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二人は大学の中央通りにある白いベンチの上に一緒に並んで座った。
「僕、実はあなたの名前を知っているんです」と木野は言った。こうして彼女に自分の行動を告白することができたのは、この二年の間の自分の成長の証だと木野は思った。
「あなたは薊さん、……ですよね?」木野は言う。
「はい。私は薊です」と薊は木野に答える。
なにを言われてもしたかがないと思っていたが、薊はとくに木野が自分の名前を知っていたことについて、不快な感情は抱いてはいないようだった。
「実は私も、あなたの名前を知っているんです」と薊は言った。
「え?」
「あなたは木野さん、ですよね? 木野蓮さん」と薊は言う。
その薊の言葉を聞いて、木野は本当の本当に、心のそこから驚いた。
「どうして知っているのかって、顔をしてますね?」薊は笑いながら言う。
「実は私、以前に木野さんに会うために図書館に通っていたことがあるんです」と薊は言った。
「大学に入学した当時のことでした。私は大好きな本を探すために図書館に行ったんです。なんの恣意的な思いもなく、本当に純粋に本が好きだから図書館に行ったんですよ。でも、そこにはあなたがいた。当時はまだ木野蓮さんっていう名前を知らなかった。私はあなたを見て、……恋をしたんです。一目惚れ、だったんだと思います」
舞い散る銀杏の葉を見ながら、薊は言う。
「……僕も同じです」
目を丸くしながら、木野が言う。
「……僕もあのとき、あなたに恋をしたんです」
すると「え?」と声を出して、薊が木野の顔を見た。薊もすごく驚いた表情をしていた。それから少しして、当時のお互いの状況というものを認識したのか、一度、にっこりと笑うと、それから薊はすごく悲しそうな顔をした。