのね。駄兄」
「今日は朝から母上に呼び出されているからな。出来ることなら、昼まで寝ていたいさ」
ランニングから帰ってくるとけき、今から外に出ようとしてるステラとばったり会った。
剣を持っているので、朝の訓練をするのだろう。
母上譲りの青い髪が少し跳ねているが、注意すると怒るだろうし、訓練が終わった後に洗うだろうから黙っておくとしよう。
「ふーん。暇なら私の訓練を手伝いなさい。型は全部出来るんでしょ?」
「基礎の五つと応用の五つは出来るが…………まあ良いか」
騎士……王国剣術の訓練をする気は無かったが、折角の妹の誘いだし、父上の油断を誘う意味も込めて、手伝うとしよう。
今回の父上との戦いで王国剣術を使った場合、絶対に一太刀当てることは出来ない。
なので傭兵の時に磨いた剣術を使う予定だが、ここで妹の相手をしている姿を父上が見てくれたならば、勘違いしてくれる可能性がある。
「それじゃあさっさとやるわよ。朝食に遅れると、怒られちゃうからね」
「はいはい」
刃抜きされている剣を武器庫から持って来て、軽く構える。
父上が元騎士なだけあり、ステラもしっかりと剣術を学んでいる。
他の家では魔法八の剣が二位だが、うちは半々位だろうか?
身体が出来上がるまでは本格的な訓練は無く、型の練習をするのがほとんどだが、ステラには剣の才能がある様に見える。
貴族の女性に必要なのは美貌だけと言われているが、剣が使えて困る事は無い。
それに聖女も言っていたが、適度な運動は健康と美容に良いらしい。
そんなわけで攻めの型を受けの型で防ぎながら、軽く指導してやる。
「相手の剣を目で追わないようにな。それと体幹が少しぶれてるから、意識するように」
「煩いわね! やればいいんでしょ!」
何故か怒られてしまったが、言った事を意識してくれているので、これがツンデレって奴だろう。
相手の武器を追うのは大事なのだが、武器だけを見ているとフェイントに気付けない事がある。
一番は筋肉の動きを見て判断できるのが一番だが、それは幾多の戦いを乗り越えない事には無理だろう。
一対一ならば必要ない技能だが、多数を相手にするなら必ず必要になってくる。
一瞬の隙が命取りになるのは勿論だが、小さな怪我も重ねれば失血に繋がり、失血が酷くなれば意識が薄れていく。
確実に相手の動きを読んで攻撃を避けなければ、どんどん不利になっていくのだ。
なので一々武器の動きを見てから避けるのでは遅く、一歩先の読みをしなければならなかった。
だがこれはあくまで近接戦だけに言える事であり、魔法や弓を相手にする場合は効果が無い。
そっちはそっちで空気や魔力の流れを読む技能が必要だが、これらについては最近やっと出来るようになってきた。
前は出来ていたが、転生して魔力の質や身体が変わったせいで、どうも感覚が掴めないでいたのだ。
「この辺にしておくか。もう直ぐ飯の時間だし、感覚は掴めてきただろ?」
「はぁ……はぁ……そうね。今日は……この位で勘弁してあげるわ」
息が上がって腕が振るえているが、気はしっかりと保っているので大丈夫そうだな。
二十分程で訓練を終わりにして、朝食の前に汗を流しておく。
思っていた通り、父上は俺とステラの訓練を見ていたのを気配で感じた。
おそらく朝から気合が入っているとでも思ってくれているはずだ。
父上と戦うのは、朝食を食べて少ししてからだ。
午前中はジオとステラは勉強のため、戦いを見られる心配は無い。
内緒にしなくても良いが、兄として父上が無様を晒す様を子供に見せるのは如何なものかと考える。
正直既に人望なんてほとんど無いとは思うが、父上の事は決して嫌いではないので、子供なりの心遣いって奴だ。
久々に家族全員揃って朝食を取り、父上の執務が一区切りつくまでは柔軟運動や、身体の最適化をしながら過ごす。
「待たせたな。朝から熱心に訓練していたが、準備は良いか?」
「しっかりと身体は温めてあるので、いつでも大丈夫です。父上こそ、準備運動をしなくて大丈夫ですか?」
父上と一緒に訓練をしたのは、もうかなり前であり、その日から剣を振っている姿を父上には見せていない。
ジオやステラの訓練には付き合っていたものの、それは父上が居なかったせいだからだ。
「騎士はいつでも戦えるようにしているもんさ。既に現役から退いているが、今でも騎士のつもりさ」
動きやすい格好で皮鎧すら着ていないが、使う剣は刃抜きされている模擬剣ではなく、鉄芯の入っている木刀になる。
型の訓練をする時に使っている剣と重さは同じ位だが、幅が違うため注意が必要だ。
なので、腕を折る可能性はあっても、腕を斬られる心配は無い。
因みに怪我は母上が治せるのと、ポーションも用意してあるので、怪我については問題ない。
「それじゃあ行かせてもらいますよ」
「いつでも来るが良い。お前にはまだ、旅は早いと教えてやろう」
父上は無難に正眼の構えをする。
自分からは攻めず、待ち構える気か……大人げ無いと取るか、カウンターのまぐれ当たりを警戒してか……。
木刀を力を抜いて持ち、父上に向かって駆け出す。
魔法を使って不意を突く……なんて事をすれば、父上のやる気スイッチが入ってしまうし、条件が剣で戦うのが条件なので、魔法は控えておく。
まずは誤解を与えるために、王国剣術の基礎の型で剣を振る。
下からの斬り上げを避けられ、それから振り下ろしを剣で受け止められる。
このまま押し込む事が出来れば良いのだが、大人に力で勝つのは不可能だ。
剣を弾かれるタイミングで後ろに跳んで、それからあたるはずも無い攻撃を何度か続ける。
「こんなもんか? これ以上手が無いなら、そろそろ終わりにするぞ?」
「これでも結構真面目にやってるんだけどねー」
「確かに子供にしては上出来だが、この程度に外へ出れば待つのは死だけだ。だから……」
父上の纏う雰囲気が変わり、受けの剣から攻めの剣へと変わろうとする。
この変化こそが俺の望んでいた物であり、弾かれるのを覚悟で剣を振るう。
「甘い!」
案の定木刀を吹き飛ばされ、とどめの一撃を刺そうとする父上だが、父上へと思いっ切り飛びつき、懐から出した木の木剣を腹へと当てる。
何の変哲も無い木剣だが、木刀と違い軽く、動きの邪魔にならない。
そして剣での一太刀と言われていたので、当てるのは別に木刀でなくても構わない。
「一撃当てましたよ。父上」
剣を持たない以上、父上は俺が出来る事は無いと思ったはずだ。
だから完全に足を止めていたし、おそらく寸止めをするために、力を必要以上に込めていた。
俺が飛びついた時に蹴り飛ばそうともしたが、木刀の重さが無くなった分速く、木剣を出すのもギリギリまでバレないようにしていたので、何とかなった。
「…………確かに、確かに一太刀だが……」
「父上が得念している通り、確かに腕も必要でしょうが、こうやって裏を取るる方法も大事だとは思いません?」
父上から距離を取り、手に持っていた木剣を燃やして炭にする。
父上に与えたダメージはゼロだが、ゼロでも一撃は一撃だ。
煮え切らないのか、情けない表情をしたまま父上は腕を組む。
「木刀が飛んできたから来てみたけど……結果はどうだったの?」
父上が吹き飛ばした木刀を持った母上が現れ、俺達を見る。
俺が負けたと断言しないのは、父上が悩んでいるからだろう。
俺の木刀が母上の手の中にあるので、普通ならば俺が負けただろうと考えるだろうが、流石母上だ。
「条件自体は満たしたんだが…………」
傭兵とは百の結果ではなく八十の結果で満足するべき。
条件に渾身のって文言が入っていればまた変わったかもしれないが、隙を突いて飛びついての一撃が、一番簡単に一太刀入れる方法だったのだ。




