第59話 ライスシャワー
榊さんの術により巨大化したちゅん太は、俺達が乗るヘリコプターから離れ、神命へ近付く。
周囲に居た味方の戦闘ヘリは慌てて退避し、ちゅん太へ進路を譲っている。
「すっげぇ光景」
統率が取れたヘリコプター部隊の動きは圧巻の者であったが、空の王者のごとく悠々と飛ぶちゅん太に俺は力強さを感じた。
やがて、巨大化したちゅん太が妖怪や神命達が戦闘をしている区域に到達すると、巨大妖怪達がちゅん太の近くまで近寄ってきた。
「きしゃぁぁぁぁぁぁ」
山姥。
「ぐるるるるるる……」
ダイダラボッチ。
「ヂュゥゥゥン!!」
巨大化ちゅん太。
一列に並んだ光景は、圧倒的な存在感を放っていた。
そして、大量の戦闘ヘリや戦車隊。
それは今からクズをリンチしますね。という堂々たる意思を感じた。
なんだ、このスーパーヒーロー達が集まったような安心感は……。
「全員突っ込めぇぇええ!!」
榊さんがそう指示を飛ばすと巨大な3体の味方が一斉に動き始めた。
ズドォォオン。
ズドォォオン。
ズドォォオン。
足音でかいなぁ。
「グヲォォオオオオオオオオオオオ!!!!」
それを体勢を整えた神命が迎えうつ。
まるで怪獣大戦の始まりだ。
ズゴォォォオオオオン!!!
ボゴォォオオオン!!!
殴る音の一発一発がとてつもない衝撃音だ。
神命は一歩的にやられているわけではない。
見たことの無いような変態的な動きで味方の巨体達の攻撃を受け流したり止めたりしている。
あっ。神命がダイダラボッチの後ろに回り込んだ。
神命はダイダラボッチ一体に狙いを定め、渾身の一撃で殴りかかる。
ダイダラボッチがやられる! そう思った時、狙われたダイダラボッチは思いっきりジャンプをして躱し、神命の後ろへと付く。
しかし、神命も直ぐに後ろを向く。が、
ズバババババババババババ。
ダイダラボッチは今までの鈍い動きは何だったのかという位、武術の達人のような動きで神命を何十発も殴りつける。
あれか? わざと遅い動きを見せて油断させたのだろうか?
「ゴゲ!? ゴグボ!? ガッ! ガガッ!!」
神命は殴られた衝撃で飛ばされるが、神命は殴られてバランスを崩したままの体勢でダイダラボッチに突っ込んだ。
なんちゅう動きをするんだ!?
山姥がそれを阻止しようと、神命の横っ腹を蹴ろうとするが、逆に神命に足を掴まれて殴り飛ばされてしまった。
殴られた山姥は、そのまま多くの戦車隊や戦闘ヘリ隊を巻き込み倒れる。
神命はそのまま当初の狙いのまま、ダイダラボッチの方へと行くか!? そう思った時、
「ヂュゥゥウウウウン!!」
ちゅん太が急降下クチバシ攻撃を神命の側頭部へと食らわせた。
「ッケ」
変な声を出す神命。
ちゅん太は一撃離脱の戦法を取っているようで、高度を上昇させて神命から離れていった。
それを神命は気に入らなかったようで、ジャンプして飛び上がり追いかける。
ダイダラボッチは逃すまいと神命の足を掴もうとしたが、その手は空を切ってしまった。……いや、ヘリコプターが1機捕まってしまった!
「ヂュン!」
ちゅん太は後ろから迫り来る神命を振り切るために速度を上げ――――、
ドンッ。
音速を超えたようだ。
ってか戦闘ヘリが密集している中でお前のような巨体が音速を超えるなっ!
周りの戦闘ヘリ達は衝撃を受けて爆散し、神命がちゅん太の代わりに掴んだ戦闘ヘリも掌で爆発した。
味方の被害を考えなさすぎる戦いだ。
そんな事を思っている内に、地上にいたダイダラボッチ達も飛び上がり、もはや空中を飛んでいるとしか思えない神命を地上へと引きずり下ろそうとする。
「ンギャァアアアアア!!!!」
ちゅん太を逃した神命はよほど気に障ったのか高高度飛行をするちゅん太を睨みつけながら縦回転をする。
そしてそのまま回転の勢いを付け、
ガヅゥゥウウウン!!!
飛び上がったダイダラボッチに蹴りを放った。
蹴りを頭から受けたダイダラボッチは、地面へと力が抜けたように落ちてゆく。
それでも飛び上がった残りの山姥は神命の顔面を殴りつけ、神命の頬はぐにゃりと曲がり究極のブサイク面になる。
そこに再び急降下してきたちゅん太が神命の頭頂部に回転をしながら再びクチバシを突き刺した。
「キュエッ」
神命からまた変な声が発しられ、ゆっくりと地面へ背中から落ちていく。
ズズゥン。
大きな地響きが鳴り、砂埃が舞い上がった。
「ンンンンンンン……」
地面へと落ちた神命はゆっくりと立ち上がる。
「まだ立ち上がるのか!」
神澤さんが驚きの声をあげる。
「しつこすぎるだろ……」
俺は呆れながらそう言い放つ。
現状、ダイダラボッチ一体が深手を負っているようだ。
動けるのは、山姥。そしてちゅん太。
まだこちらの方が有利に見えるが、神命の体力の底が見えないのが怖いな。
それでも攻撃の手を緩めるわけにはいかない。これはもう神命を徹底的に殴り続けるしかないのか。
そう思っていると、
「ちょっとは他の式神の見せ場を作らないとね……。航空隊! 攻撃開始!」
次に榊さんがそう指示を出す。
航空隊? ヘリコプター部隊の事かな?
そんなことを思っていると、俺達が乗っているヘリは後方へ下がり始める。地上部隊もゆっくりと後方へ移動を開始した。
同時に味方の巨体達もだ。
なんだ? 命令を受けた航空隊と思われる攻撃ヘリ部隊も下がっているぞ。どうするんだ?
そんな事を思っていると、
キィィィイイン。
ゴォォォォオオ。
榊さんが映し出すホログラムから何かが聞こえる。
「上空に航空機の部隊が来ているようですね。まさかあれほどの数を揃えているとは……」
と、どういうことか分かっていない俺に斉藤さんが教えてくれた。
俺はヘリの外。上空を見る。
「えっ!?」
黒い点が幾つ見える。
というかもう黒い何かが埋め尽くされているようだ。
雷雲かな? そう思ってしまうほどの黒い塊が空を埋め尽くしている。
なんと、上空には、とてつもない数の戦闘機部隊が空を埋め尽くし飛んでいたのだ。
地上に居る戦車部隊よりも多いんじゃないか??
「<ミサイル攻撃を開始!>」
と、ホログラムから声が聞こえてくる。
映像には万はいるであろうF-22やらF-35戦闘機が映し出されていた。
これらがあの黒い点の正体なのだろうか。
するとホログラムの映像に映し出された戦闘機部隊から一斉にミサイルが飛びさして行き、神命へまっすぐと向かっていった。
「グガ? グガァアアアアアアアアアアアアア!!」
危険を察知したのか、神命は空に向かって咆哮を上げたが、その瞬間、体に、そして開きっぱなしになっていた口にもミサイルが入り大きな爆発が起こった。
「グギャァアアアアアア!!!」
悲鳴が聞こえる。
戦闘機部隊は神命の頭上はるか上空を通り過ぎて行く。
「まだまだよ。B-52部隊。ミサイル攻撃開始!!」
「B-52!?」
あの有名な爆撃機もいるの!?
「<了解。ALCM発射>」
再びホログラムから声が聞こえた。
そして映し出されるB-52の大編隊。
彼等はそれぞれの腹の中や翼の下からポトリと大きな何かを落とす。
どうやって撮影しているのかわからないけど、下から映し出された映像だったのだが、最初はそれがミサイルではなく爆弾ではないかと思った。
しかしその落とされた物体はミサイルというより、遠くから見ればタイ米のようなものであった。
白くて細長いそれは一斉に各機から落とされ、細い翼を生やし飛んでいく。
何千粒あるだろうか。多くの羽が生えた米粒が空を飛んでいるような不思議な光景がホログラムには映し出されていた。
「グルルルルルル」
今度は神命の方向から唸り声が聞こえてきた。
煙が薄れ、姿を現した神命は俺達を睨んだままだ。
既に神命は死にそうなのだが、まだ声は出すことができるのか……。
そんな事を思っていると、後ろから大量の……数千粒ものタイ米が飛んできた。
あぁ……。これはまるで、奴の消滅を祝福するために用意されたライスシャワーではないか。
グドゴォオオオオオオン!!!
今までに無い大きな爆発を起こす。
綺麗だ――――――――――。
それから、どのぐらい時間がたっただろうか?
数秒、いや、数十秒程経った後、
「どうなった?」
俺は爆炎がまだ多く残る神命の方を見ながら機内の誰かに問いかける。
「……まだ反応がある」
と、榊さんが答える。
「まだ生きているのかよ!」
奴の生命力は呆れるほどしぶといな。
いや、既に死んでいるから生命力とは違うのかもしれないが。
「手を休めるな!! 攻撃を続行せよ!」
榊さんがそう指示を飛ばすと、いつの間にか止んでいた攻撃ヘリや戦車隊が散発的に攻撃をする。
「これほどまでにも強大な存在だったとは想像できませんでしたね」
「いやはや。これは後始末が大変そうです」
と、神澤さんと斉藤さんがそんな話をしていた。
「煙が晴れてきた……」
ようやく風の流れによって神命の体にまとわりついていた煙も晴れてきた。
「これは……。どう判断すればいいのでしょうか? あの状態ではさすがにあの化け物の勝ち目は無いと思うのですが……」
神澤さんがそう言った通り、神命の体はボロボロであった。
あれほど高速で再生していた体も、今では回復されていないようで、体中から血を流しながら俯き立っている。
誰もがそんな神命を見て勝利を確信した。
「「「「えっ?」」」」
だから、次の瞬間、一番神命の近くに待機していた山姥に一瞬で距離を詰めた神命の行動に理解ができなかった。
ボロボロで、一歩動けば倒れてしまいそうな見た目なのに、何故あれほど早く動けるのか。
そう思っている間に強烈な一撃を受けて後方へと飛ばされる山姥。
次に動いたのは復活したダイダラボッチと最後に無傷で残ったそしてちゅん太だ。
二体は神命をがっちりと取り押さえる。
ちゅん太は器用にクチバシで足を咥えて抑えている状態だ。
ダイダラボッチは、後ろから神命の両肩を抑えている。
そして、復活……というにはまだ早いが、山姥もよろめきながら神命の片足をがっちりと掴んだ。
「……侮れないわね。このまま魂消滅の術を使うわ。あれはもう元の世界に戻す事ができるレベルじゃない」
そう榊さんが言うと、神澤さんが頷いた。
俺もいつの間にか神命が魂とかいう存在で成り立っていた事を忘れていたようだ。
言うなればあいつは霊的な存在だ。
全然そうは感じないけどな。
「術者は全員生き残っているかな? ……うん。大丈夫なようね。それじゃぁ、奴に術をかけるために近づくよ」
榊さんの指示で俺が乗るヘリを含む数十機のヘリが、取り押さえられている神命へと近付く。
「グルルルルル……」
神命は人間とは思えない位低い唸り声を上げていた。
目は虚ろで、肌の色は生きている人間とは思えないぐらい紫がかっている。
やがて神命の目と鼻の先まで近づくと、
「消滅の儀式始めます……」
そう言って榊さんは右手を顔まで上げ、握り拳の状態から人差し指と中指だけをピンと伸ばして、聞きなれない言葉を発し始めた。おそらく呪文とかそういうのだろう。
同時に神澤さんも術っぽいのを榊さんと同じポーズで唱え始める。
「……グルルル。グルルルル!!!」
神命は苦しそうにもがく。
「グアアアアアアアアアアアアアア!!!」
そして、神命の体の中から光が溢れ出した。
あれが魂が消滅する光か?
「しまった! 自爆!?」
「はぁっ??」
榊さんが術の途中で声を荒らげた為、俺はあの光が術とは全く別物と理解した。その瞬間、眼前の光は強くなり、俺は意識を失った。




