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それから明日香はようやく、朝陽先輩や五十嵐響子先輩と会っても、それから二人の名前や声をどこかで聞いたりしても、ある程度、本心からにっこりと笑えるようになった。
それが自分でもすごく嬉しかった。
もちろん、全然平気というわけじゃないけれど、……まあ、恋愛というものは、なかなかうまくはいかないものなのである。
数日後、バイト終わりの時間に、お祭りの日の出来事を明日香は木野さんに話した。事前に相談した内容と真逆の結果となったので、木野さんはとても驚いていたけど、「まあ、梢さんが悩んだ末にそう判断をしたのなら、結果としてはそれでよかったんじゃない」と言ってくれた。
それ以来、明日香は梓と週に二、三回、学校帰りにデートをするようになった。
そのデートの最中、「どうかしたの?」と梓はいちごと生クリームとチョコレートのクレープを食べながら隣を歩いている明日香に言った。
「ううん。なんでもない」と青色の空を見ながら明日香は言った。すると梓は「そう」とだけ言って、また明日香の歩くペースに合わせて、明日香とお揃いのクレープを食べながら、明日香の横を歩き始めた。
相変わらず梓は優しかった。
でも、このとき、明日香は空を見ながら、林朝陽先輩のことを思っていた。
明日香の中では、未だに梓と朝陽が天秤の上で揺れていた。
まあ、多少、梓のほうに傾いてはいるが、こっちはこっちで年季が入っているのである。そう簡単に忘れることなどできないのだ。
「あそこにカフェがあるね。寄っていく?」梓は言う。
「うん。よる」と甘えた声で、明日香は答える。
梓とデートをしながら、梢明日香は考える。
恋とは身勝手なもの。似ているようで、愛とは、真逆の感情なのだと、思う。だから私は、まずは恋を経験して、(きっと人は自分が傷ついたり、誰かを傷つけたりしながら、愛という感情を理解し、知っていくのだ)それから愛を知っていかなくてはいけないのだと、日野梓の隣の場所で、そう恋愛初心者の明日香は、今日もまた思うのだった。
飛鳥 あすか 終わり