ss 幻想入り(JP作) JP視点
じぇーぴーさんが書いたssとなります。
「西村、ここは流れ切っていくぞ」
「わかってる」
キャッチャーとマウンドで会話を交わし、投球準備に入る。
2アウト1・2塁。1本出れば同点に追いつかれるピンチの場面だ。
俺は2球続けてストレートを投げ込む。1球目は見逃してストライク、2球目は振ってきたがファール。
(よし、ここはスライダーしかないだろ)
3球目。渾身のスライダーを投げ込む。打者のバットが空を切った。
「ナイスピッチングだったな!」
チームメイトにそう声をかけられながら、マウンドを降りた。
俺の名前は西村 拓真。大学の一年生だ。一年生ながら、チームのエースを張っている。
小さい頃に見たWBCで感銘を受け、野球の道へ進んだ。今はプロの野球選手をめざして、日々トレーニングしている。
野球はするのも、観るのも好きだ。野球のゲームもやっている。ユーザーネームは「将来は日本を代表するプロ野球選手になってやる」という思いを込めた「JP」にしている。ネット全体での名前も同じだ。
「今日は7回無失点か……。いつもの事ながら、いい投球だったな」
「はい、ありがとうございます」
監督との会話はいつもこんな感じだ。たまに打ち込まれると、一緒に修正点を考えてくれるいい監督だ。
「さーて、今日は疲れる試合だったな。無理せずに帰って休もう」
俺はそう呟くと、球場から出る道を歩き出した……はずだったのだが。
「ん……?ここどこだ?」
気がつくと俺は、大きな館の前に立っていた。迷ってしまったのか?と思ったのだが、なぜかその館には見覚えがあった。
「もしかして、これって、紅魔館? ……いや、そんなわけないか」
紅魔館。幻想郷にあるといわれる、大きな、紅い館。吸血鬼の主がいる、あの館だ。しかし、そもそも幻想郷自体がゲーム内の存在だと思っているから、自分の目の前にそれがあることが信じられない。
とりあえず(希望は薄そうだが)、誰かいないか周りを見てみることにする。すると、
「……いた」
いた。しかも、ゲームで見た事ある人が。
「美鈴さんだよな、これ?相変わらず寝てるけど……」
……と。後ろに気配を感じた。
「あなたも外の世界からやってきたのですか?」
その声に反応して振り向くと、そこには咲夜さんが立っていた。
「あ、たぶん、はい、ソウダトオモイマス」
「やっぱり……。たぶん紫にでも連れてこられたのでしょう。実はもう1人、そういう方がいまして」
「ソ、ソウナンデスカ」
「その方との接点も見つけられたら嬉しいので、一度中にお入りになってください。……そうだ、お名前を聞くのを忘れていましたね」
「ニ、ニシムラタクマトイイマス。ア、アリガトウゴザイマツ」
咲夜さんに連れられ、中に入る。そして図書館に行くと、なんだか見覚えのない影が……
「あれ、あんな人紅魔館にいましたっけ?(小声)」
「あの方が、どうやらあなたと同じく外の世界から来た方のようで……あちらの世界では男性だったようなのですが(小声)」
「そんなこともあるんですね……ちなみに、なんと言う方なんですか?(小声)」
「ネットでのハンドルネームは『ゆうフラ』と名乗っていたそうなんですが(小声)」
「えっ!?」
思わず普通に驚いてしまった。ゆうフラさんといったら、ネット上で同じ配信を見ていたリスナー同士だ。
「……その様子だと、ご存知のようですね」
「あっ、は、はい……」
図書館の外に出てから、俺は事情を説明した。
「なるほど……これは何かあるかもしれないですね……。とりあえず、次はお嬢様の所へ行きましょう」
「……という次第です。ゆうフラ様との接点も確認できました」
「ご苦労だったわね、咲夜」
この会話を、俺は紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの部屋で聞いている。ものすごく緊張して、心臓が口から飛び出す勢いだ。
「……それで、あなた」
レミリアさんがこっちを向いた。
「とりあえず、この世界に住む場所がなさそうだから、暫くここに居させてあげる。何か欲しいものはあるかしら?」
「んー……野球場ですかね!」
深く考えずに言った、その瞬間。
「お嬢様!裏庭に野球場が出現しました!」
「「えっ!?」」
俺とレミリアさんが同時に叫んだ。
(そうか、この世界に来たってことは、今の俺には何かしらの能力があるってこと……で、いいんだよな?)
「あ、あの、実は自分の能力がまだ把握出来てなくて……。あれ、完全に俺のせいですよね?」
「そういうことだったのね……。試しに、他に欲しいものを言ってみてちょうだい。規模の小さいものでね」
「そうだなあ……。じゃあ、『プロスピ』!」
その瞬間、俺の手の中に確かに「プロスピ」が出現した……のだが。
「古っ!?」
それは「プロ野球スピリッツ4」。2007年度版のデータのものだった。
「これじゃなくて、『最新のプロスピ』が欲しいんですよね……」
すると、俺の手には最新版の「プロ野球スピリッツ2021」が出現していた。それを見ていたレミリアさんは、「面白いわね」と言い、
「貴方はまだ気づいていないけど、その力、相当強力なようね。分かったわ、あなたをこの紅魔館の『最終兵器』に任命するわ」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「出番までは、大好きな球場で好きに過ごしていてちょうだい」
「それでいいんですか!?」
「運命がそう言っているわ」
「はあ……。ありがとうございます」
かくして、俺はこの紅魔館に住むことになったのだった。
「じゃあねー!」
「また試合やろうぜ!」
どうやら幻想郷にも野球という概念はあったようだ。時々みんなで集まって野球をしている。
ある日、試合が終わってから、俺は自分の能力について色々試してみることにした。
「どうしようかな……。じゃあ、『ボールとバット』でどうだ!」
しかし、俺の手の中に出てきたのは、調理用具の「ボウル」と「バット」だった。
「おいおい、これじゃ野球少年じゃなくて料理男子じゃねえか……。アバウトすぎるとちゃんと出てこないみたいだな」
その後、「プロの選手が使うような木製バット」と「硬式野球で使われるボール」、それから「左投手用の野球グローブ」で、俺が使える野球用具は手に入った。ちなみに、単に「木製バット」だけだと、確かに木製だけど中がスッカスカの使い物にならないバットが生成されてしまった。
それらを使って色々と練習をする。幻想郷に来てから、なぜか体が軽いような気がする。幻想入り補正なのだろうか……なんてことを考えていたら、誰かが球場に入ってきた。
(これは……また現実から来た人かな?)
みなりはかなりしっかりしている人だ。
「どちら様でしょうか?」
「あ、JPさんですよね?僕、友人Aです」
「マジですか!?」
友人Aさんと言ったら、俺やゆうフラさんが観ていたチャンネル「友人AB」の片方だ。
「Aさんもこっちに来たのか……。で、要件は?」
「ああ、中で色々やってきたんですけど、力が足りないってことで特訓をしたいんですよ」
「えっ、それ、本当に野球でいいんですかね……?」
「まあ、あの人たちがそう言うなら間違いないでしょう。頑張ります」
「分かりました……。じゃあ、容赦なく行きますよ!手始めに『1800gのバット』を使いましょう!」
俺はそう叫び、Aさんの手に「1800gのバット」を生成した。あまりの重さに困惑するAさんをよそに、俺は続ける。
「さあ、プレイボールです!」