鏡と王女
「世界で一番美しい者を答えよ」
王女は鏡に向かって問いかけました。
時刻は夜中の一時です。
「美貌的な意味で言えば、総合評価☆4.98の白雪姫が1位です」
王女はレモンチューハイを一口飲んでため息を漏らしました。
「2位は?」
「総合評価☆4.95のシンデレラです」
王女はわさび味のチーズをかじり鼻で笑いました。
「あたしは何位なの?」
「1086位です」
「それは低いの高いのどっちなの?」
「総合評価☆3.08です。ギリ平均以上です」
「嬉しくない」
カカオ95%の板チョコを噛み砕き、王女は酒臭い息で鏡に詰め寄りました。
「毒リンゴを1085個仕入れてよ」
「初志貫徹は御立派かと思いますが、やり遂げるには時間がかかり過ぎるかと」
「じゃあどうしろって? 1086位で我慢しろって?」
鏡はキラリと光り、答えました。
「1086位はあくまで総合評価の話です。現に先の晩餐会ではエルドラル公爵が『あの女いいケツしてるぜ』と、ワインを片手にボヤいてましたから」
「醜いヒゲオヤジに褒められても嬉しくない!」
「私は良いと思いますよ。王女の体型はま◯ろ物産って感じで、一部のコアなファンにはたまらんのです」
「ま◯ろ物産ってなに!?」
「とにかく、あまり美貌にこだわらず、先ずは交友を広げ自分が好きなタイプが好きなタイプになるべきかと。気になる相手の一人は二人くらいはいらっしゃるのですか?」
「……ま、まあ、ね」
王女は右手と左手の人差し指を合わせながら、恥ずかしそうに応えました。
「誰なのです?」
「……ペンネ国の第三王子」
「ハッ」
「今、鼻で笑ったわね!?」
空の缶チューハイが鏡に向かって飛びました。
「アイツ、バリバリのロリコンですよ?」
「そうなの!?」
「王女には不向きです」
「……」
「手っ取り早く、相性の良い順に言いましょうか?」
「……怖い」
「え?」
「聞くのが怖い」
「大丈夫ですよ。どんな人にも必ず相性の良い悪いがあるのですから」
「……」
王女はワインのコルクを外してラッパ飲みをしました。そして椅子に勢い良く座り、スナック菓子を貪りました。
「聞くわ」
「では」
鏡は短くキラッと光り、答えました。
「相性86%、ファルファッレ国のしがない酒屋のオッサン」
「パス」
「相性82%、コンキリエ国のサラリーマンのオッサン」
「パス」
「相性76%、エルドラル公爵」
「なんでよ!!」
「相性32%、なんか東の端っこの国の大老」
「もう最悪!! オッサンしか選択肢が無いじゃないの!!」
「王女……」
スナック菓子をぶちまけ、王女はテーブルに突っ伏しました。
「意外と良いオッサンかもしれませんし、近場のエルドラル公爵で良いのでは?」
「アイツと結婚するくらいなら、自分で毒リンゴを齧るわ……」
そう言ってヤケになった王女は毒リンゴを齧りました。
「──うっ!!」
「王女!!」
王女は倒れました。
「衛生兵! 衛生兵! 担架とAEDと119番を!!」
王女が倒れたという知らせはすぐに広まりました。
心配した者達が王女のお見舞いに次々とやってきました。
その中にエルドラル公爵の姿もありました。
公爵は寝ている王女にキスをしました。
「……ん、んん?」
すると、王女が目を覚ましました。
「……あたし、助かったの?」
「エルドラル公爵が助けて下さいましたよ」
鏡が泣きながら答えました。
「……公爵」
しばらく寝たきりになっていた王女はすっかり痩せてしまい、ドレスがぶかぶかになっていました。
二人はすぐに仲良くなり、やがて結婚し、末永く暮らしましたとさ。