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第7話 三人目のヒロイン救出作戦


----------------------------------



 尾野 駿が入院しているその日の夜。




「チュンチュン!」


 一羽の雀が闇の中だというのに空を飛んでいた。

 雀は刑事の佐々木が勤めている警察署を見つけると、ゆっくりと降下していった。







 警察署の休憩室。

 そこでは三人の制服姿の警官が休息を取っていた。


「いやぁ、最近佐々木先輩がめちゃくちゃ忙しそうだよな」


「ほら。例の学校の事件、佐々木先輩が二件とも関わっちゃったらしいぞ」


「マジかよ。それでかぁ……」


 警官達がそんな雑談をしていると、


「チュンチュン!」


「ん? あれ? 雀が……」


「珍しいな夜に雀が飛んでくるなんて」


 開いていた窓から小さな雀が入ってきた。

 それを発見した警官達はほっこりした気分となる。


「ほらっ。こんな所にいたらダメだぞ。早くお家に帰りなさい」


「不良に言い聞かせているんじゃないんだから……」


「雀が人間の言葉を理解するわけがないだろぅ……」


 一人の警官が雀に語りかけると、呆れたようにそう言うもう二人の警官。


「い、いいだろ、別に。なぁ?」


 顔を赤くしながら雀に同意を求める警官。

 すると、雀は、




「チュン! チュン! チュン!」




 と、先程よりもボリュームが大きい鳴き声を三人に向けて発する。

 その鳴き声は彼等警官達の耳を通り、瞬く間に脳内へと信号が伝わっていく。

 そして――――――、


「えっ? が!?」


「ぐっ、ぐがが!? な、なんだ。あ、頭……が!?」


「あ、頭が! 頭が!?」


 三人は突然頭痛に見舞われ、持っていたコーヒーや携帯電話を落としてしまう。

 それぞれ空いた手で頭を押さえて悶え苦しむ。


「あ、頭、頭、あ、あたったたた!?」


「あっ、あっ、あた……あたたた!!」


「あたたたたままままままま!?」


 頭痛は更に激しさを増し、





「「「あ、ああああああ!? あります!!!!」」」





 三人は声を揃えて前屈姿勢から直立になる。

 目玉をグルングルン回し、そして、


「「「優先事項を確認するであります!」」」


 と、素早く雀の方を向く。


「「「…………」」」


 三人は一旦口を閉じ、回していた目玉を止め、雀をじっと見つめる。






「「「確認完了。最優先の対象は――――――『尾野 駿』であります」」」





「チュンチュン!」


 三人の様子を確認すると、雀は満足したように頷き、再び闇夜の空へと飛んでいった。



----------------------------------


―尾野 駿視点―




 次の日。


 母親に病院へ迎えに来てもらい、退院の手続きをして自宅へと帰った。

 どうやらこの世界の俺の家では、母は専業主婦らしい。


 そしてシャワーを浴び、昼食をとった後、遅めの登校をした。

 学校は丁度昼時だったが、俺は既に家で食べてきたので問題は無い。

 昼休みをゆったりと過ごすだけだ。

 というか、それならまだ家でゆっくりしていても良かったような気がする。

 しかし、次のイベントはまだ先だが、打てる手は打っておきたい。


「……」


 俺はゆっくりと教室の扉を開けて中へと入る。


「「「!?」」」


 教室にいたクラスメイト達は全員驚いた表情をしていた。

 ポロっと弁当のオカズを落としている奴までいる。


 まるで幽霊でも見ているような顔だ。

 あれ? 昨日の事件、皆にバレてる?


「駿!」


 俺にそう声をかけてきたのクラスメイトの男子生徒だ。


「よっ、おはよう」


 軽く右手を上げて挨拶をする。

 するとその男子生徒は小走りで俺の近くにやってきて、


「おぉおい! 駿! お前またやったのかぁ!」


 という言葉と共にチョップ攻撃をしてきた。

 俺は軽くそれを避ける。


「逃げんな!」


 と、男は追ってくる。

 なんだコイツ。なんで襲って来るんだ?

 そういえばコイツの名前なんだっけなぁ。

 あぁ、盛田だ。盛田 庄平だ。確かこいつは俺の親友ポジとかそういうのだと思う。

 やはり昨日の事件の事を知っているようだ。

 まぁ、学校の先生が捕まればニュース位にはなるようなぁ。

 そういえば俺、病院でテレビを見ていなかったので、羽間の件が報道されたかは知らない。


「待って待って。今回は尾野君だけが悪いわけじゃないから!」

 と、ここで坂江さんが俺を庇ってくれる。


「今回も許してあげて? 駿は結構痛い目に遭ってたみたいだし」

 お! 野和さんも助けてくれるのか。


「うぅぅ……二人ともありがとう」


 俺は二人の間に隠れ暴力を振るってくる庄平から身を守る。

 なるべく弱っている振りをすれば庄平も無茶はしてこないだろう。


「おい。お前実はそんなに弱ってないだろう!さっき普通に教室に入ってきたじゃねぇか!」


 と、庄平は俺が弱っているフリをしたことを見抜きやがった。

 チッ。バレたか……。


 だから、


「庄平。俺は今回警察の人に着いて来てもらってたんだ。だから俺には落ち度は無い!」


 と、きっぱりと言ってやった。


「「……」」


 あれ?俺を庇ってくれた女子二人から冷たい視線を頂いてしまう。

 なぜそんな目を向ける?


「う……ぐっ。それはそう……だなぁ。だけど、ニュースで大変な騒ぎになってるんだぞ?」


 およ? 庄平がなんか納得したみたいで拳を下ろす。

 案外チョロイな。

 というか、やっぱり今回の事件はニュースになっていたのか。


「駿君。あんまり危険な事に首を突っ込まないでね?」


「そうだよ。私も他人(ひと)の事言えないけど……」

 庄平を言いくるめることに成功したが、逆に野和さんと坂江さんからお叱りを受けてしまった。

 でも嫌悪からの怒りではない事はわかる。


 これ、ギャルゲーなら俺の好感度上がりまくってる状態じゃないかなぁ?

 実際このゲームは真逆なストーリーだけどね!










 一通り話終わった後、庄平達は昼飯へと戻る。


 俺はその様子を眺めているだけだ。


 さて、この世界で鬼畜主人公が解決した事件は大きく分けて7つ。

 事件それぞれにメインとなるヒロインが存在し、一番害悪な鬼畜主人公はそれぞれ脅迫や暴力等で解決してきた。


 これで最初に起きた事件、豊森 奈菜先生の事件は解決したと考えていいだろう。


 ゲーム的に、次の事件はとある盗撮事件なのだが、先に現在進行形で進んでいる事件を解決しようと思う。


 それは2年D組に起きている事件。

 この世界のヒロインの一人、『三田川みたがわ 麗子れいこ

 俺とは別のクラスの女子で、同じクラスの女子たちから虐めを受けている。

 特に酷いのは不良女子3人からの行為だ。

 無視や悪口等日常茶飯事で、それ以上に暴力、裸にさせて写真を撮るなど、鬼畜主人公と同等の悪徳行為をしまくっている。

 更に彼女の家庭内にも問題がある。子育てに無関心な両親により、虐められているという事実を話しても何もしてくれなかったのだ。


 ゲームでは実は簡単にこの事件を解決していた。

 不良娘共は鬼畜主人公が犯して写真を撮り、ネットに拡散させられたくなければ三田川さんを虐めるなと脅し、三田川さんへは『君は他の女以上に愛している』だの『大切だ』等と言って操り人形にした。

 家庭内の問題は解決していなかったが、誰かに必要とされたり愛してもらった経験が無い三田川さんは、簡単に鬼畜主人公に忠誠を誓った。


 うん。主人公の真似して解決なんて出来ないよね?

 不良女子達への対処はゲーム内のようにはできるわけがない。

 もしヤレと言われてもヤリたくない。だってあいつら病気持ってそうだもん。


 家庭内の問題も難しそうだ。


 俺が原作のゲームをやった時はしばらく先にこのシナリオをクリアしたが、先にやってしまっても構わないだろう。

 しかし、どうすればいいだろうな?

 というか、これは先生に相談。だな。


 もし、どうにもならなかったら佐々木刑事に相談してみようかな……。








 そして放課後。


 俺は担任の五和先生に呼ばれて誰も居ない教室へと連れて来られた。

 その後に教室には豊森先生が入ってくる。

 三田川さんの件で俺も話をしたかったので丁度いい。


 さて、今回俺が呼ばれた件だが、先日豊森先生を助けた件だった。


「尾野君。今回の件、ありがとう」

「尾野。俺からも礼と謝罪をさせてくれ。同じ学園の教師として、羽間のやったことは情けない……」


 豊森先生に続き、五和先生にも頭を下げられた。

 予想していたことであるが、やはりこそばゆい感じがする。


「いえ、頭を上げてください先生。俺は当然のことをしただけなんですから」


 俺はそう言うと五和先生はニッコリとしながら顔を上げた。

 ……ん? あれ? なんだか五和先生の笑顔が怖いぞ。もしかしてちょっと怒ってる?


「うん、まずは礼と謝罪は済んだだろう。……では次に叱らせてもらう」


「えっ」


 なんでだよっ!


 俺は一瞬五和先生が何を言っているのか理解できなかった。

 怒られ……る?


「お前なぁ。神命の件に続き、なに危ないことしてるんだ」


「しん……みょう? あぁ、あの鬼畜転校生の」

 心の中で鬼畜主人公と呼んでいたから本名を一瞬忘れてた。


「鬼畜……? うんまぁ、今回も無事でよかったが壁に叩きつけられたんだって?」


「はい。ですが、思った以上に大したことはありませんでしたよ。へへっ」


 俺は平気ですアピールをする為に強がってみた。


「馬鹿者! そんな事をしてたら命が幾つあっても足りんぞ!」


 思いっきり怒鳴られた。


「ひぃぃ。家族にも警察にも同じこと言われましたぁぁ」


 情けない話だが、恐怖で悲鳴が出て声が上ずってしまった。

 俺、24歳だよ?

 と、いうかまず壁に叩きつけられたって事に疑問を持ってください。

 あいつが化物並みの力を持っていたんですよ!


「んっ。そうなのか? なら、これ以上はいいか……」


 どうやらこれ以上のお説教は無いらしい。

 渋そうな顔をして五和先生からはそれ以上羽間の件で叱られることはなかった。


「私はお説教できる立場ではないわね。重ねて御礼を言わせて貰うわ」


 豊森先生は苦笑いをした後、俺の目を真っ直ぐ見てお礼を言った。

 助けた際裸を見てしまっている事を思い出しこちら側がお礼を言いたく……いや、少し気まずくなる。だが、あえて言わないようにしよう。話がややこしくなりそうだ。


「ただ、また何かあった時は遠慮なく言ってね? そうしないと尾野君また無茶しそうだから……。その、お礼も兼ねてだけどできることがあれば力になりたいし」


 およ?

 およよよよ?


「いいんですか?」



「「え?」」


 俺の食いつきに驚く先生二人。


「何かあったら相談していいんですか? そのぉ……。解決してもらったりしていただきたい事があれば……」

 俺がそう言うと、


「え、えぇ。もちろん」


「尾野……。お前まだ何か首突っ込んでる問題があるのか?」


 と、先生二人は若干引き気味だ。

 だが、これは使えるかもしれない。

 現在進行形で問題になっている虐め問題の被害者『三田川 麗子』。この件の解決は案外早くできるかもしれない。


「えぇ、ちょっと気になっている事が……。直ぐに対応していただきたいのですがよろしいですか?」


「一体なにがあったんだ?」

 俺の真剣な雰囲気を察したのか、五和先生は前のめりになって話しを聞きだす。


「はい、実は―――――」










 三田川さんに関しての依頼はすんなり終わった。

 二人とも事情は別のクラスながら薄々と勘付いていたようで、早急に対応すると約束してくれた。

 ふはははは。学校側はこれ以上不祥事を出すわけにはいかないだろうからなぁ。

 楽勝楽勝。超楽勝じゃぁないか!


 これからこの学園で起きることは教師に任せてしまえばいい。

 外で起きることは警察に任せてしまえばいいんだ!

 羽間の時のように自ら前に出て連中を捕まえようとしなければ、俺は安全圏から高みの見物ができる。


 豊森先生にはあの事件の後で大変だろうが、五和先生と共に頑張ってもらおう。

 二人には対策案があるみたいなので、その方向に向かえば大丈夫そうだ……と、思う。


 もう全部丸投げである。





 浮かれながら教室に戻って来ると、庄平を含めた数人の男子生徒が俺の近くまでやって来た。

 そういえば以前、勝利の祝賀会とか野和さんの件で言っていたな。

 その話でもしに来たか?


「駿。お前インタビューとか受けたい人?」


「ん? 何のことだ?」


 インタビューとは何のことだろうか?

 想像するに学校新聞で今回の事件。野和さんか豊森先生の事件を取り上げるという事だろうか?

 だが、学校新聞では取り上げてほしくない事件だなぁ。

 二人にとっては思い出したくない事件だろうし。


「駿は午後に来たから居なかったんだろうけど、登下校の時間を狙ってマスコミが校門前に居るんだよ……」


「あぁ……そういう事ね」


 俺は廊下に出て、校門が見える場所へと移動する。

 確かに居るな。

 20人位のマスコミが。

 あ~……テレビカメラまである。


「俺達はなかったんだが、クラスの何人かは野和さんと豊森先生の事件についてインタビューを受けたらしいんだ。もちろん、野和さんと豊森先生の名前は出さなかったようだけど……」


 と、いつの間にか後ろに来ていた庄平が言った。

 なるほどね。

 納得した。

 俺は病院でも何故かできた元の世界でやっていたスマホのアプリゲームのイベント周回をしていたからテレビでどう事件の事を報道していたかなんて知らない。少しは見ておけば良かったと反省する。


 いやぁ、しかしスマホが鬼畜主人公や羽間に壊されなくて良かったよ。

 ゲームのデータが消えていたら泣いてしまうぞ。


 ちなみに元の世界の知り合いのアドレスはみんな消えていたし、覚えていた連絡先も『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』と言われて役に立たなかった。


 そういえば、マスコミは野和さんの件も知っていたのか?

 野和さんが被害者だって知られたら厄介な事になるかもしれない。主に野和さんの精神面が心配になってしまう。


「う~ん、ああいうの面倒だなぁ。あ、そうか。俺がインタビューを受ける可能性が高いとか?」


 事件に関わっていた俺の事も知られては面倒だ。


「分からない。向こうが駿の顔を知っているって事はあるのか?」


「それは俺にもわからない。インタビューとか受けるの面倒だから俺、ゲームでもやっていなくなるのを待ってるよ」


 俺はそう言ってイベント周回を進めるためにゲームのアプリを起動しようとする。

 あれ? あっ、ログインボーナスが途中で途切れてる!? そうか。丸一日気絶していた日があったからか!


 くそぅ。許さねぇぞ羽間ぁ。

 次見かけたらぶっ殺してやるからな!


「いや、今日は早く帰れって言ってただろ?あと、お前なんか怒ってる?」


「ん? 早く帰る?」

 そんな事言ってたっけ?


「ほら、今回起きた事件について保護者説明会があるとかで学生は早く帰れって言われてるだろ? 帰るなら皆がまとまっている時に帰らないとお前が嫌がるインタビューを受けることになるぞ。……あぁ、そうか。駿はホームルームの時、いなかったから知らないのか!」


 げぇぇ。

 まぁ、しょうがないか……。

 どうやら早く帰る話は朝のHRの時に言われていたらしい。


「わかった。んじゃ帰るか」

「おう。街中もあんまりうろつけないから今日も祝賀会は無しだな」


 そう庄平が言う。

 どれだけ祝賀会してぇんだよ。

 すると、


「あ~あ。俺、テレビに映りたかったなぁ」

「駿の後ろでダブルピースしたかった」

 などと文句をいう奴等が居た。


 お前等、人が大変な目に遭っているって時に呑気なことを言いやがって……。ダブルピースと同時にアヘ顔でもしてテレビに映ってろ。




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