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月と逃亡

俺はいつの間にか包丁を手に男に朝比奈に突進していた。


ナイフは朝比奈の腹の真ん中を直撃していた。


どすんという音と共に朝比奈は倒れた。ぬるりとした感触が手に伝わる。気持ち悪い。


ナイフで朝比奈を指したものの、まだ死んでいなかった。朝比奈は小さな声でぼそりぼそりと何かを言っている。


俺はナイフを片手に立ち尽くしていた。


人を、刺してしまった。


その事実を受け入れられずにただ朝比奈をみつめていると、涼介がするりと猫のように俺の手からナイフを奪い取り、朝比奈に馬乗りになった。


それから、高々とナイフを持ち上げ、勢いよく腹を狙って振り下ろした。


朝比奈の苦し気なうめき声と共に鮮血が流れ出ている。涼介はまた、ナイフを振り上げ、今度は肩にナイフを突き立てた。涼介は朝比奈の皮膚を、内臓を裂くことをやめない。ナイフが脂肪を切り裂く音がひたすら聞こえる。


いつからだろうか、朝比奈は息をしていなかった。それでも涼介は腕を振り上げ、めちゃくちゃに切りつけていた。


「涼介、もういいよ。帰ろう」俺はやっとのことでそう言った。


ベッドの上の男二人はいまだセックスを続けている。喘いで、逝き、逝っては喘えぐ。その繰り返し。


生々しい人間の快楽がここに存在している。


涼介の白いシャツには赤黒い血液が何かのアートかのように。べたりとついている。涼介の手を引き、誰にも見つからぬように部屋を出て、非常階段を駆け下りた。


外はいつもの夜の匂いが立ち込め、少しだけ固まっていた心が緩まる。


月が涼介の髪と同じ色で輝いていた。


「月、綺麗だね」俺は言った。


「うん」


「二人して、犯罪者か」


「うん」


「二人で何処かに逃亡する?」


「うん。ニューカレドニア行きたい」


「どうして?」


「湊、透き通るような綺麗な海をみたいって言ってたから」


「よく覚えてるね」


「二人で金が尽きるまで綺麗な海みて、猫と戯れて、酒飲んで、それで疲れたら一緒に死の?」涼介がとびっきりの笑顔でそう言って笑った。


血がついた真っ白なシャツを着て月明かりに照らされて微笑む涼介は、悪魔にも天使にも見えた。


湊と一緒なら生きる意味なんてなくてもいいや。俺は心からそう思った。


どこか遠くで猫の鳴く声が聞こえた。



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