100 野分 のわき あなたに笑ってほしいから。
野分 のわき
あなたに笑ってほしいから。
育の目標
努力すること。頑張ること。諦めないこと。最後の最後まで、……きちんと自分の足で、限界まで走り抜くこと。
その日、野分育は一人の男性に恋をした。
ずっと陸上ばかりに打ち込んでいた育が、初めて恋をした相手の名前は秋葉小道さんという名前の年上の男性だった。
小道さんは奥さんをなくして一人暮らしをしている男性だった。
年齢は三十二歳。
そして、育は十七歳の高校二年生だった。
二人の歳の差は十五歳。
恋愛として、この年齢差はどうなのだろう?
やっぱり、よくないことなのだろうか?
最近、雨ばかり降る暗い曇り空を家の縁側から、眺めながら「はぁー」と育は大きなため息をついた。
「なにか嫌なことでもあったの?」
育の隣でおとなしく本を読んでいた朝顔がそう言った。
「どうせまたなにかろくでもないこと考えてるんだろ?」
朝顔の隣で小型の携帯ゲーム機でゲームをしていた紫陽花がそう言った。
木ノ芽朝顔と木ノ芽紫陽花。
二人は育の隣の家に住んでいる木ノ芽さんのところの双子の男の子の兄弟で、育の野分の家と木ノ芽さんの家はとても仲が良くで、仕事で忙しい木ノ芽さんの代わりに、育がこうしてお休みの日には双子の面倒を見ているときがよくあった。
「相変わらず、朝顔は可愛いのに、紫陽花は可愛くないね」育は言う。
「育に好かれても嬉しくないよ」紫陽花が言う。
「そうかな? 僕は育お姉ちゃんに好かれてると、すごく嬉しいけどな」朝顔が言う。
二人は双子だから顔はそっくりなのだけど、なぜかその性格はあんまり似てはいなかった。
朝顔は温和でおとなしくて、紫陽花は活発でやんちゃな性格をしていた。
その二人の性格はどことなく、木ノ芽さんのところのお父さんとお母さんの性格に、それぞれ似ていないこともないな、とそんなことを育は思った。