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ラプラスの人工天使  作者: 仮称
冒険者試験編
5/8

ACT4/絶対防壁

 しかし、ビル有り、マンション有り、信号、車有りとまでなると。


 当然。

 異世界も何でもなく、ココは地球なのではないか。


 ――そう思わせられるのだが、古賀にも残念な事に、

 幾ら調べようとも、米国(アメリカ)を始め、日中、ドイツと先進国の名前が軒並み見当たらないのだ。

 図書館で文献を開こうが、本屋で世界地図を覗こうが、どれを取っても達也の知る地球とは似ても似つかぬソレであった。



 結局ココは魔法が存在する、地球に極めて近しい世界と考える他ないのだ。

 言わばパラレルワールドの様なものだろうか、古賀からするとまるで未来の世界であった。


「これだけ文明が進んだのに、B(バック)T(トゥザ)F(フューチャー)は実現しないんだな」

 文明が地球よりも進んでいるとは言え、車が空を飛ぶことはまだない。

 エソラからそう聞かされた達也は、少し残念そうに舌に歯を当てる。


「BTFって何ですか?」

 長々と続いた古賀の地の文に、久しぶりに割り込んだのは茶髪。

「ん、あー『時を駆けるくるま』の話だ」

「それは大変興味深いですね!」


 茶髪の大げさなリアクションに、古賀は一瞥もくれず。

 ポケットに右手を突っ込むと、もう一切れのピザを取り出した。

 うげぇ、と苦い顔のエソラを前に、素知らぬ顔で彼は糸くずの付いたそれを頬張る。


 一方茶髪は動じずに爛々と目を輝かせている。

「詳しく聞きたいです」

「ある日理科室で、ラベンダーの芳香剤を嗅がされた自動車が、タイムリープ。つまり過去に戻る能力を手に入れるんだ」


理科室(リカシツ)……ほうほう、それで?」

 コクコクと頷く茶髪に古賀は続ける。

「あー……最終的にその自動車は『未来で待ってる』って恋人に言われて」

「未来で……ほう。時間移動モノならありそうですね。それで、なんて返事したんですか」

「『すぐいく。走っていく』だったはず。以上」

「ほうほう……へあっ!? ちょっと待ってくださいよ、あまりにスムーズ過ぎて気づきませんでしたが、車の恋人って何ですか。話飛びすぎでしょう!」


 詳細を催促する茶髪へ、適当に手のひらを振る古賀。

 ぺちゃぺちゃとオリーブの油が飛び散った。

 むきーっと怒るエソラをよそに、古賀は横断歩道を曲がる。


 古賀が最後の一口を喉奥へ押し込んだと同時に、


 そこにトラックが突っ込んだ。

 何の伏線もなしに、彼らの元へ唐突に高速の鉄塊が迫る。


「なっ!?」

 建物側へ逃げようとした茶髪だが、体勢を崩して思い切り道路に倒れ込んだ。


 古賀が彼の襟を掴んで、道路側に引きずり戻したのだ。

 一方古賀らも逃げるわけでもなく、右側に棒立ちのエソラと並んでいた。


 ――頭がおかしい(イかれてん)のか!?

 茶髪は顔面に驚愕の色を浮かべ、ダラダラと冷たい汗を流す。

 彼の顔面には、恐怖を通り越した困惑と、脂汗を含んだ頭髪が張り付いていた。


 しかしそれもほんの一瞬の事。

 車と彼らのリーチは短く、助走が30m足らずの短距離走。


 なんせ時速にしておよそ142㎞。重量にして22トン。

 衝突の衝撃は爆弾にも相応するだろう。

 事実、粉々に押し潰れてぐしゃぐしゃの塊になった。


『トラック』が。


 高速でエソラに衝突したトラックの前面は、クシャクシャに丸めた紙の様に圧縮されていた。


 本来であれば、エソラ、古賀、茶髪の順にミンチへと、変えるはずであった殺人マシーン。

 それはエソラに触れた時点で、衝撃(エネルギー)の全てを一身に引き受けた。

 例えるならまるで、研ぎたてのナイフをふかふかのケーキの上に沈めるよう。


 スポンジに刃を入れるが如く鮮やかに、数十トンの重金属が切断される。

 それら全てを余すところなく、茶髪の男は目の当たりにした。


 古賀に差し出された手を掴んで、立ち上がった茶髪の男は、今更思い出したかのように恐る恐る振り返る。

 二つに割れたトラックがビルへと突っ込んで、それぞれ炎と煙を吐いている。

 搭乗員らの下半身は熟しすぎた桃の様に潰れて、千切れた上半身がフロントガラスに干されていた。


 思わず言葉を失って、茶髪は青ざめる。

 何より恐ろしかったのは、"逃げた先がその進路であった"という事。

 古賀に転ばされなければ、自分までミンチの一部になっていただろう。



 最強能力議論の筆頭。

『ありとあらゆる物理攻撃、ありとあらゆる魔法攻撃を無効化する』

 つまりは、完全な防御。


 "絶対防壁"とは少女エソラの二つ名である。

今日中に上げるので、もしよければご覧ください

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