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第6話 俺の身体は持つのだろうか

この更新ペースを続けられたらいいなぁ。



―駿視点。時間は少し遡り―


 午後6時40分。

 俺と坂江さんは豊森先生の自宅前にある公園へ到着した。

 特に集合場所の変更は無かったので、自宅の電話で佐々木刑事に集合場所変更の連絡はしなかった。


 公園には既に佐々木刑事が待っており、


「で、豊森先生だっけ? その方はどこに?」


 と、佐々木刑事が聞いてくる。


「まだみたいですねぇ。時間は7時で約束していますから」


 などと俺は答えて雑談をしながら待っていると、一台の車が豊森先生のアパートの駐車場に停まった。

 その光景は公園からも丸見えであり、車の中の人物はゴソゴソと動いている。


ガチャリ。


 車から出てきた人物は宅配業者のコスプレをした羽間であった。

 原作通りコスプレをした羽間は、豊森先生の自宅があるアパートの階段を上がっていく。


「「……」」


 お互いの顔を見合わせる俺と坂江さん。

 そして豊森先生の自宅に不自然な勢いで入り込む羽間。

 俺と坂江さんは急いで豊森先生の自宅まで走った。


「ちょっと! どうしたんだ!?」

 と、佐々木刑事は慌てて追いかけてきた。


 階段まで来て俺は少し焦った。


 考えていなかったが、もし羽間が部屋の鍵を閉めたらどうする? と、頭によぎったのだ。


 原作で羽間は豊森先生の自宅に押し入ることに集中し、鍵を閉めるのを忘れる。

 色々と下衆な行為が終わったあと、羽間が部屋を出る際、「おっと、鍵を掛け忘れていたよ。危ない危ない」と笑っていたので、俺は鍵は空いている前提で作戦を立てたのだ。

 そこの隙を突くつもりだったが、もしカギが開いていなければ豊森先生がナイフで人質に取られてしまう!


 だが、心配をよそに扉は普通に開いた。

 念のため、本当に宅配業者を自宅に招きいれているだけだった場合に備えて、


「豊森先生。来ましたよ」


 なんて言ってみるが、やはり羽間が豊森先生の服をズタズタに切り裂いていた為、土足のまま部屋に上がり込み羽間に向かって走る。


 羽間も動揺して後ろに下がったが、ナイフを持つ手を必死になって蹴り上げる。


 よし、これでナイフは無くなった。


「何をしている!?」


 と、後ろから追いかけてきた佐々木刑事の声が聞こえた。

 よしよし。これで役者は揃ったぜ!


 後は羽間を取り押さえるだけだ。


 うはははは、もう終わりだ。変態羽間!


 勝利を確信した俺は、羽間にしがみつき、


「捕まえたぁああ!!!」


 と、声を上げる。

 しかし、


「チッ」


 と、羽間が舌打ちをし、掴んだ腕を振り払われてしまう。


 しまった!

 そう思った時にはもう遅かった。





「グギャッ」





 俺は吹き飛ばされた。

 一瞬のうちに羽間が俺の腹に張り手をしてきたのだ。


「グフッ」


 背中から壁にぶち当った事で内臓がせり上がり、口から何かが出そうな感覚になった。

 張り手をされた腹が痛いどころじゃない。体中から汗が流れ、胃からは逆流する食い物は無く、胃液か唾液か分からない液体が口から漏れる。

 ついでに背中から壁に叩きつけられたので、肺の空気が一気に口からでて一瞬息ができなくなった。いや、今も呼吸が辛い。

 これ、神命の時と同じパターンじゃん。前回よりもダメージ大きいけどな!


「尾野君!? 尾野君!!」


 豊森先生が駆け寄ってきてくれた。

 下着も切り裂かれていた為、いろいろと丸見えの状態だが、喜んでいる場合じゃない。

 息も苦しく倒れた状態で腹を押さえていることしかできない。


 嫌だ。こんな所で死にたくねぇ、死にたくねぇよぉ!


「クヒュー。ゴボホォッ」


 俺の喉から変な音がするんですけど。

 ってか、この世界の変態共強すぎないか?

 なんだよ掌を叩きつけただけで人を壁まで吹き飛ばすとか。

 どこの武術の達人だよ。


 一応これ、高校生の体だよ? しかも男だよ?

 俺は人よりも小さいわけではなく、軽いわけでもない。極一般的な体型だと思う。

 いくら火事場の馬鹿力だとしても限度ってもんがあるだろう!

 あの外道主人公は軽々と羽間を倒していたから、羽間がこれほどふざけた力を持っているなんて分からなかった。


 俺はそう思っていると、一つ思いだした。


 そうだよ。これってゲームの世界じゃん。

 人間が人間らしい行動を制限されない世界。

 ここは架空の世界なのだから人間がビームを撃ったり空を飛んだりすることは可能なのかもしれない。

 そんな馬鹿な事を思っていると、


「尾野君!」

 ここでスマホを持った坂江さんが現れた。

 坂江さんは警察と連絡を取り合っているみたいだ。

 佐々木刑事は羽間を取り押さえていて手が空いてないのだろう。


「うわぁあああああ!!! 離せぇぇぇええええ!!!」


 あっ、本当に羽間は佐々木刑事に取り押さえられている。

 よくあの化け物を佐々木刑事は取り押さえられたなぁ。


「尾野君! 大丈夫!?」


 あ、坂江さん。揺すらないでくれ。余計に気持ち悪くなる。


「うぅぅ……」


 意識が遠くなっていくのを感じる。


 も、もうダメかも……。


 ははっ。ヒロイン達を救うといってもここが限界か……。

 あぁぁ……。せっかくヒロイン達が居るゲームに入れたんだから、せめてヒロイン達の誰かと結婚位したかったなぁ。


 叶わぬ願いと思いながら、俺は静かに瞼を閉じた。


















「ん?」


 目が覚めた。

 どうやら俺は生きているらしい。


 さて、現実世界に戻ってきたのか?それともまだゲームの世界なのか?


「尾野君!」

 俺の横で女性の声が聞こえた。

 聞き覚えがある声だ。

 見るとそこに居たのは豊森先生だった。


「馬鹿兄貴!!」


「「馬鹿息子ぉぉお」」


 周りを見るとゲームの世界の妹と両親が居た。

 あぁ、まだ元の世界には戻れて居ないらしい。そしてまた気を失っていたのか……。

 そしてここは病室であった。


 またかよ!


 周りに他の患者は居ないので個室だろう。


 起き上がると腹が気を失う前程ではないが、まだ痛かった。

 内臓破裂はしていないと願いたい……。


 両親、妹から罵倒され、豊森先生から大泣きしながら抱きつかれ。

 そんな事をしていると部屋に別の人物が入ってきた。


「あ、佐々木刑事」


 部屋に入ってきたのは佐々木刑事だった。


「あ、佐々木刑事。じゃないよ全く」


 顔を見ると佐々木刑事はかなりのご立腹の様子だった。


「では、すみませんがご家族と先生は外へ」

 と、佐々木刑事は皆を誘導して外に出した。

 その際背中を見せていたが、振り向くと鬼の顔があった。


 ヒョエェ!


 コワイィィ。


「大まかな事は君の友人の坂江さんから聞いたよ」


 口調は穏やかだが顔が怖い。


「君は事前に羽間がああいう事をするって知っていたみたいだねぇ」


 あわわわわ。


「えっと、いや、知っていたといいますか可能性があるなぁと思っていたというか……」


「そんな事はどちらでもいいんだよ!」


 ヒィィ!


「どうして正直に話してくれなかったのかな?」


 グイっと般若顔が俺の顔の近くまでくる。

 頭の中が真っ白になりそうになったが、必死に働かせる。


「いや、ストーカー対策って、自宅の前にずっと張り込みをする訳ではないでしょう? しかも知ったのが犯行の一日前ですよ? それって普通は警察が動きます? こういうのって初動が遅いとかテレビでそういうの見たことありますよ!」


 そう抗議すると佐々木刑事は般若顔から悲しそうな顔へと変化させていった。


「なるほど。最近ストーカー対策の法が制定された影響で、今まで被害に遭ってきたケースがテレビでよく取り上げられるようになってきた。それ以前の警察の失態の情報も含めて君はそれを見ていたから、今回は警察じゃ早急な対策は難しいと判断したわけね?」


 ストーカーに対しての警察の不祥事はよくテレビで取り上げられていた。

 この世界でもそれは変わらないらしい。


「まぁ……そうですね。羽間が独り言で『明日どうこう』言わなければ流石に相談していたかもしれないですが……」

 俺がそこまで言うと、


「はぁ。こりゃ俺等警察の身から出た錆って部分もあるのかもしれんなぁ。だけどな尾野君。せめて俺には一言相談してほしかったなぁ」


「分かりました……。では、次からはちゃんと相談するんですぐに動いてくださいね?」

 期待はあんまりしてないけど。


「次があるのか……」

 俺の回答に満足するどころか不安そうになる佐々木刑事。


「いや、分からないですけど」


 本当は次から次へと問題が起きる予定です。


「はぁ、もし次があるならばちゃんと連絡するんですよ? ほら、携帯。そこに俺の番号登録しておいてくださいね? これ、俺の電話番号」


 佐々木刑事はそう言ってメモに電話番号を書いて俺に渡した後、部屋を出て行った。


「ふぅ……」


 俺が一息つくと、入れ替わりに家族と豊森先生が入ってきて、再び罵倒の嵐と抱きつかれて大泣きされるという事態が起きた。

 どうやら俺に心休まる暇は無いようだ。








 ようやく俺は家族のお叱りや豊森先生の抱きつきから解放され、冷静になった彼らから俺があの後どうなったのか知ることとなった。


 まず豊森先生のアパートへ救急隊と警察達が大勢駆けつけ、羽間は御用。胃液やらなにやらよくわからない液体のゲロ塗れだった俺は病院へと送られた。


 俺は丸一日半眠っていたようで、豊森先生は事情聴取の後、俺が入院している病院へ駆けつけてきてくれたらしい。

 幸い俺が倒れた日は金曜日で、今日が日曜日。学校も休みだったから授業には支障は無いだろう。多分。

 俺が目覚めたのは気絶した二日後の午後2時。寝すぎだろう……。

 その後部屋に入ってきた医者の話では、内臓破裂や骨折などはしていないようだったが、今日も念のために入院と言われ渋々病院で一日過ごす事になった。


 俺の体丈夫過ぎやしませんかねぇ?



 夕方、家族達が帰った後坂江さんと野和さんが見舞いに来た。


「もう! 駿君! 危ない事はしちゃ駄目だよ!」

 と、野和さんは怒っていた。


「申し訳ない……」


 俺は素直に謝った。

 野和さんの顔はゲームでは決して見せたことが無い表情だ。

 恐怖に染まらず、人間らしい表情をする野和さんを見て少しホッとする。


「……」


 対して坂江さんの表情は暗く、俯いたままだ。

 そして頬にはシップが貼られている。


「えっと、坂江さん。もしかして羽間に殴られた?」

 気になったので聞いてみると、


「お父さんに叩かれた」

 と、坂江さんが答えた。


「んな!? なんで!?」

 坂江さんは両親"とは"関係は良好なはず。

 手を上げるなんてよっぽどの事が無い限り―――。


「危ないことをするなって怒られたの」


「あぁ……」

 そういうことであれば納得。

 俺も散々怒られたしな。

 ってか、シップを貼らなきゃならんほど腫れるってどんだけの威力で叩かれたんだよ。


「で、でもその後ちゃんと和解できたんでしょ? 由梨ちゃん」

 そう心配した俺の表情を見て、野和さんが情報を付け加える。

 坂江さんはその情報に対し、コクッと頷いた。


 坂江さんの元気な様子を見られない俺は鬼畜主人公に利用され続けていたゲーム内の坂江さんをチラっと思いだしてしまう。

 落ち込んでいる原因は大きく違うが、なんというか……少し悲しい気持ちになってしまう。


 あ、坂江さんと目が合った。


「はぁ~……」


 坂江さんは大きく溜息を吐く。


「なんて顔してるのよ。私は私自身の問題で反省してるの」


 呆れたように。そして、少し嬉しそうな表情へと変わっていく。

 なんて顔ってどんな顔してたんだ?俺。


「だから、尾野君のせいとかじゃないからね? お父さんには他の人を巻き込んだのか! って怒られちゃったぐらいだし」


 そう言うと坂江さんはニヤリと笑っていた。


「あ~。尾野君にそんな顔させるなんて、それこそ私駄目じゃない。いい? 私は自分の意思で貴方に着いて行っただけなんだから」


「うん」

 向こうは向こうで俺が何を思っていたのか感じ取ったようだった。

 なんだろう。やっぱり架空の世界だから坂江さんは超能力でも持っているのだろうか。


「だから変に責任を感じるなんてしなくていいんだよ?」


「あぁ……わかった」


 俺がそう返事をすると、


「ほら。元気出す!」


 と、言われてバシバシと背中を叩かれた。


「グゴホッ!?」


「ちょっと由梨!? まだ駿は!」


「あ! ヤバッ。そうだった!!」


 こうして面会は終わり、俺は明日の午後から学校へ行くため、また明日と言って二人は帰っていった。










 後6人……。


 俺の体は持つのだろうか。


ブックマーク100件行きました!

皆様、応援頂きありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします!

※2019/04/14 21:35

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