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ロストワーカー~騙された傭兵はヒモ生活を夢に見る~  作者: ココア


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第3話:旅に出るために

 昼飯はメイドが作った料理を食べて、午後は自由時間となるので屋敷の外に出る。


 アトラゼネ領は四つの町しかなく、屋敷のある此処もギリギリ街とは言えない程度だ。


 他の町はほとんど行った事が無いので分からないが、多分似たり寄ったりだろう……多分。


 他の国の国境まではかなり距離があり、更に国境方面には大きな森が広がっているため、外国から攻められる心配は無いが、とても田舎である。


 父上が領地を貰った時よりはしっかりと発展しているがらしいが、よく発展させられたものだと今も思う。


 六歳位から少しだけ手を出しているが、父上の人徳故の結果だろう。


 そんな田舎の森に一人で入り、目印としている大木の所まで走る。


 森に一人で入った理由は訓練のためだ。


 前と今では身体の強度は勿論魔力の質も変わってしまっている。


 傭兵の時は属性魔法を使う事が出来ず、剣と魔銃を使った戦い方をしていた。


 運が良い事に魔力量だけは普通よりも多かったため、それだけで戦えていたが……。


 ただ魔銃は繊細な武器であり、値段も下手な宝石より高い。


 金を稼ぐまでは使う事は不可能だ。


 幸い今は火と水の魔法が使えるので、魔法を主体にした戦い方を訓練している。


 剣については身体さえ出来上がれば昔の様に扱えるし、魔法ならば身体を動かす必要が無いってのが理由だ。


 異世界の知識とは素晴らしい物であり、無学だった俺でも今では結構魔法が使えるようになった。


 流石に俺を倒した四人の内の一人である、賢者程狂った使い方は出来ないが、訓練していればそこそこまではいけるだろう。


 人生なんて、そこそこで生きるのが一番だ。


 そんな訳で事故防止のために、辺り一面を濡らしてから軽く集中する。


「フレイムミスト……からのボム!」


 水と火の魔法を一緒に操り、通常よりも大きな爆発を起こす。


 知識にあった水蒸気爆発というものを参考にしてみた魔法だが、爆発力だけで言えばかなりのものだ。


 思っていたよりも威力が高く、吹き飛んでしまった……背中が痛い。


 あの賢者も言っていたが、複合魔法は扱うのが難しい……。


 暴発と扱いが難しいデメリットがあるが、それ以外はメリットしかないので、家を出る前に完璧に使えるようになりたいが、数をこなすしかないだろう。


 それから魔力が二割位になるまで訓練をして、最後に軽く森の中を走り回ってから屋敷に帰る。


 使える魔法が火と水のため、汚れても自分で洗えるので重宝している。


 しっかりと綺麗にしてから屋敷に帰っているため、今の所訓練についてはばれていない。


「あっ、兄さんおかえり。どこに出かけてたの?」

「ジオか。父上がサボっていないか、適当な屋根から町を見ていたんだ」

「それって兄さんがサボってたんじゃないの?」

「監視も仕事さ。また父上が深夜帰りや朝帰りすれば、困るのは俺と母上だからな。まあ、昼寝もしていたけどな」


 屋敷に入ろうとしたところで、ジオと遭遇した。


 剣を持っているので、訓練をしていたのだろう。


 うちで学んでいるのは騎士の剣術であるのだが、俺との相性はあまり良くない。


 父上から最低限の腕を認められているが、それ以上は貰えていない。


 騎士の剣とは実直な剣であり、守りに主体を置いている。


 集団戦でこそ真価を発揮するのだが、俺が使っていたのは攻めの剣だった。


 殺される前に殺す。


 そんなものを長年使っていたせいか、しっくりこないのだ。


 一応受けもあるにはあるが、基本はカウンターなので、攻めの受けといった感じだ。


「もう……兄さんは……」

「俺の事は良いから、早く着替えてきた方が良いぞ。母上は夕飯の時間に煩いからな」


 父上と同じ真っ赤な頭を撫でてやると嫌そうな素振りをするが、逃げようとはしない。


 ステラならば手を伸ばした瞬間に叩き落としてくるあれはあれで可愛らしい。


 俺も一度部屋へと戻り、時間になるまでベッドで横になる。


 食堂で待っていても良いのだが、俺はやる気の無い駄目息子なのでこのままひと眠り……。


「居たわね。夕飯の前に話があるから来なさい」


 することは出来ず、ノックもなく入って来た母上に呼ばれてしまった。


 父上ならばともかく、母上に逆らうと大変なので、仕方ないが起き上がるとしよう。






1






 ヴィンセント・アトラゼネ男爵。


 ヴィンレットの父親であり、少ないながらも領地を治めている貴族である。


 赤い髪を短く刈り揃え、赤く腫れた頬を抑えながら、執務室で仕事をしていた。


 頬が赤く腫れているのは妻であるマーガレットに殴られたためであり、今は今日の分の書類仕事をしている。


「来ました」

「来たか……相変わらず、気が抜けてるようだな」

「夕飯まで寝るつもりでしたからね。寝る子は育つらしいですし」


 執務室に入って来た二人に笑い掛けるが、二人共そんなヴィンセントに敬意を払わず勝手にソファーへと座り、メイドの淹れた紅茶を飲む。


 ヴィンセントに取ってヴィンレットはよく分からない息子だ。


 五歳くらいまではそれはもう真面目だったのだが、六歳くらいからはその真面目さが嘘のように消え失せ、毎日ダラダラしていると報告を受けている。


 それなのに執務を当たり前の様にこなし、家庭教師のテストも毎回満点を叩き出し、剣の腕も親目線からしてもかなりのモノだ。


 ヴィンレットが他の貴族みたいに権力を振り回し、暴力を振るっているならばまだしも、ダラダラしてはいるが兄弟の面倒は言われれば見るし、平民に対しても平等に接している。


 よく分からないヴィンレットだが、少し困った事があり、その件で今回呼んだのだ。


「ヴィンレット。学園に行かないってのは本気か?」

「本気も本気。俺ではなく、ジオとステラを行かせてやってよ」

「……」


 王都レイアシスにあるレイアシス学園。


 ヴィンレットならば間違いなく入学が出来るが、学園に通うには膨大な金が掛かる。


 今のアトラゼネ家では送り出せて一人であり、大体の貴族は長男や長女。良くでも次男位までしか通わせない。


 優しさからくる提案……と素直に喜べるほど、ヴィンセントは馬鹿ではない。


 ジオは今年六歳であり、早くても入学までは二年間の猶予がある。


 ヴィンセントの入学金が浮き、更に金を稼げば、ステラも無理なく入学させることは出来る。


「前にも聞いたが、理由は?」

「俺が他の貴族と合わないのは父上が知っているでしょ? 不敬を働くのは目に見えているし、それなら俺よりもジオとステラを行かせた方が良いよ。それに、来年位には旅に出ようと思っていますからね」


 少しだけ威圧感を出すヴィンセントだが、ヴィンレットは全く意に介さない。


 肝が太いというよりは、まるで慣れてしまっている様に見える。


「子供を旅に出させると思っているのか?」

「俺なら大丈夫だって父上なら分かっているでしょ? 迷惑は掛けないからさ」

「親としては迷惑を掛けて欲しんだがな……お前の事だし、駄目だと言っても勝手に出て行くのだろ?」

「いや、最低でも母上から許可を貰うまでは出て行かないですよ。これでも、母上が悲しむのは嫌ですからね」


 不真面目ではあるが、内容的に怒るに怒ることが出来ないのがヴィンセントの内心であった。


 出来ればヴィンレットに跡を継いで欲しい欲しいと思っているが、当の本人はジオを推すばかりで、旅に出ようとしている。


 跡を継がないなら絶縁するなんて気は微塵もないが、親としては安定した人生を歩んで欲しい。


 騎士として戦場で戦い、泥水を啜ってきたからこそ、ヴィンセントはそう思う。


「旅に出て何をするつもりなの? 今は平和とはいえ、盗賊は出るし、国によっては紛争も起きているのよ?」

「まずはギルドに登録して、ダンジョンでお金を稼いでから、行商人をしながら国を回る感じかな。何があっても迷惑を掛けないようにするつもりです」

「子供なんだがら迷惑は掛けて良いのよ。私達はただあなたが心配なの」


 結局のところ、ヴィンセントやマーガレットはただヴィンセントが心配だから旅に出るのに反対しているのだ。


 魔王と呼ばれるロストワーカーが活動していた時より平和とはいえ、子供を一人で旅に出せば生き残る可能性よりも、死ぬ可能性の方が高い。


 聞き分け自体は良いのだが、この件に限ってヴィンレットは頑なに譲ろうとしない。


 ヴィンセントとマーガレットは顔を見合わせて、どうしたものかと溜息をつく。


 せめて成人である十五歳を迎えてからならば、国内限定なら許可をすんなり出せる。


 しかしまだヴィンレットは子供と言える年齢だ。


 このままでは埒が明かないとヴィンセントは顎を擦り、今のヴィンレットではクリア出来ない条件を課す事に決めた。


「お前が決めたならば、これ以上言わない。だが、旅に出たいなら本気の俺との模擬戦で一太刀当てる事だ。クリア出来たら旅に出る事を許可しよう」


 ヴィンレットは親であるヴィンセントが元騎士だとは知っているが、その役職までは知らない。


 そして知っているマーガレットはこの条件があまりにも大人げないと思い、ヴィンセントに軽蔑の視線を送る。


 だがヴィンレットにとってはこの条件はありがたい物であった。


 流石に倒せと言われれば難しいが、一太刀当てるだけならば問題ない。


「分かりました。それなら早速明日の朝お願いしますね」

「……ああ」


 あまりにも素っ気ない返事に、親の威厳が無いのかとヴィンセントは少し落ち込むのだった。



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