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「ありがとうございます」そう言って薊はにっこりと笑った。

 木野も彼女の笑顔を見て、にっこりと笑い、それから二人は別れることになった。

 別れ際に薊は「……私たちは、たぶん、もちろん今もなんですけど、……あのころは、今よりもずっと、子供だったんですね」と木野に言った。彼女の言葉は正しいと木野は本当に心の底からそう思った。

「さようなら、木野さん」と薊は言った。

「さようなら、薊さん」と木野は言った。

 二人はベンチから移動して、それぞれ別々の道を歩き始めた。

 大学の中央通りで、一度後ろを木野が振り返ると、薊はまっすぐに前を向いて歩いていて、木野にはその小さな彼女の背中しか見えなかった。

 木野は歩いて大学を出た。

 図書館に行く予定はキャンセルした。

 そしてもう一度、その場で後ろを振り返って、彼女の姿がどこにも見えないことを確認すると、木野は道端で声を殺して一人で泣いた。


 それから数日後に、木野は一人で旅行に出かけた。

 いわゆる傷心旅行というやつだった。

 バイト先では、もともと夏の間にシフトを増やしておいたおかげで、秋には少し余裕があったので、おやすみを貰いたいというと、店長からは「いいよ」と言って許可が下りた。

「突然、三日もすみません」と木野がいうと、「なに言ってるの。もともと連休だったわけだし、そんなに無理な変更じゃないよ。それに木野くんはずっと頑張ってくれているから」と店長は言った。

 木野が旅行に行くという話は、スケジュール調整のために、バイトのみんなが知っていることだった。

「木野さん、どこにいんですか?」とか、

「誰と行くんですか? 彼女さんとですか?」とか、

「おみあげは?」

 とか、そんなことをみんなが聞いた。

 木野はそんな愛のある後輩たちの言葉に対して、ある程度冗談を交えながら、いつものように曖昧な答えを返していた。

 そのみんなの輪の中に、立花葵はいなかった。葵は今日はお休みの日だったからだ。

 木野はバイト先を出ると、駐車場にある自分の車のところに行った。

 するとそこには、葵がいた。

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