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……まあ、でも幽霊なんているはずないか。
小森桜は巫女なのに、神社の娘なのに、幽霊とかあの世とか、……あとは占いとか前世の記憶とか、そういったオカルト的なものをまったく信じていなかった。
桜が鳥居のところまで行くと少年が桜をじっと見つめた。
桜は「こんばんは」と言って頭を下げてから、鳥居をくぐり、石階段を上って、自分の家である小森神社まで帰ろうとした。
「あの、すみません」と少年は言った。その声はとても澄んだ声だった。
少年から声をかけられて桜はびっくりしたが、その声があまりにも澄んだ、綺麗な声だったので桜は「はい、なんですか?」と言って立ち止まって少年のほうを振り向いた。
「……あの、もし間違っていたらごめんなさい。あなたは小森桜さん、ですよね?」と少年は言った。
自分の名前を呼ばれて桜はすごく驚いた。
「はい。確かに私は小森桜ですけど、……どうしてそのことを知っているんですか?」桜は言う。
すると少年はにっこりと、桜を安心させるように笑った。
「僕、楓です。小町楓。小森さんは僕のこと、もう覚えてくれていませんか?」と言って、楓はじっと、きょとんとしている桜の顔を見つめた。