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第9話 俺、部活してたんだな


 放課後。


 どうやら俺は部活をしていたようだ。

 部活をやっているか知ることが出来たのは、昼飯時に来たあの知らない男子生徒のおかげである。


 別のクラスの奴だったようだが、


「尾野は今日は部活来れるのか?」


 と、聞いてきたのだ。

 その時は曖昧に返事をしておいたのだが、どうしようか。


 俺がこの世界に来てから今日まで怪我や入院を繰り返していたから免除されていたようだが、元気に学校生活を送っているのであれば、とりあえず顔だけ出しておいた方がいいだろうか?


「俺、部活に行った方が良い?」


 と、俺は庄平に相談してみた。


「こんな時に!?」


 庄平にはそう驚かれたが、


「いや、行かないにしても事情を話して少しの間休むと伝えておきたいんだ」


 そう理由を伝える。


「うぅん、まぁそれなら」


 庄平は渋々頷き、

「早く済ませるように」

 と、言ってくる。

 あれ? 付いて来てくれないの?


「付いて行ってもいいけど、オカ研だけはあんまり近付きたくないんだよなぁ」


 庄平は嫌そうな雰囲気を出しながらそう言った。

 え!? オカ研??

 もしかしてオカ研ってオカルト研究会とかの略!?

 なんで俺そんな所に入ってるの??


「俺、オカルト研究会所属してたんだっけ?」

 そう念のために聞いてみると、


「ん? あ、あぁ……」


 庄平は何を言っているんだこいつ。とでも言いたそうな顔をしながら俺を見ている。


「んじゃ、俺達は校門で待ってるから」


 そう言って庄平以外の男子生徒達は教室を出て行く。

 あれ? そういえば君達は部活入ってないのか?


 まぁいいか。


 それより俺はオカルト研究会とやらが何処にあるかが分からなかった。

 結局付いて行ってくれるという庄平に用心棒よろしく。と言って先頭を歩かせ、案内をさせる。

 呆れながらも了承してくれる辺り、庄平は本当にいい奴なんだろう。


 しばらく歩くと、様々な部活の部室が入っている建物の中へと来た。

 漫研、手芸研、将棋研、囲碁研、手話研、映画研、ダンス研、情報戦略研、様々な部活を目にすることができた。

 俺の学校はこんなにも多種にわたる部活を目にしてこなかった。

 改めてこの学校の規模の大きさが分かる。


 そして、一番端っこに『オカルト研究会』という看板が書かれた部屋があった。

 おかしい、他の部屋とは雰囲気が違う。

 なんというか……暗い。

 いかにもという感じである。


「失礼しまぁす」


 ここで先頭に立ち部屋に入るのは庄平ではなく俺である。


「はいはい」


 部屋の中から気だるそうな男の声が聞こえてきた。


「んぉ? なんだ。尾野かぁ、久しぶりじゃないか」


 そう言ってきたのは部屋の窓側に座っている男だった。

 リラックスしているようであるが、目はギラついていて相手を見定めているような印象だ。


 全体的に暗い部屋の中に2人の男子に2人の女子。

 1人は昼飯時に俺が部活に入っていること知る切っ掛けになった男子生徒だった。

 この男子生徒を見てもピンとは来なかったが、彼も見た目がオカルト研究会所属らしくない風貌だ。

 らしくないといえば他の3人にも同じことが言える。

 何故か3人とも他の部活で活躍してそうな垢抜けた印象だ。

 偏見だが、オカルト研究会と聞くと根暗な人が居るイメージが真っ先に出てきてしまった。

 それに対し、目の前に居る方々は、第一印象はそんな感じに見えない。


「噂には聞いていたぞ。転校初日の男子生徒と羽間先生を塀の中へ送ったらしいな」


 クスクスとそう笑いながらも視線を俺の目から離さない。

 なんだか俺の事が見透かしているような……。とにかく不思議な人物だ。


「塀の中かどうかは分からないですが、その通りです。その関係で怪我をしてしばらく来ることができませんでした」

 俺はそう目の前の上級生に向けて言った。

 ってか、流石にまだ塀の中じゃないだろう。

 檻の中かもしれんが……。


「ふふん。そうか……まぁいいや。んで、お友達と一緒に来ているようだけど、何か他にもヤバイ事があったのか?」


「え?」

 俺が後ろに居た庄平を見ると、庄平はキョロキョロと廊下の方を見て警戒していた。


「あぁ、はい。実はその通りでして……」


「言ってみてくれ」


 そう目の前の男が質問をしてきたので、俺は自身が現在狙われている立場にあるかもしれないという事。そしてしばらく部活には顔を出すことができないかもしれない。という事を伝えた。

 全て話し終えると、


「ふぅ~……。状況は理解できた。しっかしなんだ?お前いろいろと首突っ込みすぎだろ。確かにそれで救えた人は居るかもしれんが……」


「はい、代わりに自分や友人、家族の身に危険が及んでしまう可能性が大きくなってしまいました」

 改めて反省をする俺。

 ゲームの世界だと思おうとしても、この世界があまりにリアル過ぎるため、判断が付かない状態が続いていた。


「まぁ、何かあったら連絡ぐらいしてくれ」


 などと、励ましの言葉を頂くが、彼に連絡してどうなるというのだろうか?


「えっと、それはどうして?」


「んあ? そんなの決まってる。もしお前が襲われでもしたら呪い位かけてやるっての」


「は、はい。ありがとうございます」

 その一言で正直頼っていいのかわからなくなった。


「では、暗くならない内に帰りますんで」

 俺は足早にここから立ち去ることにした。


「おう、気をつけてなぁ~」

 そう男は眠そうな顔で笑顔を作りながら手を振ってそう言ってくれた。



----------------------------------



「……行ったか」

 男……、オカルト研究会の長は振る手を下ろし、笑顔から真剣な表情へと戻す。

 彼が所属するオカルト研究会は部では無い為、彼の役職は部長ではなく、室長という事になっている。


「チッ、まったく。あいつ、一体何してんだか……。いや、俺もだが……」

 そう愚痴をもらす室長は頭をポリポリ掻きながら、舌打ちをしつつ文句を言っていた。


「あぁ、不良で有名な3年生に喧嘩を売ったって事ですか? あれは俺も初耳でしたよ。尾野の奴、最近どうしたんだ? どんどんと悪い方向に行っているような気がする……」


 そう言ったのは尾野を昼休みに呼びに行った2年の男子生徒だ。

 彼は心配そうに尾野が出て行った扉を見ながらそう言った。


「ん? あ、いや、そうじゃないんだ……そうじゃ」

 室長は慌てて否定をする。


「え?」

 2年の男子生徒はどういうことかという顔をする。


「室長……彼は……、尾野君の身に一体何が起きているんですか? ……いえ、やはり何か視えるのですね?」


 そう会話に参加してきたのは副室長の3年生女子であった。


「??」

 2年の男子生徒は再び何のことかという顔をしながら質問をする。


「知らない方がいいぞ……」

 と、室長は言って苦虫を潰したような顔をする。


「いったいどういう事なんですか? "何か視えた"んですか!?」

 2年の男子生徒はたまらず二人に問う。

 彼は知っていた。本当かどうかは置いておき、もう一人この室内にいる1年の女子生徒と室長と副室長は所謂"視えてしまう"部類の人だという事を。


「黙っていたほうがいいのか分からないけど、彼、とんでもなく大きな存在に目を付けられてしまっているみたいよ……」


「へ?」

 副室長がそう説明をしてくれたのだが、いまいち彼には分からなかった。


「どうしても知りたいなら言うが、あまり首を突っ込むなよ?」

 今度は室長がそう言うと、


「尾野の周りに妖怪だか悪魔ではない何か、そんなようなでっかい存在が付いているって事だ。だが、尾野を殺そうという悪意は見えねぇ。むしろ何かから守っているような感じだ……。一体何なんだありゃ」


 そう言う室長の様子はいつも見られる余裕そうな表情は何処にもなかった。

 よくよく見ると1年の女子部員も青い顔をしている。


「(俺だけ霊感無くてよかった……)」

 などと、他の周りが異常事態で気分を害している中、自分が同じ状態に陥らなくて良かったと思っている男子生徒であった。

 彼はどちらかと言うと幽霊の類ではなく、未確認生物(UMA)専門の人間だったからだ。



----------------------------------


―尾野視点―


 庄平と来た道を戻り、校門を目指す。


「いい人達じゃないか。あの人達」

 そう俺が言うと、庄平は苦笑いをしていた。

 まぁ、偏見があるのかもしれないけど、庄平や今校門で待っている友人達は苦手意識を持ちすぎだろう。


「いや、まぁそれでも自分の事を見透かされているような感じでスパスパ当てられたりしたらちょっとなぁ」


 なんという事だ。庄平も同じことを感じ取ったのか。

 オカルト研究会に居た彼等は本当に霊能力を持っているとでも言うのか?


「それよりも何でキョロキョロしてたんだ?」


 俺は教室に入って来ず、部屋の前でずっと廊下を見ていた庄平の行動に対し質問をする。


「ん? あぁ、お前が狙われているって言うから監視してたんだろ」


「なるほど。そういう事か。ありがとう」

 俺がそう言うと庄平は気恥ずかしそうに顔を背けた。



「誰に狙われてるって?」



 なんだ? 聞いたことが無い声が後ろから聞こえたぞ。


「え? ぐぼほぉ!?」


 俺は振り向くと顔面を殴られ、後ろへ倒れる。

 そこで意識が遠のいてしまった。















「おい、起きろ。起きろ!」


 そう声が聞こえてきた。

 誰だ? 俺を呼ぶのは。


「起きろや!」


「ぐお!?」

 腹に強い衝撃を受けた事を感じ、体を丸めてしまう。

 ここでようやく俺の意識は戻った。


「……ここは?」


 目を開けると古臭い作りのトイレであった。

 学校なのか?

 そこで思い出す。確かゲームの世界では"旧校舎"と呼ばれる建物があった事を。


「おう、ようやくお目覚めか」


「駿!」


 一人は知らない男。

 椅子に縛られて俺の名前を呼ぶ男は庄平だった。

 何事??


「え? 誰?」


 まず、俺の体を確認する。

 素っ裸だ。

 パンツも身に着けていない。


「キャハハハハ」

「マジきもーい」


「げっ」

 俺は二人の女子生徒がその場に居たことを見つけてしまった。

 金髪の女と紫のメッシュの女。

 三田川 麗を虐めていた別のクラスの女子生徒達だ。

 慌てて俺は下半身を手で隠す。


「ぎゃはははは。今更そんな事しても無駄だっての!」


 その場には恐らく上級生である男子生徒が2人。不良女子が2人。

 あぁ、これは不良女子2人が俺に復讐に来たんだろう。

 圧倒的に不利な状況だな……。


「おい、テメェ人の女にちょっかいかけてくれたようだな」


 と、顔中にピアスをしている男がそう言ってきた。校則違反じゃねぇの?なんて呑気な事を考えてしまう。


「人の女? まさか三田川 麗子の事か?」


 ワザとそう恍けてみると代わりに顔面を殴られる。


「ウチらの事、舐めてくれたよねぇ!」


 金髪の女がキレながら言う。


「いやいや。舐めてなんてないよ! だって病気持ってそうだもん!」


「テメェ!」


「ぎょほっ!!」


 今度は腹を蹴られた。


「ふん、まぁいいや。お前はこれから奴隷になってもらう。」

 ニタリと笑いながらそう言ったピアス男。


「逆らったりはしないよな? 逆らったりしたら……ほら」


 ピアス男はスマホ画面を俺に見せてきた。


「んな!?」

 そこには俺が裸になって大の字で倒れている姿が映し出されていた。


「これが世界中に拡散されちゃうからねぇ~」


 愉快そうにピアス男は笑っている。


「「キャハハハハ」」

「「「あははははは」」」


 不良女子と不良男子達は俺の顔を見て笑っていた。


「まぁなんだ。とりあえず俺の女の邪魔はすんな。あと、明日までに5万持ってこい」


「え……」


「持ってこなかったら……分かってるよな?」


「くっ……」

 俺は悔しさに顔をゆがめる。


「んじゃな。ゴミ屑」


 そう言って連中は便所から去って行った。



「……」


「お、おい! 駿!」


「あ、悪い」

 俺は椅子に縛られている庄平に気付き、庄平の手に巻かれているガムテープを剥がす。


「いや、そうじゃなくて、大丈夫なのかよ!!」


 庄平は泣きそうな声で俺にそう聞いてきた。


「顔が痛い……。あ、鼻血が出てる。ハハッ、まさかこんな事になるとはな」

 俺はそう自分自身の不甲斐なさも含め嘆いていると、


「クソッ! クソッ!」


 と、解き放たれた庄平は顔を赤くして悔しがっていた。


「そうだ、俺の服」

 俺の服は離れた場所に散らかっていた。

 先に服は着ておこう。

 おや? ポケットの中から――――。


「あぁ、スマホは無事なようだな……」

 そう安堵していると、


「こんな時にスマホの心配なんて!!」


 と、庄平は怒鳴る。


「いやいや、スマホないとさ、警察に直ぐに電話できないじゃん? あ、そうだ。庄平はあのゴミ共の名前分かるか?」


「え……?」


 庄平は先ほどまでの怒りを忘れたのか、キョトンとした顔で俺を見てくる。


「だって、拡散されたら……」


 庄平はそう言いながらアタフタしていたが、俺にとってはここは異世界だ。現実世界に戻ることが出来たならば、ここでいくら恥をかこうが関係ない。

 戻ることができる保証は今のところ無いけどな。

 俺はアドレス一覧から佐々木刑事が勤める警察署に電話をかけた。

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