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貴族になんかなりたくない!  作者: 斉藤加奈子
第二章

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第47話

 様々な品種のバラが見頃を迎えた庭園の白いガゼホで、一人の貴婦人がティータイムを過ごしていた。月の光を溶かしたような淡いブロンドとアイスブルーの瞳。シンプルでありながら上品なベージュのドレスを着こなしている。その容姿は華やかさと知的な美しさを併せ持った、ジルベスターとよく似た美女であった。


「ロザンナ様、例の治癒士を連れてまいりました」


「ご苦労様。貴女は……ミリアと言ったかしら?」


「はい、お初にお目にかかります。ミリア・ポーンズと申します」


 ロザンナの品定めをするような居心地の悪い視線を浴びながら、ミリアは丁寧なカテーシーを披露する。


「私はジルベスターの母、ロザンナ・ヴェルサスです。どうぞ、おかけになって」


「失礼いたします」


 促されてロザンナの対面に座ると、エレノアが紅茶を淹れてくれた。ロザンナも冷めた紅茶を淹れなおし、口に含むのを見届けると、ミリアもゆっくりと口を付ける。とても香りのいい紅茶なのだが、緊張で全く味が分からなかった。


「どこにでも居る普通の娘ね。ジルベスターったら、どこが良かったのかしら」


「……」


 それはミリアも同感だった。ジルベスターほどの全てを兼ね備えた男性なら、もっと美しく、辺境伯夫人として相応しい女性が居たであろうに。


「単刀直入に言います。ジルベスターと別れて欲しいの。お金はいくらでも用意するわ」


「申し訳ありません……大金を積まれても、私たちは別れられません」


 お金でどうこうなるような仲であるのなら、とっくに別れている。ミリアとジルベスターはその段階をとうに過ぎていた。ミリアもジルベスターの両親に反対されることは予想していたし、ぎりぎりまで抗う覚悟で一緒にいる。


「そう……厄介ね。お金で方が付くタイプなら楽なのに。分かりました。結婚は認められませんが、ジルベスターの側に居続けたいのなら条件があります」


「条件、ですか」


「貴女、聖女になって解呪を習得しなさい。それができるようになれたのなら、貴方たちの仲を認めましょう」


 解呪と聞いて、つい先日呪いを受けた患者のことが脳裏によぎる。禍々しい模様の痣を見てとても痛々しい気持ちになったのを思い出す。


――あれを、私が解呪できるようになる……?


 ジルベスターとの仲が認められることよりも、ミリアの頭に浮かぶのは呪いを受けた患者のことだった。あの命を蝕むという恐ろしい呪いを、自分が治療として癒してあげられる。そう思うと胸の奥の方で熱い何かを感じた。しかし、聖女とは貴族の女性のみがなれるもののはずである。


「私は平民なので聖女にはなれないと思うのですが。それに私は治癒士を辞める訳にはいかないのです」


「治癒士を辞める必要はありません。聖女であっても治癒士は続けられます。居場所を明確にして神殿からの要請があった時に出動できればよいのです。貴女の身分についても問題ないでしょう。昔から、平民であれど魔力量の多い治癒士が生まれることが稀にありました。例えば、貴女のように父親が貴族だった――なんて場合も含めて。貴族が後見人になれば、そのような女性を聖女にしてやれるのです。貴女が真剣に解呪を習得しようと思うのなら、私が貴女の後見人になりましょう」


 当然ながら、ロザンナはミリアの正体を知っていた。ジルベスターと契約結婚をしていたことも、魔力量が貴族並みに多いことも。その上でこの話を持ち掛けているのだった。


「わ、私は……」


「ミリア‼ 大丈夫か!」


 突如後ろの方から大声で呼ばれ、ミリアが振り向くとそこには王城へ行っているはずのジルベスターが居た。余程慌てたのか、息を切らし額にはうっすらと汗を滲ませていた。


「ええ、大丈夫よ」


 ミリアはジルベスターに無事であることを見せるために椅子から立ち上がり、その姿を見せる。ジルベスターはミリアの元へ早足で歩み寄ると彼女の肩をつかみ、辛い目に遭っていないかつぶさに観察するのだった。


「ミリア、母さんに何をされた」


「えっと……」


「いやね。まだ何もしてないわよ」


「母さん、私に黙ってミリアに接触するなんて、どういうつもりですか」


「貴方には、きちんとしたお嬢さんを辺境伯夫人として迎えて欲しいのよ。親として当然でしょう? それでもミリアさんが聖女となって解呪を習得すると言うならば、貴方との結婚は許しませんが、親しいお付き合いを認めましょうと言っているの」


「ミリアが聖女になる必要はありません。私は母さんの許しが得られなくてもミリアを手放す気はありませんので」


「まぁ、呆れたこと」


「ミリア、母さんの言うことを聞く必要はない。解呪なんて不要だ。そもそも聖女になるためには貴族出身の聖女や神官どもと関りを持つことになるぞ」


「そうね。ジルの言う通りね」


 ジルベスターの勢いに押されたミリアはその場で同意をする。貴族嫌いのミリアとしては必要以上の関りを持つのは避けた方がいい。


「今すぐに答えを出す必要はありません。私は三日後に別邸の方へ帰りますから、その前にもう一度返事を聞きます。それまでよくお考えなさい」


 そう言ってロザンナは席を立つと、屋敷の中へと戻っていった。


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