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翌日、桜は楓と会うために神社の近くにある喫茶店に向かった。
約束の時間よりも巣こそ早くに着いたのだけど、楓はもうお店の前に立って桜のことを待っていてくれていた。
楓はやってきた桜を見ると、本当に嬉しそうな顔で笑った。
「ごめんなさい。待ちましたか?」桜は言う。
「ううん。そんなことない。全然待ってなんかないよ」楓は言う。
それから二人は一緒に喫茶店の中に移動した。
桜はこの日、結構しっかりとおしゃれをしてきた。こうして外で、きちんと約束をして、男の人と二人で会ったりすることは、桜にとって人生で初めての経験だった。
色々悩んだのだけど、桜はこの日、ピンク色のワンピースをきていた。髪もきちんといつも以上に手入れをして、化粧も念入りにした。もし鈴がこの日の桜を見たら、思わず含み笑いをしてしまうくらいには、今日の桜はいつもの桜とは少し違う桜だった。
「小森さん。その服、よく似合っているね。それに小森さん。すごく綺麗だよ。昨日もびっくりしたけど、今日もすごくびっくりしちゃった」と席に着くと楓は言った。
「ありがとう、小町くん」照れながら桜は言う。
なんだかお遊戯会みたいだと思ったけど、まあ、始めはみんなこんなものでしょ? と桜は自分自身に言い訳をする。
楓は昨日とあまり変わらないゆったりとした白い上着に、下にゆったりとした紺色のジーンズというラフな格好だった。
「ご注文はお決まりですか?」
店員さんがやってきたので、二人はアイスコーヒーとケーキを注文した。