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雨はいつまでも降り続いていた。
育はずっと、その雨を見ていた。
「こんなことをいうのは少し変なんですけど……」と育を見て小道さんが言った。
「なんですか?」育は言う。
「野分さんは、どこか僕の亡くなった妻に、その雰囲気がよく似ているんです」と小道さんは言った。
「先生の奥さんってどんな人?」朝顔が言った。
「写真があるよ。見るかい?」
「見る!」
小道さんはズボンのポケットから古びた財布を取り出した。そして、その財布の中にしまってあった、一枚の写真を取り出すと、それを朝顔に手渡した。
「へー」
写真を見ている朝顔の背後から、同じように写真をじっと見て、紫陽花が言った。
「育お姉ちゃんに似てるね」
と朝顔が育を見てそう言った。
「あの、その写真。私も見ていいですか?」育は言う。
「もちろん。いいですよ」小道さんは言った。
「はい。育お姉ちゃん」朝顔が言う。
育は朝顔から写真を受け取ると、その写真を真剣な眼差しでじっと見つめた。
そこには、一人の若い女性の姿が写っていた。
年齢は、……二十歳、くらいだろうか?
「妻の若いときの写真です。その当時、妻は二十一歳で、僕は二十四歳でした」
そう言ってから、小道さんはなにかを思い出すようにして、雨の降る庭に目を向けた。
写真に写っていた女性は、確かに少し、育に似ていた。