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「木野さん。今日元気ないですね」とバイト先で匠が言った。
「たまにはそういう気分になる日もあるんだよ」木野は言う。
「秋だからですか? まあ、そういう気持ち、私、少しわかります」明日香が言う。
木野はいつも通り仕事をそつなくこなして、いつも通りに家に帰るつもりだったのだけど、珍しく木野はバイト先で失敗をした。
それをみんなが珍しいと言って、笑顔でからかっているのだ。
その輪の中に葵はいなかった。
「おつかれさまです」
そんな声がして、制服姿の葵が一度頭を下げてから、裏口からお店を出て行った。
「お疲れ」
「お疲れ様」
匠と明日香が返事をする。
「東高の制服って、黒で地味って言う話だったけど、そんなことないよな」匠が言う。
「それは着ているのが葵ちゃんだからでしょ? 地味だとは思わないけど、人気がないのは確かだよ」明日香が言う。
「そういえば、木野さんって高校時代、どんな感じだったんですか?」匠が木野に話を振った。
「高校時代か、……そうだな」
と、木野は言葉を選びながら、自分の高校時代の話を二人にした。
それで今日のバイトは終わりとなった。
木野がお店を出て、鍵をかけて、匠と明日香とさよならをして駐車場の車のところまで移動すると、驚いたことにそこには立花葵がいた。
「こんばんは」葵が言った。
「……こんばんは」よくわからないけど、とりあえず木野は葵にそう返事をした。