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第62話 それぞれが進む道

最終回となります。


----------------------------------


―妖怪界日本連邦。五頭家集会施設の一室―




「以上が、この事件をまとめた報告となります」


 榊 琴音は尾野 駿を救出してから数日後、妖怪界にてお偉いさん方に呼び出され、尾野 駿の身に起きたゲーム世界に入り込んだ悪霊との戦いの報告をしていた。

 この妖怪界を一部支配する人間達。

 つまり、五頭家の面々だ。


「山姥、ダイダラボッチは軽傷で済んだか。怪獣制圧用バトルワーカーが1機も役に立たなかったのは痛いな」


「軍の威厳というよりも、人類の科学技術が役に立たなかったと民衆に思われるのは癪ですが」


「まぁ、あのバトルワーカーはエスタディア連邦から譲り受けた500年前の骨董品を改修しただけのものですし、起動が遅れていたとしても仕方がなかったでしょう」


「それはそれで問題な気がしますけどねぇ……」


「それにしても、やはり狭間の神の力は絶大だな。あの世界では力を殆ど失ったとは言えあれほどの事ができるとは」


「我らとは切っても切れぬ縁を持つ神の一柱ですからな。こちらの世界の狭間雷様につきましては、あまり処遇を重くして反感を持たれるのは避けるべきかと」


「こちらの世界の狭間雷様は、家族も多いしな……。しかし、数百億の魂を集めてこれほど馬鹿げた復讐をするとは……」


「神命 成一だったか? 呪術の家系の者だったのだろう? 確かにそれほど同一魂が集まれば、あれだけの事は出来そうだな」


「狭間雷様もそれぞれの世界で処理をすればこのような問題が起きることはなかっただろに」


「それは難しいでしょうな。各世界で処理すればその世界の狭間雷の責任を問われます。あの時空の狭間雷が多くの世界の同位体の為に犠牲になったということでしょうね」


「この次元の狭間雷ですらあのような処罰を受けているのですぞ? 他の時空では一体どのようなことになっているのやら」


 多くの大人達が議論をしている。


 琴音は余裕を持ってすました顔をしていたが、




「ところで……。欲を出した結果被害が大きくなってしまったようだね? 琴音さん。

 最初から警戒レベルを厳重にするべきだったのではないかな?」




 急に話しかけられた琴音はビクッと体を震わせる。


 琴音に声をかけた人物が話し始めると、彼よりも歳が上の人物まで会話を止め、琴音との会話に耳を傾ける。



「ひえっ。な、何のことでしょうか……」



 心臓が冷たくなっていくようだと琴音は感じた。


 一番目を付けられたくない人物に注目されてしまったのだ。


 それは、今も昔も五頭家で最も力がある存在である清堂家。その当主に。

 


「自分の手駒が欲しかったようだねぇ。

 まぁそれは成功したんじゃないかな? 陸軍部隊の他にも、空軍、海軍。兵器もそれなりに揃えることができたようで。

 元は自衛隊員を模した式神だろうがそれは関係ない。手駒を増やすことで精一杯で、ゲーム世界の魔物達を潰すタイミングを見誤ったでしょ?」


「ひぃぃいい」


 バレた。

 怒られる。そう思ったが、


「まぁ、榊家の人員不足は周知の事実だからね。多少無茶をしたとしても咎めないけど、今回の件はちょっと……ねぇ?」


「も、申し訳ありません!!!」


 どうやらそれほど怒ってないようなので、少し安心し、とりあえず謝る琴音。


「さて……。まぁいいでしょう。皆さん、琴音さんの件はつい先ほど戻ってきた磐音いわねさんと朱音あかねさん達に任せましょうか」


「妥当でしょうなぁ」


「えぇ、それがいいでしょう」


 会話が再び大人達に戻ると、皆彼に賛同した。


「えっ!? おばあちゃんとお母さん戻ってきているんですか?? まだ1ヶ月経ってもないのに??」


 琴音は計算をしていたのだ。自分にとって苦手な存在である祖母と母親。確か妖怪界で悪い妖怪を討伐しに出かけていたはずだと。1ヶ月どころか2、3ヶ月の間帰ってこない事はいつもの事なので、今回もしばらく帰ってこないと思っていた。


「えぇ、君の事を知らせたら直ぐに。ずいぶんと家族の事を大切に想っているじゃないか。いい事だと思うよ」


「いやぁああああ!!」


「ふふふ。我々としても榊家が強化されてくれたら嬉しいので、あまりキツく叱らないようにお願いをしておくよ」


「本当ですか!? お願いしますよ!?」


 自分の祖母と母は怒らせると滅茶苦茶怖いので、絶望の淵に突き落とされたと思った琴音だったが、案外周囲が自分の考えを認めてくれていたことに驚き、目の前に希望の光りを灯されたのだ。

 それはもう餌を前にしたワンコのように目を輝かせる。


「えぇ、琴音さんのやったことなど、私達の子に比べれば何ということもありませんよ。ねぇ、鬼一郎きいちろう?」


「うっ……。その話しをこっちに振らないでくれ輝明てるあき。まぁ、確かに我が娘ももう少し落ち着いてくれたらいいのだが……」


 鬼一郎と呼ばれた30代後半程の着物を着た男は、スーツ姿の鬼一郎より若干若く見える男に対し苦い表情をしながら答える。


「そうですよね! あの二人に比べれば、私なんてねぇ? だから本当に、本当にお願いしますよっ!!」


 調子を取り戻した琴音は重ねてお願いをするのだった。


 しかし、会議室の大人達は調子の良い琴音に呆れた表情をしていた。







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―とある施設―



 コツッ。コツッ。


 収容所のような施設の廊下で、先ほど琴音に報告を聞いていた人物が歩いていた。


 彼の名は清堂せいどう 輝明てるあき。この施設を管理する一族の一つである清堂家の当主だ。

 つい先ほど、琴音達と今回の事件の結果について話していた者達のリーダー的存在である。


「こんにちは。……どうでしょう。苦しくはありませんか? 苦痛を感じるようでしたら、供給量を下げて頂いて構いませんよ」


 そして一つの部屋の前に立ち、声をかける。


 部屋では太いケーブルを持って力を込めている存在がいた。


「あぁ、いや。それほど悪くはない。むしろやった事に対しては破格の待遇だと思っているよ」


「そうでしたか。流石"雷"の名を持つ神。『狭間雷』様ですね。エネルギー供給もお手の物ですか」


 輝明に優しく答えたのは狭間雷であった。


「これで琴音ちゃんが無闇矢鱈に連れてきた式神のエネルギー源が賄えますよ。あの式神達のエネルギーは、今のところ狭間雷様の力の方が、親和性が高いのでね。

 そのうち固定化させて別の外部エネルギー供給無しでも動けるようにしますから、それまでの辛抱ですよ」


「私の悪行をこの程度で許すというのだ。いくらでも力を使おう」


「そう言っていただければ幸いです。それに、そうは言っても狭間雷様の所業など、我々に比べれば……ふふっ」


 怪しい笑みを浮かべる輝明。

 それに気づいた狭間雷は呆れた顔を浮かべながらも、どこか納得したように頷き、


「……まこと、人間とは度し難い。

 だが、貴殿等の活動は私も感銘を受ける事柄の方が多いのだ。

 異世界に無理矢理囚われた同胞を異世界の神を殺してでも助け出す……。それが対価は貰うが人間界へと残った者達も対象とするのは、評価しよう」


「ありがとうございます。神である貴方様にそう言っていただけると、我々としても心強い。

 ……では、私はもう行きますね。近い内に、奥方様とのご面会も叶うよう手配を進めておきます」


「ははっ、それはありがたいな」


「では、今日はこれで失礼させていただきます」


 そう言って輝明は狭間雷がエネルギー供給をしている部屋から離れていった。






「出してくれぇぇえええ!!」


「余は、神であるぞぉぉおおお!!!」


「ぎえぇぇえええ!!」





 輝明が少し狭間雷の部屋を離れると、各部屋から叫び声が聞こえてきた。

 部屋の横には、説明書きが貼り付けられており、


『異世界ティラモスへ日本人を誘拐した神』


 やら、


『誤って日本人を殺してしまい、別世界へと連れて行こうとした異世界モノンスの神』


 等の説明が各扉付近に書かれていた。



「まったく。ここにいる連中も、少しは狭間雷様のように節度を持って欲しいねぇ」


 と、嘆いた輝明は、ここ『第2神力発電所』から出て行った。






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―数ヵ月後。現世。とある地方の街のカフェ―


~尾野 駿視点~


 あれから1ヶ月が経った。


 ゲームの世界で大冒険中だった俺は現実世界での扱いがどうなっていたかというと、なんと病気で倒れて入院中となっていたようだ。

 日本異世界召喚対策室の斉藤さんがそうなるように手を回してくれていたそうだが、現実世界でここまで手際よく処理ができる組織に関わったことに若干の恐怖を感じてしまった。


 まぁでも、二週間以上も行方不明という扱いだと後々面倒なことになりそうだから助かってはいる。

 そうは言っても、物語でよくあるような"戻ったら現実世界では1分ぐらいしか経っていませんでした。"という事にならないのは残念だ。そっちの方が遥かに後処理が楽そうだし。


「ふぅ……」


 俺は溜息を吐いた後、出されたコーヒーを一口飲む。


 結局俺は会社を病気療養の為という事で辞めた。勿論病気は嘘であるから、理由は別にある。


「うぅ~ん、英語って難しいなぁ」


 と、後ろの席で高校生位の男の子の声が聞こえてきた。


「もう! ちゃんと勉強しないと、将来海外に行った時に大変なんだよ?」


「へいへい、委員長の仰る通りですぅ」


 続いて聞こえてきた女の子の声にそうダルそうな返事をする男子。


「せっかく英語のプロも来ているってのに! 木刀で叩いてでも勉強させなきゃね」


 暴力的な発言が聞こえる……。


「まったくデース。もっとしっかりしてもらわないと困るデース」


 外国人のフリをしているような口調の喋り方をする声が聞こえる……。


「一番遅れているのに……口答え良くない……」


 大人しそうな女子の声が聞こえる。


「忙しい生徒会長も来ているんですからしっかりして下さいよ、先輩。お姉さまからもなんとか言って下さい!」


「まぁまぁ、皆落ち着いて。この子の勉強嫌いは今に始まった事じゃないのだから」


 別の女子生徒二人の声が聞こえた。

 休み中にカフェで勉強か。学生も大変だな。


「あ、ごめんなさい。遅れちゃった」


 と、ここで新たな女性が現れた。

 学生ではなく大人の女性だ。


「いえいえ、奈菜ちゃんは忙しい中来てくれているから寧ろ申し訳ないよ。ね?」


「うぅぅ……はい」


 委員長と呼ばれた女の子にそう叱られる男の子。男1人に女7人か。男の方は肩身が狭くなるんじゃないかと思ったが、声色からなんとなくだがそんな感じは受けない。

 男の方は嬉しそうである。



「さぁ、頑張ってみんなで勉強して、海外で『私達全員』が"庄平"と『結婚』できる国に移住できるように頑張りましょう!」


「「「「「「おぉ~」」」」」」


「おう!」



 委員長の号令で全員が声を上げた。と、同時に俺は椅子から転げ落ちそうになる。


 一夫多妻制! 一夫多妻制なの!?


 俺が動揺していると、彼ら8人は会計を済ませて店を出て行った。


 そして出ていく彼らの中心に居る男に向けられた周りの男達の嫉妬の目が凄い。

 リア中どころかリアルでハーレムとかびっくりだよ!


 俺なんてあれだけ頑張ったのに恋人一人も出来ませんでしたよ!?

 今まさに、一人寂しくコーヒーを飲んでいますよ?



 ……まぁ、なんにせよ、"俺が住む世界での彼ら"は幸せそうで良かったよ。

 心配でこっそり調べて様子を伺ってよかっ…………うん、良かったよ。

 本当にそう思っているよ?



 さて、あのゲームは、結局この世界で発売された事を無かったことには出来なかった。

 だが、内容が改変されていた。

 鬼畜ゲームから悪党成敗物の学園ハーレム物になっていたのだ。

 しかし、人々は鬼畜状態のゲームをプレイしていた記憶まではなくならなかったようで、ネット上で一部騒がれる事態となった。

 そりゃそうだ。プレイした記憶があるのに、ゲームのストーリーが変わっているんだからな。

 販売会社は何故かなくなっており、クレームを入れることも出来ない。

 そして洗脳が解かれたかのように、鬼畜モードの批判は高まり、ハーレムモードの方の評価は微妙であった。

 割と大問題だと思うのだが、世間的にはちょっと話題にはなったが、大々的に18禁ゲームを問題に取り上げるようなことはなかった。

 そもそも18禁ゲームでもなくなっていたからギャルゲーか?


 俺にこのゲームを勧めてきた友人は掌を返して鬼畜モードの批判をしていたのは笑ったな。




 そして最後に、実は俺には元の世界に帰ってきてから二つの選択肢が与えられた。


 一つはあのゲームの世界の中で起きた出来事の記憶を消し、重い病から奇跡の復活を遂げた人になる事。


 そしてもう一つは一連の事件の記憶を有し、俺と同じような被害に遭っている人達を助ける仕事をする事。


 このような選択肢を与えられた理由とすれば、俺がゲーム世界からの脱出という特異な経験を持っていることと、消滅したあの世界の狭間雷や庄平達の加護が思った以上に今も残っているからだ。

 力は強力なようで、それを俺も実感している。


 そして、俺が進む道への答えはそれほど悩まずに出せた。






「やぁ、尾野君。待たせたね」





 と、ここで彼らと入れ違いに喫茶店に入ってきた人物が俺に声を掛けてきた。



「斉藤さん。いいえ、私もここでやることがあったので、大丈夫です」



 俺は現れた人物にそう答えた。


「いやぁー、世間では夏休みですが、学生たちは休み中ながら勉強漬けで大変そうだ」


「そうですねぇ。俺は学生時代そんなに真面目じゃなかったので、彼らみたいに集まって勉強なんてしませんでしたよ」


 などと、世間話をする。


「そうですか……もういいのですか?」


 斉藤さんは窓の向こうでいちゃつきながら信号が変わるのを待つ8人を見ながら聞いてくる。


「はい。と、いうか話しかけるようなことはありませんし、元気な姿を見れただけでも十分ですよ」


 と、俺は答える。


「それならば良いのですが……」


 斎藤さんは寂しそうな顔をするが、俺が住む世界で生きている彼らは俺の事など知らない。だからこれでいいのだ。


「はい……。本当は墓参りもしたかったのですが、こっちの彼らは生きていますから……」


 こことは違う世界の彼らの死を悼もうとしても、こっちの世界では彼らは墓には入っていない。

 魂もこの世界の天国ではなく、元の世界の天国に行っているようだしね。


「墓参り……。今はお盆ですからねぇ……」


 斎藤さんが言う通り、今日は8月15日。お盆中なのだ。


「はい。まっ、我が家の墓参りの方は済ませましたし、これで良しとしますよ」


「わかりました。では、我々も行きましょう。串田くしだ君が待っています。世間は夏休みでも、異世界の人々は休んではくれませんからね」


「はい」


 同僚であり、先輩の串田さんも一緒か。

 新人として初の大仕事である為、気合が入る。





 現在の俺は、『日本異世界召喚対策室』の"強行救出係"に所属している。





 そう、俺はこっちの道を選んだ。





 記憶入れ替えられるのに抵抗はあったという理由もあるが、異世界に誘拐されたなんてなんだか他人事じゃない気がしてな。


 あのクソったれな世界で15日間過ごしてきて、俺は世界を見る目が変わったと思う。


 なんの色も付いていなかった人生に新たな色が付いたのだ。


 確実に世界にはまだまだ知らない事が沢山あって、多くの人達はそれを知る機会も得ずに過ごしているという事がわかった。


 俺はもっと知りたい。


 もっと隠された世界を知ってみたいと思ったんだ。




 それが良いものなのか悪いものなのかなんて、まだわからないさ。




 できることは限られているかもしれないけど、少しずつでもいいから役に立っていきたい。





 それと、当然家族には素性を隠しているが、問題はないように新しい仕事内容を多少変えて伝えてある。



 そして、これが一番の問題。俺、実はあの世界から戻ってきたら、見た目の年齢が高校二年生のままだった……。


 なんとか元に戻そうかと思ったけど、結構な術が必要なようだから、とりあえずこのままでも問題ないだろうと放置している。


 どうしても家族や知り合いに会わなきゃいけない時には、簡単な幻術で見た目をごまかしている。



「さぁ、行こう。ちゅん太」


「チュンチュン!」


 こうして俺は再び珍妙な出来事に多く関わることになるのだが、それはまた別の話。






 さて、俺が何処まで活躍できるか分からないが、頑張ってみますかね。






長い間ご愛読いただきありがとうございました!

これほど多くの方々に応援をいただけるとは思っておらず、驚きと共に感謝をしております。

今回のお話しで尾野 駿の活躍は一区切りとさせていただきたいと思います。


皆さまがもし、ゲーム世界に入り込んでしまったとしても、きっと尾野駿とちゅん太達が大軍を連れて救出に来てくれることでしょう。


※このお話しの後に、今回の話の原案となった話や登場人物紹介等を掲載します。

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