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目覚め

 カイトはいつものように、夜遅くまでオンラインゲームのイベント周回に没頭していた。画面に映る迫り来る敵や、煌めくエフェクトに気を取られながら、彼は「もうあと少しで最強ボスも倒せる…」と自分に言い聞かせ、疲労を感じる隙もなくプレイを続けていた。しかし、ふとした瞬間、胸が激しく苦しくなり、手元のコントローラーが床に落ちた。次の瞬間、意識は闇に沈んでいった。


 しばらくして、カイトは自分がまったく見知らぬ場所にいることに気づく。目を開けると、そこはどこか幻想的な光に包まれた場所で、柔らかな風が頬を撫でる。目の前には、淡い光を纏った美しい女性が立っていた。彼女はまるで天から降りてきたかのように優雅で、静かな微笑みを浮かべながら、穏やかな口調で語り始めた。


「あなたは、選ばれし者です。この世界で、新たな力を手にする運命にあります。」


 カイトは混乱と驚きの中で彼女の言葉を聞く。女神の名は明かされなかったが、その存在感は圧倒的で、どこか懐かしさすら感じさせるものがあった。彼女は続けた。


「あなたには、特別なスキルを授けます。それは『レベル無限』。この力をもってすれば、あなたはこの異世界において無限の可能性を手に入れるでしょう。」


 次の瞬間、眩い光に包まれた感覚とともに、カイトの意識は遠のき、彼の世界は一変した。気がつけば、彼は広大な森の中に立っていた。頭上には、見上げるほど高く伸びる木々が生い茂り、風に揺れる枝葉のざわめきと、どこからともなく聞こえる獣の唸り声が不穏な空気を漂わせている。


 足元には、ぬかるんだ土と枯葉が散らばり、まるで現実離れした風景が広がっていた。カイトは心臓が激しく鼓動するのを感じながら、ゆっくりと周囲を見回す。すると、かすかに動く影が視界の隅を横切った。恐る恐るその方向を見ると、ぷるんとした体をしたスライムが彼に向かって這い寄ってくるのが見えた。


 「これは…一体何なんだ?」

 疑問と不安が入り混じる中、カイトの頭に突如、どこからか文字が浮かび上がる。


「スキル『レベル無限』を獲得しました。」


 画面に表示されるかのようなそのメッセージに、カイトは一瞬立ち尽くした。まるでゲームのインターフェースが自分の脳裏に直接投影されたかのようだ。戸惑いながらも、彼はそのスキルを試すため、意を決して前に進んだ。


 ゆっくりとスライムに近づき、構えを取ると、彼は躊躇なく攻撃のボタンを押した。剣が閃くような音とともに、カイトの攻撃がスライムに命中する。スライムは一瞬のうちに消滅し、カイトの頭上には小さな数字が浮かんだ――「+1」。


 「レベルアップ……?」

 心の中で問いかけながらも、その意味を噛み締める。どうやら、この異世界でも、彼の中に眠るスキルは確かに働いているらしい。さらに数体のモンスターを倒すたび、彼の経験値は通常の何倍にも膨れ上がっていった。どうやら、『レベル無限』は、与えられる経験値が通常の50倍になるという驚異的な能力を持っているようだった。


 あっという間に、たった一日のうちにカイトは、従来この世界で定められた上限レベル「99」を軽く超えていた。そして翌日、ほんの些細な戦闘の末に、彼のレベルは「100」に達する。まさに自分の成長可能性が無限に広がっている――そのことが、今や現実として彼の脳裏に刻まれていた。


 新たな力の存在を実感しつつ、カイトはさらに先へと足を進める。森を抜けると、遠くの方から激しい轟音と共に、炎と煙が立ち上る光景が見えてきた。どうやら、近くの村が何者かに襲撃されているらしい。彼は不安と好奇心に駆られながらも、その方向へ向かう。


 村に着くと、住民たちの悲鳴と怒号が飛び交っていた。建物の一部は炎に包まれ、逃げ惑う人々の姿があった。カイトは混乱の中で、巨大な影を感じた。空を裂くような大きな翼、そして怒りに燃えるような眼光――それは、レベル120に達すると噂される恐るべきドラゴンそのものだった。ドラゴンは、村を無差別に襲撃し、破壊を繰り返していた。


 「こんな相手に……勝てるはずが…」

 心の中で不安を抱きながらも、カイトはすぐに立ち上がった。全身に力がみなぎるのを感じながら、カイトはドラゴンへと向かって一直線に突進した。


 戦いは熾烈を極めた。圧倒的な体格と炎を吐くドラゴンに対し、カイトは素早い動きで対抗する。初めは何度も危機一髪の状況に追い込まれたが、戦闘のたびに彼の戦闘能力は跳ね上がり、気づけば戦闘終了の瞬間、彼のレベルは一気に368にまで達していた。血の滲むような接戦の末、カイトはギリギリのところでドラゴンに勝利し、村に一瞬の平和を取り戻した。


 戦いの余韻が残る中、カイトは自分の成長スピードと、果てしなく広がる可能性に改めて驚嘆した。そして、ふと疑問が頭をよぎる。

 

「この力は……一体何のためにあるんだ? 俺は、ただ強くなるだけでなく、その力をどう使えばいいのか……」


 問いに対する答えは、まだ見えてはいなかった。だが、彼の中には確かな決意が芽生えていた。異世界で得たこの絶大な力を、単なる自己満足のためだけに使うのではなく、この世界で何か意味あることを成し遂げるための鍵にしようと――。カイトは胸の中で、未来への期待と不安を同時に抱きながら、新たな一歩を踏み出した。


 未知なる冒険と、無限に広がる成長の可能性――カイトの物語は、今まさに幕を開けようとしていた。

 


 こうして、平凡なゲームイベント中に倒れた一青年は、女神から授かった『レベル無限』という不思議なスキルとともに、異世界での壮大な冒険へと旅立つのだった。彼の心にあるのは、強大な力と、その力の先に見える未来への期待、そして己の生きる意味への問いであった。

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