45 鈴音 すずおと 好きな人ができました。
鈴音 すずおと
好きな人ができました。
池田鈴が秋山律と出会ったのは、中学二年生のときだった。場所は小森神社の鳥居のところで、鈴が自分の友達である小森神社の娘、小森桜に会うために出かけると、そこに一人の見知らぬ少年が立っていた。
それが秋山律だった。
鈴は律を無視して、鳥居をくぐろうとした。
「ねえ、君。ちょっと待って」でも律のほうはそう言って鈴に声をかけてきた。
「……なにかご用ですか?」冷たい声で鈴は言う。
「君はさ、えっとこの神社にお願いごとをしに来た人? それとも、もしかしてこの神社の関係者の知り合いだったりするのかな? たとえば、君と同じ中学の、小森桜と知り合いとかさ」
にこやかな顔で律は言った。
桜の名前が出たので、鈴は少し警戒をした。
鈴は確かに小森桜と同じ南中学高の生徒であり、それは鈴の着ている黒色の制服をみれば南中学校を知っている人なら誰でもわかることだった。
その男の子、つまり律は東中学校の制服を着ていた。制服の上着の下には赤いフード付きのパーカーを着ている。
鈴は律のことをまるでなにも知らなかった。
桜のことを律は知っているようだったけど、知り合いなのかどうかは怪しいものだ。鈴はめがね越しにじっと律の顔を見つめた。