第60話 地上戦
……。
…………。
………………?
「……うぐっ。痛ってぇ……」
俺は全身の痛みで目を覚ました。
「なにが……、どう……なった?」
体を起こし、あたりを見渡すとそこは地上であった。
赤茶けた大地。
戦車やヘリコプターの残骸が多くあるが、人の死骸がどこにも見当たらない。
だが、人が居た痕跡はある。
それは衣服と武器が残されていたからだ。
皆裸で逃げ出したのか?
「ん? あぁ……そういう事か」
風が吹いてボロボロになった小さな人型の紙が飛んでいった。
そういう事か。
戦車やヘリを操縦していた兵士達はあの人型の紙が元となった式神だったんだな。
つまり生身は紙になって衣服や装備が残されたと。
人の死体を見せられるよりかはずっといいが、衣服だけ残された光景というのは不気味である。
ゲーム世界では死体とか内臓とか飛び散っていたから、こちらの方が断然精神的に良い。
「なんでこんな状況になったんだけ?」
記憶を呼び起こす。
確か……、そうだ、そうだった。神命が自爆をしたのだったな。
そして……。おそらく俺が乗っていたヘリコプターは自爆の衝撃で墜落したのだろう。
俺、よく生きていたなぁ。
もしかしてお守りのおかげだろうか?
ゲームの外でも有効とは思わなかった。
しかしあいつ、碌な事しねぇなぁ。
「誰か……誰かいませんか!? ゴホッゴホッ」
できる限り大きな声で周りに呼びかけた。
だが、砂ぼこりが口の中に入ってしまい。咳が出てしまう。
榊さんや神澤さん。そして斎藤さんは無事なのだろうか。
ちゅん太もあれほど巨体だったのだが、姿形も見えない。
爆炎で焼き鳥になってしまったのだろうか?
ちゅん太どころか、ちゅん太以上に巨大だった山姥やダイダラボッチの姿さえも見えないのだ。
上空にはあれだけ多くいたヘリコプターですらいない。
「皆ぁ! どこだぁ!」
トボトボと歩き回る。
どこを進めば正解なのかがわからない。
とにかく前へと進むしかなかった。
だけど、いくら進んでも目に入るのは戦車やヘリコプターの残骸。そして紙切れと人の抜け殻のような衣服と武器だけ。
だんだんと不安になってきたぞ。
「あっ」
すると、遠くで人影が見えた。
ようやくヨロヨロとだが、動いている人を見つけることができた。
式神でも妖怪でもいい。とにかく動いている存在が見えたことで俺は安心しきって早足で駆けていく。
「おぉおおい! ん? ……うげっ」
だが、そこに居たのは……。
「う"ぅぅぅぅぅぅ」
「し、神命……」
苦しそうに立っていた通常の人型サイズに戻った神命であった。
「そ、そんな……」
俺は驚いて後ずさる。
なんでコイツが動いているんだ?
なんでまだ存在しているんだ?
自爆をしたんじゃなかったのか?
色々な何故? が頭の中に浮かぶ。
「……貴様ぁ、尾野……。尾野 駿かぁ」
ヤベェ。見つかった!?
残念ながら俺の存在に気付いた神命が、俺を睨みながら名前を呼んだ。
今更逃げることなんてできるのか?
あいつは身体能力が無駄に高いから、逃げても追いつかれる可能性がある。
ならば、せめて言いたいことぐらいは言ってやろう。
「……テメェ。神命! お前いい加減にしろよ!」
俺は忌々しげにそう言い放つ。
さんざん人に迷惑をかけて、まだ何かする気なのか?
「……グゥゥ……。いい加減にするのは貴様の方だ……。俺の……邪魔ばかりしやがってぇぇ!」
神命の負けじと俺に言い返してくる。
思った以上に苦しそうだ。
もしかして、回復しているように見えているが、結構ダメージがデカいのか?
「あ、当たり前だろ、何人もの人間に迷惑かけて苦しませて、ゲームの中でも同じことをしようとか止めるに決まっているだろう!」
しかもこいつのせいで野和さん、坂江さん、三田川さん達どころか、俺の生きる世界の住人ですら迷惑を被っているのだ。
お前の悪事を止めることに何の問題があるというのだ。
「ふんっ……。女を……取られて悔しかったか……? あんなに簡単に俺のものになったんだ!! よっぽど俺のほうがお前より魅力があったんだろうよっ!!」
「ん?」
……ん? 何を言っているんだ神命は。
いつコイツに俺の女が取られたってんだ?
ゲームの中の世界ではそもそも俺には彼女なんていなかったし、コイツは早々に脱落していたはず。
俺が住んでいた現実世界の神命は、俺の世界の狭間雷がとっくの昔に殺したらしいし……。
「記憶が混濁しているのか?」
考えついたのは、神命が生きていた頃に寝取ったと思われる女の事だ。つまり、本来のゲーム主人公になるはずだった庄平の事である。
コイツが言っているのは庄平の彼女達のことだろう。
神命は俺と庄平を間違えている。いや、違う人物だと理解していないようだ。
「プハッ」
俺はたまらず吹き出してしまった。
驚きよりも、こいつのバカバカいしセリフに笑いが腹の底から込み上げてきてしまったのだ。
「……何がおかしい?」
神命の顔は怒りに染まる。
「お前、無理やり女を襲っておいて、自分のものにしたつもりか? はははっ。そりゃぁそうだ。彼女達はお前に脅されて従うしかなかったんだからなぁ」
こいつ。本当に女性達が自分を好きで慕ってくれたと思っていたのか?
そうだとしたら、どれだけおめでたい脳みその持ち主なのだろうか。
「あ"ぁ"?」
凄んで見られたが、何故だろう。全く怖くなかった。
「わからないか? 俺はなぁ。お前のようなことをしなくてもちゃ~んと彼女達は慕ってきてくれたんだよぉ。それなのにおまえときたら……。無理やり襲っておいてこれが俺の女ですぅってか? あはははは。惨めすぎて笑えるぅ」
なんでこんな自意識過剰な勘違い野郎を怖がっていたんだろうか。
ははっ、駄目だ。屑過ぎて笑える。
俺は急激に膨れ上がる神命に対しての優位な感覚に、何故だかわからないが身を委ねた。
「テメェ!!」
神命が近付いてきた。
「無理やりでしか女を作れないブ男ちゃんには……いや、女ができたと勘違いしちゃったと言った方が正しいか? そんな君にはチェリーボーイの称号をあげよう。
本当に無理やり襲ったうえ、脅した女を自分の女だと言い張れると思ったのか?
よぅ、チェリーボーイ。目の前で狙った女が次々と正攻法で攻略されていく様を見て、どう思った?」
なんだか楽しくなってきたぞぉ。
普段では言わないような悪口でさえ飛び出してくる。
俺の体の内から何かがあふれてきた。
勇気?
活力?
なんだかわからないが、なんでもできるような。そんな感覚になってきた。
「貴様ぁあああああああ!!!」
神命が俺に殴りかかってきた。
だが、以前のような速さはない。
「よっと」
俺は避けて神命の足を引っかけると、簡単によろけてくれた。
「ははっ。もう一丁」
調子に乗って蹴りを食らわせようとした。
すると、俺の足は神命に掴まれて一気に接近され……。
「ゴペェ!」
殴られた。
うげぇ。やっぱりコイツ強ぇぇ……。
なんでもできるようになったと思ったけど、俺の強さ変わんねぇ!?
「ほぎゃっ」
痛てぇ!
地べたに顔面から転んだ。
結構ぶっ飛ばされたと思う。
「クソがぁ……」
ゴミ屑如きがぁぁ……。ん?
目の前には廃車になったパトカーが転がっている。
そして、俺はその近くに転がるものを二つ発見した。
ははっ、ラッキーアイテムゲットだぜ。
「くははっ。テメェはぁ、現実世界でも弱っちいな」
神命はパンチ一つで倒れる俺の脆弱さを馬鹿にしてくる。
「その弱っちい奴に女を取られたんでちゅかぁ?」
負けじと言い返す俺。
「なんだと……ん?」
一瞬怒りの表情を見せる神命。
ニヤリと笑いながら言ったのも効果的であったようだ。
「今のが効いていないのか……?」
だが、すぐに思議そうな顔をする神命。
「そんな弱弱パンチ、効かないなぁ。実家で飼ってる猫のパンチの方がまだ効くぜぇ」
実際はちょっと痛かった。
だが、そう挑発をすると、
「……そんなに死にたいのか? いいぜ。どうせ俺は長くねぇ。お前も道連れにしてやるよ」
神命は殺意が篭った目をしながら一歩、また一歩と俺に接近する。
そんな神命に向け、
「断るよ」
今先ほど、パトカーの近くに転がっていた2丁のリボルバー拳銃の一つを神命に向け言った。
普通はホルダーに紐で繋がれているんだろうが、戦闘の影響からか紐が千切れていたので、簡単に手にすることができたのだ。
「んな!?」
思いのほか神命は驚いているな……。
「長くないって言ってたからな。今のお前にはコイツがある程度は効くんだろうなぁ?」
俺は立ち上がり余裕の笑みを見せながら拳銃を見せつける。
なんで俺はこんなにテンションが上がっているんだろうか。
「テメェ……。正義を気取っておきながらそんなに卑怯な手を使うのかよ?」
「うん」
この状況でなんの問題があるというのだろうか?
「お前には……プライドってものがないのか? やるなら自分の力のみでやってみろよ! 俺だって自分の力を駆使して俺の女を傷つけようとした連中を倒したんだぞ!」
神命が言っている"連中"というのは、羽間達ヒロインを襲う悪役達だろう。
「えっと、今この時からこの拳銃は俺の装備品となりましたー。つまり俺の力だ」
ゲームでは装備品=自分の実力の一つだもんなぁ?
というか、お前三田川さんとか不良とかに色々手伝ってもらってなかったか?
「ゲームのつもりか! 貴様ぁ!」
お前はそのゲームから出てきたんだろうに。
「あのな? 俺には騎士や武士のような誇りなんてありはしないし、求めても無いの。求めるのはお前のような極悪人が消える事だよ」
フッと格好つけて笑ってみせた。
「舐めやがって! そんなに余裕の表情をするぐらいなら、せめてセーフティーを外したらどうだぁああ!!」
と、声を荒げる神命。
「は?」
俺は神命の言っている事に驚き、拳銃を確かめることにした。
すると、
「バカめ!!!」
「えっ?」
なんと拳銃を確かめようと思った後、突然何を思ったか、神命は俺に襲いかかってきたのだ。
パァアアアン!!
そして銃声が赤茶けた大地に響き渡った。




