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第61話 セーフティー




 セーフティー。それは銃を誤って発泡させないようにする為の安全装置である。

 オートマチック拳銃だけではなく、アサルトライフル等にもついている装置だ。

 銃の種類によって形や付いている場所は様々であり、取り扱う場合にはしっかりと覚えておく必要があるだろう。

 銃に詳しい人ならば当たり前の知識だろうが、これを解除しなくては引き金を引くことはできない。








「ぐぉぉぉぉおおお!!!」









 一人の哀れな男が、銃弾に当たった影響で獣のような声をあげて苦しんでいた。



 のたうち回り、足をバタつかせている。



 本当に見るに堪えない姿だが、今まで俺に対してやってきた報いを受けていると思えば滑稽に感じてしまう。






「お前は変態なうえに嘘つきだよなぁ。神命・・





 俺は呆れながら転げまわる神命を見ていた。


「リボルバー拳銃には安全装置なんてないよ。あったとしても安全ゴムだっけか? 実際そんなものがはめ込まれてりゃいくらなんでも気づくって」


 安全ゴムとは日本の警察が使っている。いや、今も使っているか分からないが、要は引き金の後ろにはめ込まれたゴムの塊である。

 昔観たテレビ番組から得た知識なので、はっきりと覚えていないけどね。


「し、知ってるぞォォォそんな事ォォおおお」


 脂汗を額に浮かべながら俺にそう言う神命。


「強がりはよせ、神命。『セーフティーが外れていない』ってセリフは流石に使い古されたネタだからハッタリだって気付くさ。

 リボルバー持っている相手にセーフティーどうこうのセリフにゃ驚いたがな。

 まぁ、ちょっと驚いたから、実際に引き金が引けるか試しちゃたけど」


 内心はドキドキでした。


 だけどそれを悟られないようにしよう。


「た、確かめる為に引き金を引いた!? 普通銃を見るために視線を外すだろぉ! 頭おかしいんじゃねぇのか?」


 おいおい。頭がおかしいは酷いな。どっちかって言うとおかしいのはお前だからな?


「いやぁ。実際引き金が引けなくてもお前がビビれば面白いだろうなーって思って……」


「馬鹿にするなぁああああ!!!!」


 神命が立ち上がる。

 挑発しすぎたかもしれない。


 とりあえずもう何発か食らわせようか。


 そんなことを思って俺はこの……えぇっと……うん、正式名称忘れた。このリボルバー拳銃を立ち上がるだけでやっとの神命に向ける。

 神命の足がプルプルしているのがなんとも哀れである。

 俺の銃の腕前でも簡単に当てることができるだろう。


 今、楽にしてやるぜ。


ドンドンドンドン。


 銃を撃ち切る。


「うぅぅ……」


 おいおい。まだ生きているのか?


 もう一丁取り出して撃ってやろう。そう思った時、


「ぐべへろ!?」


 神命がタックルしてきた。


 俺は衝撃で後ろへ倒れてしまいそうになる。


 それをバク転をしながら体勢を元に戻す。何度かバク転を繰り返し、神命から距離を取る。


 接近に対応できなかった。やはり純粋な身体能力では太刀打ちできないか……。


 それが堪らなく悔しい。


「えっ?」


 神命は俺を見て驚いているが、何を驚いているんだ?


 驚きなのはお前のしつこさだよっ。


 というか、そういえば俺、バク転なんかできたっけ?


 ……いやいや、それよりも今は目の前の敵をなんとかするべきだろ。




「ざっけんな!」




 俺は先ほど銃を拾ったリボルバー拳銃のもう一丁を、神命に向けて撃った。

 向けた銃は先ほどと同じ警察官が使うリボルバー拳銃である。


「ぐぎゃっ」


 撃った弾は神命の左目に当たり、奴は小さく悲鳴を上げた。


「いってぇなぁ! お前は直ぐに人に暴力を振るおうとするよな」


 神命にぶつけられた体は僅かに痛い。


 恐らくお守りが無ければ腰が折れてがいたかもしれない。


 神命は気に入らない人物が居れば直ぐに殴りかかるような性格だ。

 こんな奴がゲーム世界ではなく、実際の世界に居たなんて驚きである。


「お前がぁああああ!! お前のような善人気取りの能無しがぁぁぁああ!! 大人しくあの時死んでりゃ良かったのによぉぉお!!」


 そう神命は吠えた。


 あの時というのは、俺があの世界に転移した初日。野和さんを体育倉庫から助け出した日の事だろうか。


「うぉぉぉおお!!!」


 まだ向かってくるだけの元気があったのか?


 俺は何故か先ほどから徐々に軽くなった体で神命の攻撃を躱す。


「能無しは認めるよ。それに俺はお前よりかは遥かに善人だから、善人を気取ってたってしょうがないだろ?」


 そう言ってもう一発銃を動き回る神命の額に向けて撃つ。


「グギィ!?」


 それでも神命はのた打ち回るだけで死なないようだ。

 本当に魔物なんだろうなぁ。

 人を撃っているのに全然心が痛まないのは、奴を人と認識していないからだろう。


 残りの弾は3発かな?


「善人なんて……自分から言う奴、信用できるか……よ……。お前はただ……。善人のフリをしているだけだぁ……」


「そうか? まぁ、女を無理矢理犯したのを武勇伝として語っている奴よりかは信用できるぜ?」


 しっかし、善人のフリときましたか。


「それと、善人のフリってアレか? お前は偽善者だぁ~とかいうアレ?

 ハッ、それもよく映画とかであるセリフだよな。

 だけどさ、考えてみろよ? 善意なんてお前みたいな悪行ばかり重ねた屑に、本物か偽物かなんて分かるわきゃぁねぇだろ? 分かったフリしてんじゃねぇよ!」


 俺がそう言い返すと、


「き、貴様ぁぁぁぁぁ…………! エロゲーの世界だってのに、女一人抱けないような雑魚がぁあああ!!」


 急に神命が怒りを見せた後、調子に乗って殴りかかってくるが、すべて捌ききってみた。


 先ほどまでの速さがない。


 まるでうるさいハエが目の前を飛んでいるので、払い落とすかのように神命の攻撃を叩き、防いだ。


「プフッ」


 ヤベッ。緊迫した状況なのに笑ってしまった。


「はぁ!? また俺を笑いやがってぇぇ!! キモいんだよぉ!」


 更に煽ってくる神命。


 うぅ……。もう駄目だ。


「あははははは!」


 ホント。なんで俺はこんな奴警戒していたんだ?


 そりゃ人間離れした強さを持っているが、精神的に幼稚すぎるにもほどがある。


「だから、なに笑ってんだよ! ヘラヘラしてんじゃねぇよぉ!」


「おっと」


 再び神命が攻撃を仕掛けてきた。


 腕を振るい、足を使い。俺を必死に攻撃するが、やはり動きが遅い。


 やはりもう奴は限界なのだろうか。


 殴りかかる腕を払い、蹴りかかる足を同じく蹴りで止める。


 その威力はあまりにも弱く軽かった。


 そして、隙を見て俺は神命の額に鉛弾をぶちこむ。


「グギョッ」


 これで残りは2発。


「お前さぁ。死んだ人間の魂だけの存在を無理矢理犯して、優越感に浸ってるの? その執着心気持ち悪すぎ。

 そもそもこちとら生きてる人間だっつーの。俺がそれを見て羨まし~って、なると思ってるの?」


「あ"ぁぁ? グ……クソっ、バカスカ撃ちやがって……。

 ちゃんとあいつ等には肉体があっただろうが! あの世界に俺達を放り込んだ死神が態々俺にまで体を与えていたんだぞ!?」


 額に脂汗を浮かべた神命が必死でそう言ってくるが、


「そういえばそんな話だったな。まぁ、それでもさ? 俺はお前と違ってちゃーんと人様に顔向けできるような恋愛できてんの。

 お前、人を襲ったり脅したりしてしかやった事無いじゃん?

 正直さぁ、それって女を抱いた数に入れてもいいのかって感じなんだよねー。

 ほら、そういうお店行って抱いた女の数も入れてるような感じじゃね? いや、それだとお店の人に失礼だな。お前はそれよりも酷いからな」


「なんだ……と?」


 凄みを利かせてくるが、全く怖くはない。


「いいかい、坊や? そういうのはねぇ、素人童貞っていうんだよ?」


 なんか違う気がするが、まぁいいか。


「貴様ぁああああああ!!」


 はい、ドーン。


「グギィィィィィ」


 ははは、後1発しかねぇや。

 どうしよう。


「お前にはまずは女の抱き方……いや、口説き方から教えたほうが良いか?」


「尾野ぉぉぉぉぉぉおおお!!!」


 睨んでる睨んでる。

 だけど地面に這いつくばっている姿が滑稽すぎるぜ。


 さぁ、最後の一発をぶち込んでやろう。




「……ん?」




 すると突然、なんだか妙な感覚になった。


 ふわっと体が一気に軽くなったような……。


 先ほどまでの感覚とはまるで別格だ。


 これは……なんだ?



「おわっと!?」



 首から掛け、服の中に入れていたお守りがすぽんと飛び出す。

 そのお守りは俺の首元、空中に浮かび、バチバチと火花を散らした。

 本来は危ないと思うはずなのだが、この時は危機感というよりも安堵感の方が大きかった。


 そして、その理由は直ぐに分かる。




「いいねぇ、勝利前の大集合って感じがして。まるでバトル漫画の主人公になった気分だぁ」




 俺の周りには光り輝きながら、透き通ったヒロイン達、そして庄平が居た。


 おそらく彼等は、あの時俺に与えてくれた力が形になって現れてくれた存在だ。


 魂は既に天に昇っているはずなので、これはその残りの思念とかそういうやつだろう。


 俺を守るように囲んでくれている。


 力を与えてくれているんだな。


 心強いなぁ。


 ぐるりと見渡すと、彼等は俺に微笑んだ後、神命を睨む。


 そうだよな。


 全員で仕返ししたいよな。


 そう思って神命を見ると、






「なんだそれは! なんてモノを従えてんだよぉぉおおお!!」






 と、神命は顔を青くさせながら震えていた。


 まったくお前という奴はどこまでも……。


「そんなのだから、お前はどこまでも一人なんだよ。お前、これは従えてんじゃなくてどう見ても協力だろ?」


 こいつの人生の中で、ただ一回たりとも同等の位置に居る仲間というのは作ってこなかったのだろう。


 全て自分の上か下か。


 それでしか物事を考えてきていなかったから、俺の周りに居る彼等を使い魔とかそういったものでしか見られないのだと思う。


 恋人も友人も居ない憐れな奴だが、こいつに対しては同情なんてできはしない。


「お、お前は所詮一人の力じゃ何も出来ない奴なんだぁああああ!!!」


 おっと、ここで俺の心にクリーンヒット。

 まさしくその通りなのだが、


「俺、複数のヒーローで一体の悪役を一方的にボコボコにする話、大好きなんだよねぇ」


 と、皆でゴミ屑と戦うことは何も恥ずかしく無いんだよ? という事を伝える。

 上手く伝わっただろうか?


「さぁ、これで終わりだ」


 俺は残りの1発を神命に当てるために銃を向ける。


 すると、幾つもの手が、俺のトリガーを触る指に重なった。


 言わずもがなだが、野和さん、坂江さん、豊森先生、三田川さん、光明院さん、長友さん、フリュードさん、庄平。

 そして、短い間だったか、家族だった庄平の両親と庄平の妹の真希。


 彼等全員がリボルバー拳銃に力を込めているのが分かる。


 お守りが先ほどよりも増してバチバチと火花を散らしながら光り輝いている。




「やめろぉぉおおお!! そんなもの向けるなぁあああああ!!!」




「どんな気分だ神命? 警官や自衛隊、多くの民衆どころか、神や妖怪まで、世界中のありとあらゆるものが自分の敵になった気分は? みーんなお前の事が大嫌いだってさ。俺には想像できんなぁ。何せ俺は善人だから」



 狙いは奴の額だ。



「嫌だぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」


 俺は迷わず引き金を引いた。


 今までよりも綺麗に光りながら発射された銃弾は、真っ直ぐ神命の額に吸い込まれていった。


「ンギャァァァァァァァァアアアアア!!!!」


 直後、神命はこれまでに聞いたことがないような金切り声を上げ、のたうち回る。

 黒い何かを噴出し、砂埃を立てながら、グルグルと高速回転を始めた。


 すごいなぁ。これ。





----------------------------------



―神命 成一視点―



 なぜ俺はこれほどまでに力を失った?


 あの忌々しい死神が作った世界の外に出てみれば見知らぬ大地。


 確実に日本ではない、どこかの大陸だろうと思った。


 だが、目の前には数万の戦車とヘリコプター。


 どれも日本の自衛隊が使うものだと巨体の目ではあるが、直ぐに理解した。


 踏み潰し、蟻のように蠢く人間達の中に女が居れば俺の子を孕ませてやろう。そう考えたのだが、巨大な老婆と特殊部隊の隊員っぽい奴が現れた。


 なんだこれは?




 次に俺の半分程の大きさがある雀が出てきた時点で、この世界はまだあの死神が作ったゲーム世界の中にいるのではないかと錯覚したほどだ。


 分けもわからず戦ったが、一方的にやられてしまい、ついにはここに居る奴等全員を巻き込んで自爆をした。


 あぁぁ。


 いい気味だ。


 俺に逆らうからこういう目に遭うのだ。


 そう思って意識を飛ばしたが、直ぐに目覚めることになる。


 姿は周囲に散らばる残骸から判断するに、元の人間の大きさに戻ってしまったのだろう。


 力も激減し、取り込んでいた魂も殆どが消滅してしまっていた。


「くそぉ……。どうなってんだよぉ……」


 俺はふと思い出す。




 尾野 駿。




 奴をこの世界に招き入れてから全てがおかしくなったのだ。


 死神はこのゲームを嫌悪する奴の感情をエネルギーに変換し、俺を攻撃しようとした。


 対して俺はその感情の元となる人物が現れた時、ゲーム世界に取り込んで、直々に始末してやろうと思った。


 俺は生きていた頃、多くの人間を葬り去ってきた経験がある。


 だから、今回も、ゲーム世界だという記憶は失っているであろうが、簡単にそいつを殺せると思った。





 だが、現実は違った。


 奴はあの世界に迷い込んでも対して動揺や発狂などせずに、その日の内に野和 彩香を助けて見せたのだ。


 その日から狂った歯車は次第に大きく歪みをみせ、修正できないところまで来てしまった。


 アイツは何者なんだ?


 普通、あんなに男にとって都合が良い世界に入ったならば、俺と一緒におかしく楽しく過ごすのが男ってもんだろう?


 アイツは異常だ。


 他の奴等であれば……。『強襲転校生』を娯楽としてプレイしている奴ならば、俺のような生き方をするはずだ!


 それなのに、何故奴は自分が好みでもないゲームをプレイした!?


 しかもシナリオを全部知っていたところを見ると、全てクリアしたとかおかしいにも程がある!!








 そして、奴は拳銃を持って俺の前に立っていた。


 得意げに5発の銃弾を撃ち終わった後、もう一丁同じ拳銃を取り出し、得意げに説教を垂れながら再び俺を撃ち続けた。


 俺が煽ってやれば、正義感どころか悪役にぴったりの笑顔で俺に言い返してくる。


 なんなんだよコイツ……。


 恋愛だ? 口説き方だ? 素人童貞だ? 本当に偉そうな奴だ! 殺してやりたい! 体が自由に動けるのであれば、今すぐにでもコイツを殺してやりたい!


 必死に奴を殺そうとしたが、奴は徐々に身体能力を上げていく。


 なんだ? 一体何がアイツの力を上げている!?


 そんな事を思っていた時だった。


 奴の周りにどす黒い感情がドロリと付きまとったのを感じた。


 なるほどな、わかったぞ。それがお前の力の正体か!




「いいねぇ、勝利前の大集合って感じがして。まるでバトル漫画の主人公になった気分だぁ」




 尾野もそれに気付いたようだった。


 だが、それは人が身に纏っていいものではない。


 俺が犯した女。俺がボコボコにした男。


 そいつ等が、顔を人の形ではない程、歪め、窪み、引き裂かれたような表情で俺を見ていた。


 一時的に神になった俺ならば分かる。


 アレは奴が思っているような祝福の類ではない! 呪いの塊だ。人間じゃない。化け物だ!!


 なぜ、尾野は平気でいられる? 人の身では制御できない代物だ!





「なんだそれは! なんてモノを従えてんだよぉぉおおお!!」




 俺はそう尾野に言った。


 尾野は胸からバチバチと光らせたお守りを宙に浮かべながら、再び説教を垂れた。


 あぁ、そうか。奴の持っているあのお守りが、あの強力な呪いの塊から守っているのか。


 尾野が安心しきっている顔をしているから、きっと見えているものすら違いがあるのだろう。




「さぁ、これで終わりだ」




 そんな事を言って、俺に銃口を向けてくる。


 奴の銃には、呪いが絶え間なく集まっている。




「やめろぉぉおおお!! そんなもの向けるなぁあああああ!!!」




 そんなもので撃たれたら、今の俺ではひとたまりもない。


 嫌だ、あんなもので死にたくなんかはない!



「どんな気分だ神命? 警官や自衛隊、多くの民衆どころか、神や妖怪まで、世界中のありとあらゆるものが自分の敵になった気分は? 俺には想像できんなぁ。何せ俺は善人だから」



 何が善人だ!


 何が世界中が敵だ。だ!


 お前は他人の力を自分の力と勘違いして酔いしれているだけのイキリ野郎なだけだろうに!


 俺は一人でやったんだぞ!


 一人で部下を作り、一人で複数の女共を犯し、俺だけの世界を作ったんだぞ!!



「嫌だぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」



 俺は腕や足の力が入らなかった為、避けることなんて出来ずに、奴の放った銃弾を額に受けた。


 奴が放った弾丸はどす黒い毒々しい煙を纏いながら俺に当たったのだ。



 その瞬間、今まで感じたことが無いほどの痛み、苦しみ、吐き気が同時に襲い掛かってきた。



----------------------------------


―尾野 駿視点―


「ウギョギョギャギョゴゴゴゴ!!」


 神命が人とは思えないような声を出しながら苦しんでいる。


「お前には恋愛なんて荷が重いのだろうな。生まれ変わったら恋愛のひとつぐらいしてみるといい」


 そう決め台詞っぽいものを言ってみたものの、こいつ、輪廻転生とかできるのか?


 確か榊さんは魂を消滅させようとしていたけど。


「貴、様ぁあ、はあああ、あ……」


 まだ立ち上がり、声を出せるのか。

 しぶといな。もう銃弾は無いぞ。そう思っていた時、


ズドン!


「へ?」


「ンぎゃっ!」


 突如爆音とともに神命が悲鳴を上げて横へと吹き飛んだ。


 なに? 何事!?




 ガサッ。




 横で足音が聞こえた。


 見るとそこに居たのは少し衣服が汚れた榊さんだった。


 よかった! 生きていたんだね!


 そして、俺の見せ場をかっぱらっていったね!


 しかし、榊さんはプルプルと震えている。

 もしかして、見た目よりダメージが大きいのだろうか。




「ふざけるなよ。薄汚い魂の分際で、よくも私の計画を邪魔してくれたなぁ!」




 いや、榊さんは怒りで震えていたのだ。

 そして、女の子が出してはいけない低い声を出している。

 よく見ると、その手には戦争映画でお馴染みの大きな対物ライフルを片手に持ち、神命を狙っていた。


 えっ? あれを片手で持って撃ったの?


 なにそれ怖い。





「う、ウガァァアアア」







 ヨロヨロとしながら立ち上がる神命。

 まだ立ち上がるんかよ。

 さっきから倒れたり起き上がったり忙しいやつだ。どこの熱血主人公だよ。お前は鬼畜ゲーの下劣な主人公だろうが。


「クソッ。邪魔だ!」


 何を思ったか、榊さんは左手で自分の狐面を剥ぎ取り、地面へ投げ捨てる。

 まぁ、確かに銃の狙いを付けるには邪魔だろうけど、それでいいの!? 仮面はアイデンティティーとかじゃなかったの??

 仮面の下の素顔はかなりの美人だったが、怒りの表情で台無しとなっている。


「死ねぇ! ゴミ野郎ぉぉおお!!」


ズドドドド。


 榊さんは憎しみを込めて神命に向け、対物ライフルを連射した。


「うわぁ」


 俺はちょっと引きながら、離れつつその光景を見る。

 神命は銃弾に当たって衝撃で踊るように体をくねらせる。

 気持ち悪っ。


「はぁ!」


 弾が切れたのか、今度は対物ライフルを投げ捨て、神命へと近付く。


ズザザザザ。


 すると、どこからともなく神澤さんと神澤さんに似た風貌の集団。そして狐面を付けた巫女さんが神命を囲む。

 均等な間隔を保ち、何重もの円になる仮面の集団。


「これで終わりだぁあああ!! 私の計画を終した報いを受けるが良い!!」


 榊さん達は術を唱え始めた。


「や、やめろやめろやめろぉおおおおおおおっおおおっおっおおおおおおおおお!!」


 神命は情けない声を出しながら地面をのたうち回る。

 イモムシみたい。


 神命の足元は光で満たされる。


 光の線が伸びて神命は囲まれる。


 あれ、もしかして五芒星になっているんじゃないだろうか? その中心に神命はいるのだろうか。


 俺はさっさとその光りの地帯から離れる。


「嫌だ嫌だ。消えたくない! 俺はまだ女共をぉぉおおお!!!」


 下衆な事を言いながら必死にこの世に留まろうとする神命。


 しかし仮面集団は容赦しない。


 術を続け、より一層光りは強くなっていく。


「いぎやぁあアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 そして神命の悲鳴と共に、神命の体は分解されていき、天にも上がらず地にも落ず、消えていった。


 ひとかけらも残っていない。


 あれだけ派手にばら撒いていた血飛沫の跡も消えていた。




「私達の勝ちだぁあああああ!!!!」




「「「「「うおぉぉおおおおおおお!!!」」」」」





 そして仮面集団は最後、蛮族の雄叫びのように勝鬨を上げていた。


 この人達、何者なんだろうなぁ。




「終わった……のか?」




 それよりも、勝ったんだな……。



 これでようやくあの変態達から勝利を手にできたんだ。



 ドッと疲れが押し寄せてきた。



「チュンチュン!」


「ん? ……あっ!」


 雀だ。雀が空を飛んでいる。


 間違いない。あれはちゅん太だ!!


「ちゅん太! ちゅん太ぁああああ!!」


 俺はちゅん太を大声で呼ぶ。


「チュンチュン!」


 ちゅん太は俺の胸に飛び込んできて甘え始める。


「無事だったんだな? というか、元のサイズに戻ったんだな。良かった……。本当に良かった」


 小さくなっていたのなら、見つけられないのは当たり前だよな。


 あのクソ主人公の自爆に巻き込まれて今度こそ死んでしまったと思ったぞ。


「心配かけさせやがって」


「チュンチュン!」


 本当に可愛い奴だ。





ズゥゥン。


ズゥゥゥゥン。




「えっ」


 影が差し込んできた。

 今度はなんだ??


 上を見ると、巨大な老婆と特殊部隊の隊員っぽい服を着た者が立っていた。


 巨大妖怪達……。彼らも無事だったのか……。


 今までどこに居たんだ?


「味方生命体全員の無事を確認!」


「敵が本当に消滅したか確認をするんだ! 周囲をよく探索しろ」


 やがて、自衛隊員や警官達の姿、戦車やヘリコプターの姿も見え始めた。


「本当に終わったんだな……」


 俺は肩にちゅん太を乗せながら動かなくなっている戦車の上に、残った力を使ってよじ登る。


 少しだけ、この戦場の全域を見てみたかったのだ。


 そして、壊れた車両が散らばる大地を見渡す。


「はぁ~~~」


 ため息を吐きつつ、勝利の味を感じるように天を仰ぐ。




「すごいことになっちゃったなぁ」




 なんの変哲もない感想を述べながら空の一点を眺めた。


「妖怪界の夕日も赤いんだなぁ」


 こっちの世界の時刻も既に夕方なのだろう。


 そういえばゲーム世界でも夕方だったなぁ。


 久々に見上げた空は、夕日に染まり美しく輝いていた。


「はぁ……ちかれた」


 俺は座り込んで、いつの間にか現れた大量のヘリコプターを見ながら、ちゅん太の頭を撫でて一息つく。


 もう今は何かをする気力も無い。












 これで俺の長かったゲーム内生活は、本当の意味で終を迎えたのであった。












 長いようで短いような15日間のゲーム内での生活が。





琴音:「はい、ということで今回もやってきました特別解説役の琴音です」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:雀の形をした式神、ちゅん太です。


琴音:「今回で、私たちの補足説明は最終回でしょうか」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:そうでしたかー。それはちょっと寂しいですねー


琴音:「そうですねぇ。と、しんみりするのは置いておきまして、今日の解説を始めましょう」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:今回はどのような内容です?


琴音:「今回説明をするのは、皆様もお気付きかもしれませんが、尾野駿さんの唐突なパワーアップです」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:あぁ、あの変態……神命と対峙してから身体能力が異常に上がりましたね。というか、本人は気付いていないようでしたが。


琴音:「あれは尾野さんも予想した通り、盛田庄平やゲーム内ヒロイン達の想いが彼の身を守り、能力を上げた結果です。

 しかし、その想いというのは完全に良い物というわけではありません。私が尾野さんに渡したお守りがなければちょっと悪い事態になっていたかもしれません。

 ちなみに、お守りがバチバチ光っていたのは、小野駿から強い怨念から守っていたためです」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:えっ……それって……


琴音:「悪霊って人によって見え方が異なることがあるんですよ……」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:悪霊って言っちゃった!?


琴音:「まぁ、悪霊は言い過ぎかもしれませんが、あまり良くないものであることは確かです。ですが、尾野駿さんにとってはマイナスにはならない存在ですよ。

 しかも、防御力はまだしも、攻撃力に関しては【『強襲転校生』登場悪役】限定の強さです」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:うーん。傍から見たらヤベェもんが取り付いている状態なのでは?


琴音:「そう見えなくもないですね」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:そうとしか見えない……。


琴音:「と、いうわけで。次回は最終回! みんな次回もよろしくお願いしますね!」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:急に話題を変えてきましたね……。えっと、ここまでお付き合いしていただきました皆様。本当にありがとうございました!


琴音:「さようならー」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:では、さようならー!




明日は最終回です。

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