表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/123

43

 木野は自分の恋の話を、木野と薊の二人の間にあったことを、そこで葵に話すことにした。

 誰にも言うつもりのなかった話。

 言うべきではない話。

 でも、その話を葵に聞いてもらうことで、それがお祓いの代わりになると木野は思ったのだ。

 木野の話を葵は真剣な表情で聞いていた。

 基本的に、葵は真面目な子、なのだ。

 木野は薊との話を、薊という彼女の名前だけは伏せて、あとは全部、正直に葵に話した。その話が終わると、木野は葵に断って、お店の駐車場のときと同じように車から降りて、そこで一人でタバコを一本だけ吸った。

 それから木野は車の中に戻った。

「それで、彼女さんと旅行に出かけるっていうのは嘘で、木野さんはこれから、その恋の傷心旅行に一人で出かける、というわけですね」と葵は言った。

「そうだよ。このことは誰にも秘密にしておいてね」と木野が言うと、葵は「わかりました」と元気に返事をした。

「……でも、じゃあ、木野さんがこの間一緒に歩いていた人は誰なんですか?」という葵の質問に木野が「あれは姉貴だよ」と答えると、一瞬だけぽかんとした表情をしたあとで、葵は木野の車の中で、珍しく大きな声で笑った。

 それから木野は車を出して葵を家まで送った。

 葵は今度はおとなしく家に帰った。

「木野さん」その途中の車の中で葵が言う。

「なに?」

「私、木野さんのこと、待ってますから」

 木野は黙って葵の言葉を聞いている。

「私は木野さんのこと、ずっとずっと好きなままですから。さっきのお話の、木野さんの大好きだった女の人のように、誰か他の人と結婚なんてしませんから」葵は言った。

「そんなことはしなくていいよ」木野は言う。

 葵は返事をしなかった。

 木野もそれ以上、なにも言葉を言わなかった。

 葵の家の前でさようならをして、それから車を出したあとにミラーを見ると、葵は道路脇の道に立って、去っていく木野の車をまだじっとその場から見続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ