第1話 心の動く方へ
体に、ビビビッて電流が走ったような。そんな感じがした。
ドキドキがおさまらなくて、気がついたら動画配信サイトで何度も見てる。
私にとって高校生アイドルは、そんな存在なんです!
ハマったきっかけは、東京都にある私立英才大学附属高等学校のアイドル、World Word WondersのPV。
去年の秋、高校2年生の修学旅行で東京に行った時。街頭のビジョンに映っていた『BADEND』という曲のPVを見た瞬間、私の目はビジョンに釘付けになっていた。
なかでも一番心を動かされたのは、曲中最大に盛り上がるところ、センターのアガーシャのソロ。
【BADENDどうせラストなんて
もう決められているでしょう
どれだけ足掻いたって
良いものに変えることは出来ないの】
アガーシャの綺麗な金色の髪がぶわぁっ!て広がって、ゴシックな黒の衣装と、衣装の腰あたりから生えてる黒い羽根が風で揺れる。そしてアガーシャが歌い出すと、アガーシャの綺麗な歌声がその場を支配するのだ。
その光景を見た瞬間、私はもう、World Word Wondersの虜になっていた。
修学旅行から帰るとすぐに、World Word Wondersの公式サイトを探し、サイトにアップされている曲を全部聞いた。ダンスも覚えて、完璧に踊れるようになった。チケットは取れなかったからインターネット中継で見たハイドラ決勝戦では、他のチームを圧倒するパフォーマンスに言葉をなくしたものだ。
センターのアガーシャはもちろん、アリス、ヴァイオレット、ジュミにティー。みんなみんなかっこよくて、ダンスも歌もすごくて。素人の私には、難しいことや専門的なことなんてわからないけれど、高校生に絶大な人気を誇るのも頷けるほどのクオリティ。
なによりすごいのが、メンバー全員が外国籍であるにも関わらず、日本語が流暢だということだ。
イタリアと日本のハーフのティーはともかく、ロシア人のアガーシャ、フランス人のアリス、アメリカ人のヴァイオレット、韓国人のジュミ。ティーも国籍自体はイタリアで登録しているらしいので、正真正銘、メンバー全員が外国籍のユニット。
だけど、サイトに載ってる、World Word Wondersが作った学校紹介ビデオで話すみんなは本当に外国人?と疑いたくなるぐらい流暢な日本語を喋ってるんだ。
その姿は、昨年のハイドラ女子部門王者に相応しく、また、『ハイドラ史上最強のユニット』と謳われるだけあると思う。
すごい…本当に、すごい。
私も、あんな風になりたい!
こんなにドキドキしたのは初めてで、こんなにも何かをやりたいと強く思ったのも初めて。
私も、メンバーを集めて、皆であのステージに立ってやる!優勝してやる!
私は今高校3年生で、進路とか受験勉強とか、大変だってことはわかってる。それに、今まで勝ち残ったのは関東の学校が多かったから、東京から遠く離れたここ広島で勝ち上がるなんて、夢のまた夢かもしれない。色んな人に止められたり、笑われたりするかもしれない。
それでも、やりたい!どんな困難があっても乗り越えて、いつかあのステージに、仲間と一緒に立ちたい!3年の私が高校生アイドルの大会であるハイドラに出られるのは、今年が最後。だから…どんなに大変でも、やりたい!後悔なんてしたくないから、何事も全力で頑張って、夢も進路も叶えてみせる!
そう思いながら、私は自分の通う学校…私立空ヶ丘女学院へと歩き出した。まずは、親友の颯姫と実莉に声をかけよう、と心に決めながら。