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その手紙を見て、やっぱり、と池田鈴は思った。
「これをさ、小森桜に渡して欲しいんだ」と律は言った。
「……自分で渡せばいいんじゃないんですか?」鈴は言う。
「いや、まあ俺もそう思うんだけどさ、いろいろとこっちにも事情っていうものがあって……」と、そこまで律が言ったときに、鈴は歩き始めて鳥居をくぐり、神社の石の階段を登り始めた。
「え? あ、ちょっと待ってよ、鈴」
律はそんな鈴を追いかける。
「どうしていっちゃうのさ? なんか怒ってる?」律が言う。
「別に怒ってません。それから、その鈴って呼び捨てにするの、やめてください」と鈴は言う。
「ねえ、鈴。お願い。手紙、渡してもらうだけでいいんだよ。別に読まなくてもさ、捨てちゃってもいいからさ」律が言う。
鈴は階段の途中で立ち止まる。
「それ、ラブレターですよね?」鈴は言う。
「そうだよ」律が答える。
「そういうものって、きちんと本人が好きな人に渡すべきだと思います。こうして誰かに頼んだりすることじゃないと思うんです」
「その通り。俺もすごくそう思う」律は言う。
「なら、今すぐ、桜にそれを自分で手渡してきてください。私に頼むんじゃなくて」
「俺が?」
「そうです」
「この手紙を書いたのは、俺じゃないのに?」
「そうです……、って、え?」鈴はようやく、律の顔を正面から見る。めがねの奥の鈴の瞳が丸く、大きく開いているのが、律には確かによくわかった。
「やっと、正面を向いてくれた」
嬉しそうな声で律は言う。