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 その日、木野は大学の図書館でいつものように本を読んでいた。

 彼女との出会いは、あるいは奇跡だったのかも、と思っていた木野だったが、彼女との再会はすぐにすることができた。

 場所は同じ図書館の中。

 彼女は木野と同じこの大学の生徒のようで、そして木野と同じように本が好きなようだった。

 なのでそれ以来、木野が図書館に通う理由が一つ増えたことになる。

「薊」

 何度目かの出会いのとき、彼女の友人と思われる女性がそう彼女の名前を小声で呼んだ。そのとき、木野は彼女と反対側の椅子に座って、本を読んでいた。それは木野が彼女のそばに行ったのではなくて、本を読んでいる木野の席の反対側にあとから彼女が座ったのだった。

 彼女は声をかけた友人と一緒に、図書館を出て行った。

 その日、木野は薊という彼女の名前を見つけた。

 それがあまりにも嬉しくて、なんだか世界がいつもよりも輝いて見えた。次の週、木野は大学の近くのレストランでバイトを始めた。

 バイトは楽しかったし、大学の授業もそれなりに理解することができた。

 すべてがうまくいっているように思えた。

 でもそれは木野の独りよがりな、子供のような勘違いでしかなかった。

 ある日を境にして、頻繁ではないにしろ、見つけることができた彼女の姿を木野はまったく見つけることができなくなってしまったのだ。

 彼女は、薊は、木野の前から突然姿を消してしまった。

 それ以来、……もう二年くらいになるのだろうか。

 木野はいつも、薊の姿を探しながら、大学に通い、そして薊と出会った図書館に通っていた。

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