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ラプラスの人工天使  作者: 仮称
冒険者試験編
6/8

ACT5/ラプラスの天使

 ――古今東西、ありとあらゆる攻撃、魔法を無効化する。

 完全なる防御。


 かつて伝説級と呼ばれた、世界一の結界術師がいた。

 その評価は伊達ではなく、間違いなく有史以来最高であった。


 一般的な結界魔法使い。

 彼らの張れる結界の大きさの限界は3m前後。


 世界記録に限れば、現代においても"4m21cm"とされている。

 トップクラスのエリートですら、その1㎝、1mmを競うのだ


 そんな中。

 昔の大戦において激戦区に駆り出された彼は、空母の側面138mに巨大な防壁を張った。

 受け止めた弾丸114652発、魚雷23機、ミサイル4発。

 展開された時間は24分11秒間。


 大戦が終わった後、生き残りがその事実を上に報告したのだが、誰も信じなかっそうだ。


 補足すると、流石の男も、100m越えの結界を1枚で生み出したわけではない。

 3m大の小粒な結界を大量に展開したのだ。

 普通は1枚で手一杯なところを、男は神掛かり的な技量でそれを制御した。


 まさに伝説と呼んで差し支えない天才魔法使いであろう。

 結果運悪く細かい結界の隙間を縫った一発の爆雷が、船を燃やし、彼の命と共に伝説も失われた。



 それから幾百年の時を経て。

 1人の少女が生まれた。

 天の使いとしての役目を生まれながらに背負った、使命の子。


 彼女の名はエソラ。

 少女もまた天才であった。

 それも正真正銘、天から贈られた才能。


 ――言葉とは残酷なもので、程度に差があれど天才と一括りにされてしまう。

 某英雄の結界の名は『膨大な盾(シールズ)


 そしてエソラのそれは『城塞(セント・ジョン)結界(ザ・ディヴァイ)』と呼ばれた。


 あえてもう一度記述するが、"膨大な盾"の範囲は『138"平方"メートル』。


 一方、エソラの展開した結界の範囲は『11,200"立法"メートル』。

 それもたったの一枚で。


 それこそがエソラ、またの名を『絶対防壁(ラプラス)の天使』の能力"であった"。

 彼女が能力を使役できた頃は、エソラこそが間違いなく世界最強であっただろう。



 ――早い話が、伝説級の防御魔法に激突した結果、トラックが逆に押しつぶされたのだ。


 達也がエソラの手を引いて、トラックから距離を取る。

 すると数メートルほど下がった辺りで、車体周囲の空気が大きく膨張。

 タイミングを見計らったかのように、エンジンが赤黒い煙を吐いた。


 轟轟と立ち上がる火煙が周囲を黒色で包み、溢れた煤がレンガを汚す。

 エソラは口を小さく結ぶと、無言で事故現場に手を合わせている。


 ポンッと、そこで熱されたホイールが小さく弾けた。

 外れたタイヤやら、ワイパーが周囲に飛び散り、達也の足元へも黒いモノが転がる。


「アレ、これって」

 それはオイルに汚れた携帯端末であった。

 電話の進歩も、この世界にきて達也が驚いたモノの上位に入るであろう。


 画面だけの薄型の端末。

 なんと薄さが数ミリ足らずなのだから。

 それにも拘らず、落下等の衝撃にも耐えうる頑強さを持っているようだ。



 達也が画面に触れると、それは小さく青い光を放つ。

 彼はエソラに手渡して、この世界での救急車に当たるものを手配させた。

 わざわざ警察に事情を話すのは面倒だったが、かと言って、このまま放置するのも、それはそれで気が引けたのだ。


 しかし、

 ダメみたいと、エソラは腕でバツを作っている。

「掛かる事には掛かったんだけど、忙しいから後にしてくれって」

 通話が切られてしまったようで、エソラは残念そうに達也に電話を返す。

 どうやら電話の向こう側がやけに騒がしかったらしい。


 事故現場からの通報を突っぱねるだなんて、普通ではない。

 他の場所で事件か事故でも起きたというのだろうか? と達也は首を傾げる。

 ならば仕方ないと、大破した車の脇に携帯を置き。達也らはそこを後にする。

 目的地までは遠かったが、まだ間に合うだろう。


 過去の出来事を、ただ過去の出来事として、記憶にだけ留める。

 事故であり、尚且つ向こうが100%悪いとはいえ、古賀らはあまりに"あっけらかん"としていた。

 確かに合掌こそしていたが、気持ちとは、そう簡単に切り替えられるものだろうか。


 一体どれだけ多くの人間の死を目にし、または死に追いやったのだろう。


 彼は小さく唇を噛む。

 茶髪の男には想像できなかった。

次話は21日

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