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「そんなに怒んないでよ。ただ少し小森桜について聞いただけじゃん」と律は言った。
その律の態度が、鈴はあまり気に入らなかった。
へらへらしているというか、すごく軽い感じがしたのだ。でも、この少年は見た目が結構、かっこいい。恋に恋をしている桜なら、意外と会った瞬間にこの少年のことを好きになってしまうかもしれないと鈴は思った。
「俺は秋山律っていうんだ。よろしく」
そう言って律は片手を鈴に差し出した。
「……私は池田鈴って言います。……よろしく」そう言って鈴は律の手を遠慮がちに握った。
男の子の手を握るのは、鈴は今日が初めての経験だった。
「池田、鈴。……鈴ね。えっと、それで鈴はさ、小森桜の友達なのかな? これから小森桜にあいにく予定とか、そういうこと?」律は言う。
「まあ、そうですけど」
「やっぱりそうなんだ。よかった。ちょっと困ってたんだよね」嬉しそうな顔で律は言った。
「あの、さっきからなんなんですか? 秋山くんはなにか桜に用事でもあるんですか?」
そもそもあなたと桜はどんな関係なんですか? そんな言葉を言いそうになって鈴は我慢する。
「実はさ、これなんだけどさ」そう言って律はポケットから一通の手紙を取り出した。真っ白な手紙。でも、抑えのところに赤いハートマークのシールが張ってある。
それは、どう見てもラブレターのように池田鈴の目には見えた。