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第57話 悪霊の意地



「本部了解」


 そう言ったのは榊さんであった。


 神命は光の柱に包まれた。

 あれで生きているというのであれば、もう倒す手段なんてあるとは思えない。


「流石は狭間の神……」


「力を失っていたとしても、あれほど大規模な術ができるとは……」


 と、神澤さんと斉藤さんが話しているのが聞こえた。

 俺にはどういう術かは理解できないが、あれが凄いものだというのは分かる。


 ようやくこれで終わったのか。

 そう思うとどっと疲れが襲ってきた。


 長かった……。




 視線をホログラムのモニターから外してみれば、いつの間にか狭間の空間からは脱出し、赤茶けた大地が広がっている。

 空から地上を見渡せば、見たことが無いほど広い平地が見える。

 同じ空にはヘリコプターがそこら中を舞い、地上には自衛隊と警察の車輌が無数にあるのだが、あんなに持ってきてどうする気なんだろうか。戦争でも起こすつもりなのだろうか?


 それに、ここはオーストラリアかな?

 少なくとも日本でこのような風景がある場所なんて知らない。

 そもそも外国だった場合、これほど多くの自衛隊が展開していても問題にならないのだろうか……。



「ようやく帰って来ることができましたか……」


 そう一息つく斉藤さん。

 どう見てもこの景色は帰って来たと思うことはできない。


「あの……ここは?」


 不安になって聞いてみると、


「あぁ、説明していませんでしたね。ここは"妖怪界"という場所です。

 尾野さんが住む人間界の日本とは次元が違いますが、異世界ほど遠い次元では無いので、すぐに帰ることができますから安心してください。それに、もう1時間程飛べば街が見えてくる筈です」


 と、斎藤さんが教えてくれた。


 妖怪界……。

 確か狭間雷と榊さんが話していた遥か昔に日本人が手に入れた新天地。


 もはや何がなんだか分からないが、上空や地上に展開する式神達を見れば、これだけの数の存在を日本に送り込んだら大混乱だろう。ここはそのための一時保管場所なのだろうか。

 そもそも人間界に送り込む事はないかもしれないから、無駄な心配だといいのだが……。


 しかし、妖怪界に町か。

 天狗や鬼などが居るのだろうか。


 そんなふうに気を緩めていたら、






「……!? まだ終わってない!」






 と、厳しい口調で榊さんが叫んだ。





----------------------------------




―ゲーム内空間―




「馬鹿な……」


 狭間雷は驚きを隠せなかった。


 術の効果が切れ、柱が徐々に輝きを縮小させていく。


 段々と細くなっていく光の柱の中から、焦げた何かが動き出す。


「アレを喰らってもなお、動くつもりなのか。お前は」


 神命だ。

 時間経過の巨大化は既に無くなっていたが、巨大であるソレは、ゆっくりと進み始めた。


 焦げた皮膚は徐々に元の血色の悪い皮膚へと変わっていく。



「これ以上、貴様を進ませるわけにはいかん!」



 狭間雷は咄嗟に雷で出来た牢屋を落とす。

 しかし、神命はうざったそうに一払いすると、電気の牢獄はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。


「ちっ、こいつ……」


 神命は目標を狭間雷へと切り替えた。

 素早く振り下ろされる拳。

 そのまま狭間雷は建物ごと押しつぶされてしまった。


「ぐ……」


 狭間は苦痛により顔を歪める。


「だが、だがまだだぁぁぁああ!!! くらえぇぇぇええええ!!!」


 続いて狭間雷が行ったことは、今できる最大出力によるゼロ距離攻撃――――自爆であった。


「お前は世界に居てはいけない存在だ! 私と共に死ねぇぇええええ!!!」


 すると、直視できないほどの強い光と共に、大規模な爆発が起きた。


 先ほどの光の柱とは比べ物にならないほどの広範囲攻撃だった。

 神命の右の拳は吹き飛び、展開していた地上部隊の一部も一緒に吹き飛ばされる。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 今まで攻撃を受け続けていても出さなかった悲鳴を上げた。







----------------------------------


―尾野 駿視点―



「<グォォオオオオオ、グォォオオオオオオ!!!>」


 神命の右手は破壊できた。

 しかし、体の大部分は無事。しかも除々に回復をしているようで、ゆっくりと右手が形成されている。


 回復を少しでも遅らせる為、ゲーム内の生き残った自衛隊達が攻撃をしているが、効果はあまりよろしくない。


「あちらの世界の狭間雷様の反応が消えた……? まさか自爆攻撃でもしたの……?」


 榊さんは神命が存在しているよりも、狭間が消滅した衝撃の方が大きかったようだ。

 いや、確かにそれは俺にとっても驚きでしかないが。


「そんな。いくら巨大な存在と言えど、相手は魔物なのでしょう?」


 斎藤さんもそう信じられないといった様子で、そんな言葉を発するが、


「いえ、アレは既に神の域に達しています……。邪神と言っても過言ではないでしょう」


 と、榊さんが説明をする。


 邪神って……。そんなヤバい存在になってんのかよアイツ。


「<グギギギギギギギ!!!>」


 と、ここで神命の移動速度が上がった。

 障害となる戦力が殆ど居なくなった事により、真っ直ぐゲーム世界と現実世界を繋ぐ門へと突っ込んで行こうとしている。


 神命の進行に合わせて吹き飛ばされるゲーム世界の建物や住人達。


「まだ門は閉じられないの!?」


 と、榊さんは言うが、


「どうやら外部からの妨害で門が固定化されているようです! 外部からの影響は、狭間雷様が消えた瞬間からさらに増大!! 犯人は恐らく神命 成一だと思われます」


 そう神澤さんが答える。


「くっ、狭間雷が消えたことで、主導権が一部戻ったのね……。門との距離が近い……これじゃぁ、核を使ったらこっちの世界まで爆風が届く可能性がある!!」


 そんな会話をしているうちにとうとう神命は門に突っ込んでしまった。


















 榊さんが用意した美しい青空と水が広がる世界が灰色に染まった。


 わずかな白い雲しかなかった空には暗雲に覆われ、水面は大きな波を立てる。


「来た……!」


 防音の術によりヘリの爆音が軽減されている機内の中から、遠視の術で自身が作り上げた狭間の世界を見る榊さん。

 遠視の術は俺達にも見えるように、サッカーボール位の大きさがある丸い光りの球に、映像が表示されている。


「<ギョウウェェェエエエエエエエエエ!!!>」


「うっわ。いきなり!?」


 突如画面いっぱいに広がった異物。

 顔中を攻撃によってボコボコになった醜い人型の巨大のそれは、清き水を穢しながらゲームの世界の外へと這い出そうと猛スピードで進んでいった。


 途中、防衛ラインとして配備していた戦車隊がなんの役にも立たず吹き飛ばされていく。


 あれ? そういえば艦隊は? 艦隊の姿がないぞ。

 もうあの世界から脱出したのか??


「おいおい、こんなのどうすりゃいいんだよ!?」


 いくら力が弱っていたといえ、神でも倒せない存在だ。

 どうやったら倒せるかなんて俺には想像できない。


「そんなの簡単ですよ。あの空間ごと消滅させればいい」


 榊さんさんはそう言うとブツブツと呪文を唱え出す。

 そして唱え終えたあと、ニヤリと笑い、




「潰れろ」




 その一言で、遠視の術で出されていたモニターから瞬時に真っ黒となった。


「……世界ごと消滅させたのですか?」


 斎藤さんがそう質問をする。


「そうですよ。圧縮させて潰しながら消したんです。あそこはゲーム世界とは別に我々が作った世界ですよ? 消し去ることなんて造作もないのです」


 などと恐ろしい事を言いやがった。

 一つの世界を消すなんて簡単な事を言ってくれるが、彼女達が作った世界であればこそ可能であったことなのだろう。元の世界は簡単に消えないことを願う。


 ひとまずこれで安心だ。

 心臓がバクバクいってるよ……。


「なんにせよ、これで――――えっ?」


 ん? なんだ。

 榊さんさんの様子がおかしい。




「<ズザ―――、ズザザザ―――ンギャァアアアアアアアアアアア>」




「うわぁあ!?」


 モニターが復活した。

 俺は情けなくも悲鳴を上げる。

 画面いっぱいに映し出されたクソ主人公神命の顔。その顔は憎悪にまみれていた。


「なっ? 世界を消滅させても消えてない!?」


 斉藤さんも焦った表情でモニターを見つめた。


「まさか、これほどにも魂の質量が大きいなんて……。あいつ自身が世界の一つになっている?

 まずい!? 全戦力、私達が出てきた場所に狙いを定めて! 奴が出てくるわ」


 ……うそん。


 榊さんさんがそう言い終わると同時に空中に広がっていたヘリコプターの大群と、地上部隊が一斉に方向転換をした。


 攻撃ヘリがこれほどまでにも勢ぞろいしている姿を見ることが出来るなんて、現世ではありえないだろう。

 数百以上のアパッチ・ロングボウや千は超えているコブラ。

 地上には怪獣映画で見たことある203mm自走榴弾砲がズラリと並び、戦車等も数えるのが面倒なほど大量にいる。絶対"万"はあるだろう。

 あっ、パトカーもかなりいるんだな。

 ゲームの世界の警官をあんなに多く式神化したのか。

 防衛に役立つのか?


 そんなことを思っていると、






ドムンッ。






 ん? なんだこの音。

 変な音が聞こえたな。






ドムンッ。







「榊様……」


 神澤が不安そうな様子で榊さんに話しかける。


「わかっている。あいつがこの世界に出ようとして空間の壁を叩いている音よ」


 解説をしてくれたが、空間の壁を叩くなんてよくわからない。






ドムンッ。

ドムンッ。





ドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドム。









メギョ。グコメギョ。







「ギュオォォオオオオオオオオオオオオオ!!」







 獣のような叫び声がした方向を見ると、空間が裂けるようにひび割れた。その後、その中からヌッと大きな顔が出てきた。



「おおい、まさかあれ……」



 その顔は神命のものであり、死人のように青白い。

 目の焦点は合っておらず、両目はあらゆる方向へとグリングリンと左右不揃いに動いていた。


「うわぁ。これは酷い」


 斎藤さんは顔をしかめながらそんな事を言う。

 確かにもうあれは人ではなく、どう見たって魔物だ。そういえば邪神なんだっけ?


 やがて、その巨大な気味の悪い存在は、空間の切れ目から全身を這い出してきた。




琴音:「はい、ということで今回もやってきました特別解説役の琴音です」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:雀の形をした式神、ちゅん太です。


琴音:「では今回の解説に参りましょう」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:よろしくお願いします。


琴音:「さて、あっちの世界の狭間雷様は、何とかすると言った割に神命を止めることができませんでしたね」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:まぁ、力弱っているとも言っていましたし、あれだけの抵抗ができただけでもすごいかもしれません。


琴音:「ちなみに神命は無傷のように見えるかもしれませんが、しっかりとダメージを負っています。

ゲーム的な言葉で例えるなら、狭間雷様の攻撃でHPが半分程削られた状態となります」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:ゲーム世界の自衛隊達でもそんなにダメージは与えられていませんでしたね


琴音:「後始末は、我々が行いましょう。あの魔物は世に出して良い存在ではありませんので」


ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:はい、共に頑張りましょう!

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