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周囲のクラスメートたちも少し緊張していた。
二人が大の仲良しであり、幼いころからの親友同士であることは、みんなが知っていることだったからだ。
その日、二人が初めて話をしたのは放課後の時間になった、誰もいない一年二組の教室の中だった。
白いカーテンが風に揺れている。窓の外には青色の空が広がっている。
真っ白な教室の中には二人のほかに誰もいない。
教室の中には、池田鈴と小森桜の二人だけが存在している。
二人は窓際のところに立って、鈴は教室のほうを、桜は青色の空のほうを見ている。
「……話ってなに? 鈴」桜が言う。
自分からは言わないつもりだったけど、桜は鈴にそう言った。
放課後の教室で待ってる、そんな鈴の文字の書かれた四角いノートの切れ端の手紙が桜のもとに回ってきたのは午後の英語の授業中だった。
鈴から桜への手紙。
大切な親友からの呼び出しの手紙だ。
「律のことだよ」鈴は言う。
「……付き合えたんでしょ? よかったじゃん」桜は言う。
「よくないよ。……いや、そりゃ、嬉しかったけどさ、……全然よくない」鈴は言う。
それから鈴は桜を見る。
「だって桜が幸せになってないじゃん」鈴は言う。
桜は青色の空から真っ白な教室の中にいる鈴に目を向ける。
鈴はじっと桜を見ている。
メガネの奥の大きな瞳は、少し涙で滲んでいるようだった。その涙を見て、桜は少し反省する。