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知り合ってみると、実は小道さんの住んでいる家は、育や双子の住んでいる家の近所だった。
確かに山の裏手で、木ノ芽さんの家は少しわかりにくい場所にあるけれど、それでもこの距離で道に迷うとは思わなかった、と小道さんは育に言った。その当時、小道さんはこの街に引越しをしてきたばかりだったし、なによりも小道さんは方向音痴なのだった。
なので、育と小道さんの関係は、今度はご近所様として、一度の出会いで終わることなく、そのままずっと続いていくことになった。
「先生。今日は道に迷わなかったの?」
にやにや笑いながら紫陽花が言った。
「迷わなかったよ。なんとかね」とにっこりと笑って小道さんは言った。
「先生は方向音痴なんだよね」
読んでいた本から顔をあげて、朝顔が言った。
育はそんな三人の様子を、ずっと黙ったまま眺めていた。
「ねえ先生。一緒にゲームやろうよ?」と紫陽花が小道さんの横に移動してそう言った。
「どんなゲーム?」
「レーシングゲーム」と紫陽花は言った。
それから紫陽花と小道さんは、一緒に携帯ゲーム機で代わり番こにレージングゲームをやった。
そんなことをしていると、庭にぽつぽつと空から雨が降ってきた。
「あ、雨だ」
とそんな天気を見て朝顔が言った。
雨を見て、朝顔はなぜかとても嬉しそうな顔をしていた。
「土砂降りになるかな?」
とゲーム機を放り出して、紫陽花がそう言った。