107
事件が起きたのは、その週の日曜日のことだった。
その日、朝顔と紫陽花が行方不明になったのだ。
外ではずっと、強い雨が降っていた。
育はそのことを木ノ芽さん夫妻から聞いて、すぐに二人を探すために雨の中を駆け出した。警察にも連絡はしてあると木ノ芽さんは言っていたけど、家の中でじっとしてなんていられなかった。
「朝顔ー! 紫陽花ー! どこにいるのー!」
育は街の中を駆け抜けた。
事故で怪我をした足が少し傷んだけど、そんなことを気にしている場合ではなかった。
そして街の中にある古い神社のある場所まで育はやってきた。
その神社は朝顔と紫陽花が自分たちの秘密基地にしていた場所だったので、もしかして二人はそこに隠れているのかも? と育は思ったのだ。
「朝顔ー! 紫陽花ー! ここにいるの!」
育は神社の中に移動する。
すると、そこには二人の子供ではなくて、秋葉小道さんがいた。
「小道さん」
育は小道さんの姿を見て驚いた。
小道さんは育と同じで雨の中を傘もささないで立っていて、上から下までずぶ濡れだった。
「こんにちは。野分さん」
育を見て、小道さんはそう言って小さく笑った。
でもその顔には、明らかに誰かを心配している表情があった。
小道さんが心配している相手とは、言うまでもなく、小道さんにとっては自分の教室の生徒でもある、朝顔と紫陽花のことだった。