第58話 怪獣大戦
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―妖怪界防衛基地の一つ―
時刻は巨大化した神命が妖怪界へ現れる30分前。
妖怪界の人類生息地域の辺境にあるこの基地では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「榊家から人間界の兵器が次々と送られてきているだと??」
「は、はい! 既に基地の滑走路に航空機が降り立ち、順次各格納庫に入れられています。その数、三百。まだまだ増えます!」
「一体彼等は何を考えているんだ……」
基地内の人間は慌てた様子であった。
同時に、この場で待機をしていた日本異世界召喚対策室の串田は、
プルルルルル。
「!? 斉藤さんから電話だ!」
と、かかってき電話に出た。
「<串田君。榊家の琴音さんの思惑がわかりましたよ>」
そう、電話に出た途端そう言ってくる斎藤。
「えぇ、次々と人間界の兵器が送られてきていますよ。今こっちの基地ではパニック状態です。まさかクーデターなんて考えているんじゃないでしょうね?」
「<いえ、そうではありませんよ。いくら数があるとは言え、この程度でクーデターができる程の戦力はありません>」
確かに送られて来ているのは全て妖怪界人類にとっては全て旧式兵器だ。
クーデターを起こそうとも、直ぐに制圧されてしまうだろう。
だが、無視できる戦力でもない。
「それはそうかもしれませんが、それでは、なぜこんなに戦力を?」
「<気付きませんか? 送られているその兵器や人員。皆、神器や式神ですよ>」
「はい!?」
人員が式神化したのならば分かる。
しかし問題は数だ。
既に数十万人分の人間と見分けが付かない存在が式神となっていると言われ、串田は混乱した。
それに兵器についても神器化したというのも信じられない。
「いったいどこでそんな数の式神や神器を製造していたんですか……いや、まさか」
「<そのまさかですよ串田君。榊 琴音さんはあのゲーム世界で式神等を大量生産していたのです。あそこはどうやら神の力の影響で式神が作りやすいようですからね。
しかも、あっちで作った兵器はもれなく神が携わった兵器。つまり神器になるのです。
燃料や破壊されでもしない限り整備も心配が要らないとんでもない神器のようです>」
「そんな無茶苦茶なぁ! そ、それよりもなぜそんな馬鹿げた事をしようとしているんです!」
それが一番の問題だ。
クーデターでも無いのであれば、旧式兵器の大軍をこちらの世界に連れてくる目的が分からない。
「<目的は人員確保ですよ>」
「へ?」
串田は何を言われたか理解できなかった。
人員確保。いったい何の為の人員確保なのだろうか。
「<年々榊家の求心力は落ちてきていたのは、串田君も知っていますよね? そして新たな資源を求めて土地を開拓しようとも榊家では人員不足。妖怪界では人間に敵対的な妖怪もまだ多数いますからね。
開拓者を守りながら土地を切り開くにしても多くの人材が必要です>」
「ま、まさかそれだけの為にこんな大軍を!?」
「<もちろんそれだけではないでしょう。近年日本人が異世界に誘拐されている事件が多数起きています。その救出に榊家からも出資したいという話を先ほど榊 琴音さんから伝えられました>」
「榊 琴音さんから直接ですか!?」
現在榊家で一番偉いわけではない榊 琴音からの提案をどれほど信用していいのか分からない串田は、思わず聞き返してしまった。
「<はい。……おっと、尾野 駿さんが救出できたようですね。私はこれから彼を迎えに行きますので、そちらはよろしくお願いします>」
「えっ、あ、はい。わかりました」
一番の目的であった尾野 駿救出の目処が立った事が榊家にはついでのような感じがしてしまい、どうにも納得ができない串田だったが、斎藤がいれば安心だろうとは思い返事をした。
しかし、この30分後、基地内は更なる混乱に包まれたのであった。
―指令室―
「ゲーム世界から巨大物体が出現!」
「なんだ? 榊殿の新たな式神か?」
基地司令の綱倉大佐は突如出現した物体に辟易した。
これ以上基地内に式神の保管場所なんて無い。
すでに滑走路は旧式の戦闘機が並び、その存在は格納庫には収まらず、入れることができる各倉庫にまでも及んでいる。
「いえ、違います! これは悪霊の反応……ん? 神の反応もある……。ま、まさか邪神!?」
「はぁ?」
オペレーターからの報告で訳が分からないという顔をする綱倉。
「榊 琴音様からの通信!」
「繋いでくれ……」
一体何をしたんだ? という嫌な顔を隠さず綱倉は指示を飛ばすが、通信は表情も見られるものであったため、慌てて笑顔を作った。
「これはこれは琴音様。追加で大きな反応があったようですが、アレはなんです?
もはやこの基地内に保管場所なんてありませんので、できたら基地の外に置いて頂きたいのですが……」
一応そう聞いてみる。
だが、琴音から返ってきた言葉は、
「<アレは敵です! ゲーム世界の魔物が邪神となりこの世界に出てきてしまいました。直ぐに私が送った式神を出動させてください>」
「はいぃぃぃいいい!!?」
琴音の言葉で驚いた綱倉は、
「なんでそんなもんがこの世界に!?」
慌てる綱倉に、
「<この件は我々で対処します! 早く送ってください!!>」
と、綱倉に急かす琴音。
そして通信は切られてしまった。
「す、直ぐに榊家の式神を送れ! 後、この基地の軍も一緒に送るんだ!!」
琴音には自分達だけで対処すると言われてしまったが、それでは軍としての体裁が保てない為、綱倉はそう指示を飛ばすが、
「む、無理です! この基地の軍の格納庫にも式神や神器が満載されています! 榊家からの式神や神器を全て出し切らないと出撃できません!!」
オペレーターに基地の機体は飛ばせないと言われてしまう。
琴音には申し訳ないが、この基地に配備されている機体の方が、人間界兵器を模った神器よりもずっと優れている。
そんな機体が出せない事に、綱倉は焦る。
「ほわぁぁあああ!?」
綱倉の頭の中には失態の文字が鮮明に浮かぶ。
緊急時に出撃できないなど、基地司令としての沽券に関わるからだ。
「基地所属機を出すために、榊家の式神や神器を破壊すれば、多少は早く出撃できますが……」
そう提案したオペレーターに、
「馬鹿か!! 五頭家の所有物に傷でも付けてみろ!! お前、責任とれるのか!?」
と、綱倉は怒鳴り散らす。
「これは一体何事で――――」
と、ここで司令室に入ってきたのは日本異世界召喚対策室の串田であった。
救出作戦に参加している串田は司令室に入る事ができる権限を特別に持っていたのだ。
「あ、アンタ等は一体異世界から何を連れてきたんだぁ!!」
そう混乱している綱倉司令が串田に八つ当たりをしてしまう。
串田は五頭家の人間ではなかった為、当たり易かったのだろう。
「はぁ!?」
当然、突然怒られた串田はなんの事かわからず、そう返してしまった。
そこに、
「司令。すでにこの基地に待機していた妖怪達が現場へ向かっています!」
と、オペレーターが言うも、
「それはこの基地の兵士じゃないだろうがぁああああ!! それより外に放置してある巨大兵器を出せよぉお!!」
綱倉は再び怒鳴ってしまう。
「げ、現在起動中です……」
あまりの迫力に委縮してしまうオペレータ。
基地から所属している通常部隊が出ることが出来たのは、やはりしばらく後の事であった。
「……駄目だこりゃ」
そんなやり取りを、串田は冷めた目で見た後、基地の外に駐機させられている無駄にデカい人型の兵器を見て、溜息を吐いた。
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―尾野 駿視点―
ズルン。
ズルン。
巨大な神命は全身をこちらの世界に現した。
「直ぐに軍へ報告し、私達が妖怪界の各基地へ送った式神達や神器を呼び戻します」
榊さんはそう言って通信で誰かに話をしているようだ。
「うわぁ……あれ、東京タワーくらいあるんじゃないです?」
と、斉藤さんが呟く。
東京タワーって確か333mだっけか?
周りに比較するものがないからわからないけど、神命と比較して戦車が豆粒に見えるほどだから、でかいことはわかる。
「成長は止まっているようですね……」
あの巨大化を成長と言っていいのかはわからないが、神澤さんはの言う通り、ゲーム世界内のような急激な巨大化は止まっているように見える。
「こっちの世界ではゲーム世界の法則は通用しないようね。だけどこれは……、私も全力でやらないといけないなぁ……。尾野さん、申し訳ないけどもう少付き合ってください」
そんな事を榊さんから言われた。
「あ、あぁ、問題ないよ。俺もあのクズにはいい加減消えてもらいたいからな」
俺は何もできないけどな!
「よろしいのですか? あなたはこれ以上危険な目に遭わなくてもいいのですよ?」
俺を救出する立場である斎藤さんはそう言ってくれるが、
「構いません」
そう俺が強い意志を示すと、
「わかりました。では、くれぐれもヘリから落ちないように気を付けてください」
と、注意するだけに留まった。
「ありがとうございます。なら、私も式神の指揮に専念できる。行けお前達。榊の式の力、見せつけよ!」
榊さんがそう命じると、何万もの戦車が、攻撃ヘリが攻撃を開始する。
防音の術により、俺が乗っているヘリには爆音はそれほどひどくはないが、目の前の光景は凄まじかった。
オレンジ色の炎と共に、黒い煙が神命の全身に纏うことになる。
その様子を見て、怪獣映画で見る光景よりも規模が大きいな。などと、馬鹿なことを考えてしまう俺。
「グロロロロロロロオオオオオオオオオ!!!」
だが、神命はそれで止まることはなく、ゆっくりと一歩一歩前進してくる。
「効かないか……」
斎藤さんは悔しそうにヘリの内壁を叩く。
これだけの火力があってもダメージを与えられないのか?
いや、ダメージはあるかもしれないが、目に見えてわからない。
どうすりゃいいんだよ!
「榊様!」
と、ここで神澤が叫ぶ。
「来ました! 軍からの連絡があった妖怪の援軍です!」
神澤さんが窓の外を指差し、叫ぶ。
援軍?
俺は後ろを見て、ヘリの中から近づいてくる存在を見る。
「――――――は?」
俺は目に入ったものが理解できなかった。
「な、なんだあれは!?」
俺は見たものがなんだかわからなかったからだ。
いや、形は理解できる。
だけど、なんでそんなものがあんな大きさで向かってきているのかわからなかった。
なぜ、なぜあんなにも巨大な"老婆"と、全身警察の特殊部隊のような格好をした"巨人"が全力で走ってくるんだ!?
「来たわね。ははっ、流石は妖怪界。"山姥"と"ダイダラボッチ"の行動は早いわね」
はぁ!?
山姥??
ダイダラボッチ!?
ダイダラボッチはまだいい。確か日本の巨大妖怪の一匹だ。山よりも大きく、全国各所に伝承があるほどだ。
今見ているダイダラボッチも神命と同等の大きさだから小さい山程度位の大きさだ。
だが、山姥はなんだ? 山姥ってあんなに巨大化するもんなのか!?
そんな事を思っていると、その巨大妖怪達は俺が乗っているヘリコプターの横を通過し、既に神命、巨大妖怪両者の距離は間近まで迫ってきていた。
「ンキョォオオオオオオオオオオオ!!!」
怒り狂った神命は目の前から高速で移動した。
そして一瞬のうちに山姥と距離を詰めてしまう。
なんだあれ! さっきまでのノロノロ移動はどうしたんだよ。
「えっ? 縮地!?」
斉藤さんは驚き、そんな言葉を漏らす。
縮地ってもしかして武術の縮地か?
そういや神命はかなり喧嘩が強かったが、もしかして武術をやってたのか??
あの巨体で縮尺では全く人間と変わらないスピードで移動した神命。
かなりのスピードであり、地上に展開していた戦車隊が転がる。
「グォォォオオオオオ!!」
そして、神命は山姥を殴り、吹き飛ばす。
下の戦車隊は滅茶苦茶だ。
「グゥゥゥゥゥ……」
後ろへと下がったが、なんとか倒れる前に踏みとどまる山姥。
「ギシャァアアアア!」
それが気に入らな方のか、神命は山姥へと威嚇を続けた。
そして、
「ギシャァ!!」
もう一度、神命は縮地を使ったのだ。
だが、さらに驚いたことに、山姥も神命と同じことをしやがった。
縮地である。
ズグゴゥゥゥゥン!!
次の瞬間、ものすごい衝撃音が俺たちを襲った。
二人同時に縮地なんてしたものなので、神命と山姥は正面からぶつかったのだ。
「「グギャァアアアアアアア!!!」」
激しい衝撃が距離が離れている俺達のヘリにも伝わる。
そして、巨体が二つも悲鳴を上げながら地面を転がる。
相当痛かったのだろう。
二つの巨体か転がる度、地上の戦車やパトカーが押しつぶされ、次々と爆発していた。
「あ"ぁ"あ"あ"あ"!?」
榊さんも下を見て悲鳴を上げた。おそらく自分が操る式神が押しつぶされたからだと思う。
ちょっと同情する。
「グォォォォォ」
山姥は痛がりながらも素早く立ち上がり、地上部隊を巻き上げ、神妙の背を取り回し蹴りを放つ。
神命はそのまま数回転しながら地面を転がった。
ついでにあの巨体で縮地なんてするもんだから、双方から放たれたソニックブームが戦車隊を襲い、戦車がゴロゴロと地面を転がっている。
「ガァアアアアア!!」
地上部隊は砲撃をしながら潰れていく。
それでも生き残った地上部隊は健気にも倒れた神命に更なる攻撃を行っていた。
「ンギョロロロロロロロロロロ!!!」
神命は地面を思いっきり蹴った。
地面が抉れ土が舞い上がり、戦車やパトカーが一緒に宙へと浮かぶ。
土や戦車が山姥の顔面に当たり、山姥の視界は一時的にだが奪われたようだ。
一方俺達が乗るヘリコプターのすぐ横をパトカーが飛んでいく。
一瞬中に乗った警官が見えてしまった……気がした。
恐怖に染まっていたとかいう表情ではない、白目を剥き、首が若干仰け反っていた。
ファンファンファンファァァン――――――。
パトカーはそのままドップラー効果で音を変えながら後方へと飛んで行った。
「グゴォォォオオ!?」
山姥の悲鳴が聞こえる。
神命に目潰しをされた隙に腹を殴られたようだ。
「魂が寄り集まっただけの邪神如きがぁぁぁぁ。もう怒った。突撃よ! 突撃ぃぃぃいい!! 対象は今ダメージを負っている! 相手はたかが数十億だか数百億の雑魚魂の寄せ集め、攻撃を継続し確実に削ってやりなさい!」
榊さんはそんな命令をしながら、自身も乗るヘリも近づけさせる。
うわぁ。勇気あるなぁ……。俺には真似できない行動力だ。
って、俺も一緒に乗っているから突撃する事になるんだけどね!
一方神命はというと、更に山姥へ追撃しようと詰め寄る。
が、横から飛び出してきたダイダラボッチに右ストレートを顎に食らってしまう。
「ンオォォォォ」
バランスを崩して倒れた神命。
しかし、両足首を素早くダイダラボッチの首へとかけ、グイっと捻る。
あっ。ダイダラボッチの首が曲がってはいけない方向に……!
だが、ダイダラボッチは倒れなかった。
曲がった首のまま、神命の足首を持ち。拳銃を抜いて神命を持ち上げる。
すると、背中がガラ空きになった神命に向かって拳銃を撃った。
ズガァァアアアアン!!
ズガァァアアアアン!!
拳銃と言ってもサイズから言えば大砲だ。
「ゴアアアアアアアアアアア!!!!」
神命の体を貫通した弾は、地面に当たる。そしてその弾の何発かは地上部隊に当たり、爆発を起こす。
まったく味方を考慮しない戦い方だ……。
それでも戦車隊は味方に被害をもたらしたダイダラボッチには目もくれず、神命に攻撃を続けるだけだ。
神命は後ろへと下がり、距離を取る。
ズガァァアアアアン!!
ズガァァアアアアン!!
ズガァァアアアアン!!
ダイダラボッチの銃撃は止まない。
むしろ、離れてくれたお陰で遠慮なく銃を撃っているようだ。
貫通した弾が遥か後ろの大地に着弾し、砂煙を上げている。
爆発はしないようだ。
「グゥゥゥゥゥ……」
神命は苦しそうな声をあげるが、
「だめ……。回復速度がダメージ量を越している」
弾丸で開けられた神命の体はみるみるうちに塞がって血の跡も残さない程綺麗になっている。
チート使ってんじゃねぇよ!
「軍所属の妖怪達ばかりに戦わせない! 私達もどんどん攻撃するのよ!」
榊さんが味方に鼓舞していると、
「チュンチュン!!」
と、ちゅん太が俺の肩から離れて榊さんに向かって鳴く。
何かを伝えようとしているのか?
「ちゅん太も行ってくれるのね? よぉし、あなたも強力な戦力の一つとして、扱うわ」
榊さんは、そう言うとちゅん太に手をかざして呪文を唱え始める。
「本来の力を取り戻し、あの邪神と戦いなさい!」
「チュンチュン!」
すると、ちゅん太はヘリの外へと飛び出して行く。
そして、どんどんと大きくなっていき、
「ヂュゥゥウウン!!!」
なんと。ちゅん太が巨大化したのだ。
神命の半分ほどの大きさだと思う。
とんでもない巨体の雀が空を飛ぶ。
「よっしゃぁ! そのまま奴に攻撃だぁあ!」
テンションが高くなった榊さんは、ちゅん太にそう命令をした。
この物語に出てきた山姥は巨大化できます。例:童話『三枚のお札』
そして、初期から登録していたこの小説のキーワードに【怪獣】が入っていたのは、本日投稿させていただいた話を書きたかったからとなります。
突然、世界観が変わったかもしれませんが、どうか温かい目でご拝読をお願い致します。
琴音:「妖怪共ぉぉおお!! もうちょっと慎重に戦えよぉおおお!!!」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:そんな事言っている余裕無いでしょ。




