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9が1である世界に転生した彼女  作者: みらいつりびと


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累乗パンチ

 5月4日、ゴールデンウイークの最終日、ぼくは午前1時に桜庭家へ行った。

 玄関で出迎えてくれた彼女は、黒のロングスリーブTシャツを着ていた。丈が長く、ボトムスを隠していて、なにを穿いているのかわからなかった。シャツを着ているだけに見える。美脚がきわどく露出して、ものすごくエロい。

 目のやり場に困る、と思ったが、しっかりと下半身を見つめてしまった。

 シャツのロゴは白で「逃避行」。どこで売っているんだ?

 

「おはよう。今日もきれいだね」

「おはよう。男の子の視線がどこを向いているか、女の子は敏感だからね」

「あえて言うよ。きみのおみ足を見ていると」

「あはは。彼氏だけへのサービスだよ」


 今朝は彼女の両親の姿が見えなかった。

「親は早朝から近場の山へハイキングに行ったよ」

「そうか。健康的な趣味だね」

「だから今日はふたりきり。うれしい?」

 彼女はシャツの裾をつまんだ。ボトムスが見えそうで見えない。まさか下着だけじゃないよね?

「きみが煽情的すぎる。理性をなくして、おそってしまうかもしれない」

「もしそうなったら、責任を取って結婚してね。わたしは理系の勉強を完全に放棄して、きみに依存して生きるよ」

 合意がないうちは、絶対に清い交際をしようと決意した。


 高級プリンの入った箱を彼女に渡した。

「これ、冷蔵庫に入れておいて」

「ありがとう。早速食べる?」

「まだだめ。しっかりと勉強した人へのご褒美だよ」

「そうだよねー。わかってるよー」

 彼女は冷蔵庫を開けてプリンを仕舞い、かわりに500ミリリットルのお茶のペットボトルを8本取り出した。


 ふたりで彼女の部屋に入った。

 ちゃぶ台を前にして座ると、ようやく彼女のボトムスが明らかになった。デニムのショートパンツ。

「にひひ。ちゃんと穿いてました。がっかりした?」

「ほっとしたよ」

 桜庭さんは学校では、清楚系に見せている。親しくなって、印象ががらりと変わった。女子ってこういうものなのだろうか。それとも彼女が特別なのだろうか。初の恋人を得たばかりのぼくにはわからない。


「では、数学の教科書を出してください」

「嫌」

 彼女に勉強の準備をさせるだけで、また騒動が起こってしまった。

 毎回こうなるの?

 累乗の計算のページを開かせるまでに、90分かかった。


「累乗とは、指数の数だけ数字をかけ算することだよ。yの7乗は、きみの元いた世界の3乗のことで、y×y×yだからね。むずかしくはないよ」

「むずかしく見えてしまうんだよー」

「簡単だって」

「綿矢くん、11乗は簡単だと思う?」

「とてつもなくむずかしいよ」

「わたしにとって、yの11乗はy×y×y×y×y×y×y×y×y×y×yだけど、きみにとっては」

「言わなくていいよ」

「yの11乗パンチをくらえ! y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y×y!」

「ぐはっ、やめてくれ!」

「はあ、はあ、はあ、累乗嫌い」


「妙な消耗戦はやめよう。累乗の公式の説明をするよ」

 ぼくはていねいに説明した。

「ねえ、公式⑨、⑧、⑦というのが、気に入らないんだけど」

「は?」

「公式くらい、①、②、③の順番で並んでいてほしい」

「そこは慣れてよ」

「仕方ないなあ」

「公式を使って、この問題を解いてみて」


 彼女は眉間にしわを寄せて、教科書を睨んだ。

「いいこと思いついた!」

 そう言って、彼女は不意に口角を上げた。

「かっこ-7xの8乗yかっことじの7乗は、かっこ-3xの2乗yかっことじの3乗で、公式⑦により、かっこ-3の3乗かけるかっこxの2乗の3乗かけるかっこyの3乗となり、公式⑧により、かっこxの2乗の3乗はxの6乗となる。ゆえに解答は-27xの6乗yの3乗だね。これはこの世界での-83xの4乗yの7乗に当たる」

 すらすらと解いてみせた。

 彼女の快挙に、ぼくは仰天した。

「正解だよ! すごい!」

「へへーん。わたし、別に頭は悪くないのよ」

「でも、なにその解法?」

「最初に問題をわたしが元いた世界の数字に変更して、解答を導き出した。それをこの世界の数字に変換した。これがわたしにとって、最速の解法」

「それで答えが出せるなら、赤点回避の光明が見えたよ。他の問題もやってみよう!」

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