表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第4章:消える記録

1. 壊れていないのに“失われていた”データ


 事件直後、立花慎吾が使用していた水中撮影用のGoPro本体は未回収だったが、サブ記録媒体(クラウド同期用のノートPC)には、いくつかの映像と音声ファイルが断片的に保存されていた。


 しかし、このクラウド同期フォルダには不審な点があった。

 ファイル名は連番(Dive001~Dive043)で並んでいるが、「Dive027〜031」の5本だけが欠落していた。


さらに奇妙なことに、消去ログが存在しない。ログファイルを解析したIT専門家・村田圭介はこう語っている:

「ファイルが消えた痕跡がない。

 初めから存在していなかったという状態になっているんです。

 でも、フォルダ内のデータ量を計測すると、何かが記録された空白が確実に残っている。」

 

 つまり、目には見えないが、記録されていた痕跡だけがある。

 まるで、何者かが触れられたくない記録だけを引き抜いたように。


________________________________________


2. 編集前の“異音ファイル”


 中でも不可解な資料は、立花のPCから回収された未編集の音声ファイル「AUDIO_TEMP_final_0725.wav」である。

 この音声には、以下のような特徴があった:

 •開始から47秒後、微かなノック音(3回×3セット)

 •2分23秒〜:人間の発声に近いが、反転した周波数構造を持つ音声

 •スペクトラム分析で、波形に“文字列のようなもの”が浮かび上がる


 音声解析を依頼された専門家・工藤圭一は、次のように証言した:

「最初、ただのノイズかと思いました。

 でも、周波数パターンが言語的構造を持っていて、それが“鏡像反転”になっている。

 まるで、音の中に影のような文字が存在しているようです。」


 さらに、音声ファイルを逆再生した際日本語に似た発が1箇所だけ確認された。

 それはこう聞こえる:

 「ここに い ては いけな い」

 

 ただし、音が切り刻まれているため、断定は困難である。


________________________________________


3. 姉妹の証言:「彼は変わっていった」


 立花の妹・由梨は、兄が潜水の1ヶ月前から明らかに様子を変えたと語っている。

「夜中、急に笑いながら風呂場に入っていくことがありました。

 “水音がする方に行かなきゃ”って言ってたんです。

 眠っていても、目を開けたまま何かに返事していることがあって……」



 また、PCの録音ソフトには、どのような経緯で記録されたのか不明な “音声ファイル”が残っていた。

 記録日時は7月25日午前2時14分であり、不可解な音声が残っていた。


「……ここ……きこえる……」

(水の中を叩くような“ぬめった音”)

「……まってた……ずっと……」

(その直後、立花の声で「誰だ……」という呟きの後、無音)


 この録音には、他の音声とは異なる“異常な静寂”が挿入されていた。全体の中で30秒だけ、ノイズも環境音も消え、完全な無になっていた。


________________________________________


4. ダイビングセンターで起きたもう一つの異変


 調査班が事件現場近くにある旧ダイビングセンター(現在は廃業)を訪れた際、無人であるはずの館内で、一つの録音機器が作動可能であることを確認した。


 その機器は、立花が以前、仲間と使用していた会議用の録音レコーダーだった。

 録音機能は停止していたが、メモリの中に1件だけ新たなファイルが保存されていた。


 ファイル名は【nami_35.wav】

 保存日時は、立花が失踪した2023年8月12日 10:42。――彼の最後の通信直後である。


 そのファイルを再生すると、こう聞こえた:

(ゆっくりと波の音)

(遠くでノック音)

「ここに いるのは あなたじゃない」

(録音終了)


 この録音がどこで拾われた音なのかは不明であり、そもそも機器自体が録音状態ではなかったため、「保存された経路が不明」であると言わざるを得ない。


________________________________________


5. 消えた“自分”


 立花が使用していたGoogleフォトのクラウド記録からも、異常が確認されている。

 彼が事件前日に自撮りしたとされる1枚の写真――撮影メタ情報は残っているが、画像データだけが欠落していた。


 さらに奇妙なのは、サムネイルだけが生成されており、その縮小画像を拡大すると、次のような現象が確認された。

 •顔部分が“水面のように波打っている”

 •背景の壁に、“目のような黒い模様”が映り込んでいる

 •写真全体に、ごく薄い“数字の列”が重なっている


 専門家がこの数字を解析したところ、それはASCIIコードであることが判明し、解読された文字列は次の通りだった:

「三十五」


 この数字には何の意味があるのか。

 彼とこの数字に何の因果関係があるのか。


________________________________________

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ