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貴族になんかなりたくない!  作者: 斉藤加奈子
第一章

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第38話

「大変よ!フェルくん!予約が入ったわ!なんと領主様よ!」


慌てた様子でユリアが診察室に入って来た。


「閣下が?どうして…」


主治医のいる人がわざわざ下町の診療所へ受診に来る。フェルナンドは疑問に思った。


「わからないけど、疲労回復を希望するらしいわ」


「ふうん?」


フェルナンドはミリアをチラリと見るが、彼女は目を合わせようとしない。何かしらの理由があるのだろうと思うが、わからない。

ジルベスターが来れば分かることだとこの時は気にしないことにした。


 そしてジルベスターの診療時間となった。他に患者もいなくなった終了間際に彼は現れた。目映いほどの笑顔で両手で抱えるほど大きな花束を持って。


「やあ、ミリア。昨日ぶり」


───昨日ぶり?


ユリアはミリアの方を見る。


───昨日ぶり?


フェルナンドもミリアを見る。

彼女はあわあわして平静を失っていた。


昨日、ミリアはうっかりジルベスターを部屋に招き入れていて、何故かキスされていた。


その時のことを思い出してしまい、顔を真っ赤にするミリアだったが何と返事をすればよいのか分からずにいた。


「診療所の開業おめでとう」


そう言って両手で抱えるほどの花束をミリアへ渡した。


「ありがとうございます…」


紅潮した頬を花束で隠しながらミリアは礼を言った。


「閣下。疲労回復の治癒魔法をご希望とのことですが、一応カルテを作成しておきたいので問診始めてもよろしいでしょうか」


フェルナンドが冷静にそう促して問診を始める。ミリアも花束をユリアへ預けた。


フェルナンドはいくつかの質問をした後、体温、心拍数、血圧を計り、「充分な睡眠が必要ですね」と言って問診を終えた。

そしてミリアが疲労回復をかけて診療を終えた。


「フェルナンド、今からミリアを連れ出しても良いだろうか」


時刻は診療時間を僅かに過ぎた。

診療時間を過ぎても仕事は終わりではない。これから片付けがあるのだ。


「申し訳ありません。まだ…」


ジルベスターの突然のお誘いをミリアは断ろうとした。


「閣下、ミリアは私の仕事上の大切なパートナーです。お戯れはご遠慮して頂きたいと存じます」


フェルナンドはそうきっぱりと断った。フェルナンドは今までの経験上、治癒士の女性は男性人気が高く、貴族に誘われると断りづらいことも知っていた。


「戯れではない。真剣だからこそ、ミリアの上司の理解を得たいのだ。

これからはこの診療所に通いミリアを口説き落とそうと思っている。

そのためには其方の許可が欲しい」


フェルナンドはミリアを見る。

彼女は顔を真っ赤にして硬直しているが、嫌がっている素振りはない。

いつの間に閣下とそんな仲になったのかと思った。


「ただ彼女を傷付けたりしないことと、ここを辞めさせるようなことにならなければ、私が口出すことはございません」


「ありがとう。ミリア、行こう」


ジルベスターが手を差し出した。

ミリアは「行く」とは一言も言っていないのだが、いつの間にか行くことが

決定事項のようで、観念したミリアはジルベスターの手に自らの手を重ねる。


「あの、出かける準備をしたいのですが…」


今のミリアは黒縁メガネに眉墨で描いたそばかす顔。それに仕事用の地味なワンピースにエプロン姿だ。


「ああ、そうだね。気が利かなくて申し訳ない。私は馬車で待っているとしよう。今日は庶民に人気の店へ行くのでいつも通りの格好で」


「はい、急いで参ります」


ミリアは急いで部屋へ戻ると、変装をしていないいつものミリアに戻り、お気に入りのワンピースへ着替えジルベスターの元へと急いだ。



 日は沈み辺りはすっかり宵闇に包まれる時刻、馬車は領都の中心街へと向かっている。二人きりの馬車の中でミリアはジルベスターに質問した。


「どういうおつもりですか」


昨日の突然のキスといい、先ほどの突然の口説き落とす宣言といい、ミリアは振り回されっぱなしだ。


仮初の夫婦だったころの方が適切な距離感を保っていたような気がする。

今になってこの態度はなんだというのか。


もともとミリアもジルベスターに対して少なからず思いを寄せていた。

しかし身分があまりにも違い過ぎることや、二年で離婚すること、『君を愛することはない』と言われたこと、そしてジルベスターを信奉する部下や使用人から嫌われることなどから、恋をすることなど憚れる相手だった。


「君と仮初の関係でいるときから、君のことは気になって仕方がなかった。しかし私の地位や王族であったこと、私を取り巻く全てのものが君を正式に妻にすることは許してくれなかった。

だから王都へ行った際には、聖女との縁談を進めようとしたさ。

しかしなかなか利害が一致しなくてね。しかも婚約が正式に決まる前だというのに、私が大切に思っている人に危害を加えるという勘違いをしてくれてね。それならばいっそのこと聖女など要らない。私は私の思う人と一緒になろうと考えたのだ」


ジルベスターは怖いくらいに真剣な眼差しでミリアを見つめた。


『大切に思っている人』『私の思う人』それは明らかにミリアのことを言っている。

あまりの真剣な眼差しにミリアは目を逸らすことができなかった。

この人は本気なのだ。戯れでちょっかいをかけているのではないのだとミリアは感じた。


本心は嬉しかった。

自分の気持ちに正直になってこの人の胸に飛び込めたらどんなに幸せか。そういう思いもある。


しかし、裁判で正式に平民となったミリアと、王族の籍から抜けたとはいえ紛れもなく尊い血を受け継ぐジルベスター。

もう二度と、仮初だとしても結ばれることのない相手だ。


「では、私を愛人にでもなさるおつもりですか」


ミリアは貴族になるのも勘弁だが、貴族の愛人になることも勘弁だ。

愛人になったら、ブリジットのような本妻に虐げられながらジルベスターの帰りを待つだけの未来しか想像できない。


「いや? 君を愛人にして君の自由を奪うつもりはないよ。君は君らしく生きて欲しい。私は自分の人生をしっかりと自分の足で踏みしめて歩く君が好きで、そんな君に側にいて欲しいと思っている。

そうだな。敢えて例えるのなら私が君の愛人になろう。私を囲ってみないか」


最後の方は悪戯っぽく微笑んでジルベスターは言った。


───は? 愛人? あいじん? 閣下を愛人?


ミリアはジルベスターが何を言っているのか理解できずに、目をまんまるにして固まっていた。

ジルベスターはそんなミリアを見てクツクツと可笑しそうに笑う。


ほどなくして馬車は目的地に着いた。


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