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それから二人は二年前にはすることのできなかったデートをした。
桜と楓は恋人同士ではなかったけど、こうして友達としてデートの真似事をすることができるくらいには二人はこの二年の間、中学生から高校生になるまでの間に、成長することができていた。
二人は電車に乗って移動をして、公園を散歩して、本の読めるカフェによって、買い物をして、音楽の聞けるレコード店によって、それから匠先輩がバイトをしているレストランで食事をした。
その日は匠先輩がお店で働いていて、桜と楓を見て、「彼氏?」と桜に聞いた。
桜は匠先輩に「違います。友達です。名前は小町楓くん」と楓のことを匠先輩に紹介した。楓は「初めまして、小町楓です」と匠先輩に挨拶をした。
匠先輩は礼儀正しい楓のことを桜の友達として、認めてくれたようだった。
「匠先輩。高校三年生なのにバイトしていて大丈夫なんですか?」桜は聞いた。
匠先輩の通っている北高は東京でも有名な進学校だった。
「まあ、大丈夫ではない。そろそろやめることになるかな?」と匠先輩は珍しくちょっとだけ悲しそうな顔でそう言った。
レストランを出ると、二人は小森神社の近くまで戻ってきた。
春なら桜が満開の逢坂も、今は緑色の葉をつけた若木が生い茂っているだけだった。逢坂は桜の名所でもあるのだけど、でも、それはそれで、綺麗な風景だと桜は思った。
「……小森さん。最後に話があるんだけど、聞いてくれるかな?」と楓は言った。
「うん。いいよ。なに?」
デートの時間ですっかり楓と仲良くなった桜は、何気なく楓のほうを振り向いた。するとそこには本当にまっすぐな目で桜を見ている楓がいた。
そんな楓の顔を見て、桜は自分の鼓動が高鳴ることを確かに感じた。