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「ぷはぁ!」
育はその手に引っ張られるようにして、水面に顔を出した。
するとそこには、育の思った通り、小道さんがいた。
小道さんは強い瞳で育のことを見つめていた。
「……どうしてこんなことをしたんですか?」小道さんは言った。
「……ごめんなさい」
育は怒っている小道さんにそう誤った。
本当は、小道さんが川に飛び込んだから、と言いたかったのだけど、言えなかった。
「……いえ、こちらこそすいません。でも、とにかく今はまず二人を安全な場所まで移動させなければいけません。野分さん。協力してくれますか?」小道さんは言った。
「もちろんです」
育は答える。
それから育は小道さんが抱きかかえている双子のうち、朝顔のほうを小道さんから預かった。
朝顔はまるで死んでしまった人のように、青白い顔をしていた。
体も冷たくて、まるで大きな人形でも抱えているような気持ちになった。その朝顔の体の冷たさに、育の心臓は激しく鼓動をした。
「野分さん」小道さんが言う。
「はい」
その小道さんの言葉に励まされて、育は朝顔を抱えたまま、大きな川の中を遠くに見える川岸まで泳いで移動を始めた。
育の後ろには、紫陽花を抱えた小道さんがついてきた。