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「少し話をしようか?」と桜のお父さんは言った。
「……でも、そろそろ準備をしないと」桜は言う。
「お祭りの祭祀にも関係あることなんだ」
にっこりと笑うお父さんの顔を見て、桜は「はい。わかりました」と言って、話を聞く姿勢になった。
「私の話というのは、この小森神社の祀っている神様の由来というものなんだ」と桜のお父さんは言った。
小森の伝説は生前にお母さんから聞かされたので、桜もよく知ってる話だった。
小森の伝説
古の時代、二人の、お互いに愛し合っている男性と女性が、家の事情によって離れ離れになってしまうお話。その二人を結びつけたのが、この小森の地に住む女神様であるという話。小森の地でその二人は幸せになり、この場所に神社を建てて、その女神様を祭り、毎年、女神様に感謝のお祈りをしたというお話。
ところどころ伝承がかけているところがあるので、断片的なお話になってしまうのだけど、ようは小森神社とは恋人たちを結びつけるために、建てられた神社だということだった。
それは単純に恋が叶えばいいということではなくて、人と人が出会うこと、人が人を愛するということに、もっと深い意味を見出している神話である、それは本当に尊い価値、あるいは意味があることなんだと桜のお父さんは言った。
「私もこの小森神社の鳥居のところでお母さんと出会ったんだ」と桜のお父さんは言った。
「うん」桜は言う。
その話も、やはりお母さんから聞いて、桜も知っていることだった。