120
それからあとのことを、育はあまりよく覚えていなかった。
ただ、気がつくと育は真っ白な病院の中にいた。
それは朝顔と紫陽花と、……それから、川の中に流された秋葉小道さんが入院をしている病院だった。
朝顔と紫陽花は一命を取り留めた。
お医者さんの話だと、もちろんその行為自体は褒められた行為ではないけれど、もし小道さんと育が川に飛び込んで二人をすぐに川岸にまで、送り届けていなかったら、二人の命はおそらく助からなかっただろう、ということだった。
育は警察のかたに怒られたり、それから褒められたりして、そして木ノ芽さん夫妻からすごく丁寧なお礼を言われた。
育はとにかく、朝顔と紫陽花が助かってよかったと思った。
本当にただそれだけであとのことは、別になにも気にしていないと木ノ芽さん夫妻に言った。
育自身も一日だけその病院に入院した。
そして、次の日、退院をした育は、その足で、そのまま小道さんが入院している病院の病室を訪れた。
とんとん、と育は病室のドアをノックした。
すると「はい」と部屋の中から声が聞こえた。
それは小道さんの声だった。
育が病室の中に入ると、そこには真っ白な病室の中にある、真っ白なベットの上にいる、真っ白な入院服を着て、窓を開けて、そこから入ってくる風に気持ちよさそうに目を細めている、頭に包帯を巻いた、秋葉小道さんがいた。