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「あの、秋葉さん」と育は言った。
「なんですか?」
「そのすごく聞きづらいことなんですけど、……聞いてもいいですか?」
「いいですよ」と小道さんは言った。
「秋葉さんの奥さんは、どうして亡くなってしまったんですか?」
育は言う。
自分でも不謹慎な質問だと思った。
でも、どうしても聞きたくて仕方がなかった。
小道さんは少しだけ、なにかを考えるような顔をして、下を向いた。
それから育の怪我をしている右足を見て、「交通事故です」と育に言った。
「そうですか」
育は言った。
それから二人は無言になった。
「ただいまー」玄関からそんな育の両親の声が聞こえてきた。
「あ、すみません。お邪魔してます」小道さんがすぐに玄関まで言って、育の両親にそう挨拶をした。
「あ、先生。きてたんですか? ああ、鍋を返しにわざわざ。どうもすみません。言ってくれれば、育に取りに行かせたのに」
そんな育のお母さんの声が縁側に聞こえてくる。
「朝顔くん。紫陽花くん。お菓子あるよ」
育のお父さんの声。
「はーい」
朝顔と紫陽花は縁側から、みんなのいる台所のところに駆け足で移動する。
育も縁側から立って、みんなのところに行こうとした。
でも、どうしても立つことができなかった。
……私、どうしちゃったんだろう?
自分でも、その理由がわからなかったけど、育はなぜか泣いていた。泣きながら、庭に降る六月の雨を見ていた。