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桜の家出は三日で終わった。
それは儚い抵抗だった。
桜が夜に小森神社に帰ろうとした際に、鈴は「遅い時間だし、送っていくよ」と言ってくれたのだけど、迷惑をかけちゃったし、考えごとをしたかったので、桜はその申し出を「ありがとう。でも、大丈夫だよ」と言って断った。
桜は鈴にさよならをした。そんな桜の後ろ姿を鈴は心配そうな表情で見送っていた。
帰り道、逢坂と呼ばれる出会いの名所で桜は一人「はあ」とため息をついた。
なんだかすごく鈴に差をつけられてしまったような気がする。……これが恋の力なのだろうか? それとも、ただ単に鈴の努力が実を結んだってことなんだろうか?
桜は考える。
……いや、律くんの出会いは、律くんとの恋は、きっと、きっかけに過ぎない。
変わったのは、成長したのは鈴の力だ。
だって、もしこれが恋の力のおかげだとしたら、私は、たとえばもし、違う世界の違う運命の中で律くんと付き合えたとしても、今の鈴のようになれたかというと、たぶん、なれていないから。
私なら、きっと、もっと律くんに甘えちゃう。
それでどんどんだめな方向に二人で向かっていっちゃうような気がする。
結局、やっぱり律くんと鈴はお似合いの恋人同士なんだ。
……いいな。
桜が小森神社の鳥居のところまでやってくると、そこにある街灯の明かりのところに、一人の桜と同じ高校生くらいの少年が立っていた。
少年は背が高く、上も下も、真っ白な服をきていた。少年は青白い顔をしていた。少なくとも健康的ではない。髪も自然のまま、と言うかぼさぼさだった。
少年は逢坂を登ってきた桜に気がついてこちらを向いた。
その少年を初めて見たとき、もしかしたらこの少年は幽霊かもしれないと、小森桜はそんなことを思った。