第56話 低級神の意地
「<そちらの世界の人々には迷惑を掛けてしまってすまない>」
と、謝罪する狭間。
神澤さんと斉藤さんは互いの顔を見合わせている。神澤さんは狐面を被っている為表情は分かり辛いが、斉藤さんは眉尻を下げて困っている様子だ。
「謝罪は先ほど受け取りましたので大丈夫です。それに此方の世界に存在する狭間雷様も今回の件で既に責任を取ってもらっています。この件で此方の世界に死者は出ていませんが、これだけの事をやらかした存在の片棒を担いでいるのですからね。甘い責任の取り方ではありませんが……」
そう回答する榊さん。
あれ? 死者は出ていないって言っているけど、俺が居た世界の神命達悪党共は皆死んだんじゃねぇの? そう思って俺は表情を見ることができる斉藤さんの方を向く。
「……」
斉藤さんは俺に向けて苦笑いを浮かべた。
あれか? 善良な一般市民は死んでいないという事か。
「<勝手な事を言うようだが、いくらゲームの世界と言えど、日本の土地にあの死の炎を灯させるわけにはいかない。私自身の存在を掛けてでもあの悪霊は消滅させて見せる>」
死の炎……核の炎か……。
神様でも嫌悪するようなものなのだな。
どうやら狭間雷という神は道連れにしてでも奴を止める気だ。
神の消滅というのはどういう事になるかなんて分からないが、大丈夫なのだろうか。
「……わかりました。ただし狭間雷様が迎撃に失敗した場合は手段を選んではいられません」
榊さんはそう回答をした。
「<承知した。では君達が式神化させたこの世界の住人は下げておくといい。彼等は君達に対するせめてもの償いだ。この世界で生まれた式神は自由に使ってくれ>」
そう言うと狭間雷は通信を切った。
画面に映し出されていたのは、最初に通信をしていたゲームの世界内の自衛隊員だけである。
「直ぐに部隊を下がらせて防衛線を張りなおしなさい。距離は任せるけど、1km以上は取らないと巻き込まれるわよ」
「<了解>」
榊さんの指示に敬礼をしながら答えたゲーム世界の自衛隊員。
通信はそのまま怪獣と成り果てた神命を映すモニターとなった。
「力の大半を失ったとはいえ、空間を操ることが出来る神の一柱ですから、抵抗はある程度可能だとは思いますが……」
と、呟く神澤さん。
「それでも一度は負けている存在。最悪の事を考えてできるだけの準備をしておきましょう」
どうやら榊さんは狭間雷の力をあまり信頼はしていないようだった。
確かに一度負けていたり、その後俺がゲーム世界で暴れなければ世界の支配権を取り戻せなかったという理由から全面的に信頼を寄せることは難しいだろうな。
俺は不安になりながら、俺の名前を叫び続ける巨大化した神命をモニター越しに見るしかできなかった。
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―狭間雷視点―
ゲームの世界にて、狭間は小さなビルの屋上で進んでくる神命を見上げていた。
「思えば初めから貴様のような存在を、いくらゲームの世界だからと言って生かしておいたのが間違いだった」
初めから苦痛を与え続けた上、魂ごと消しておけばよかった。
この後悔は今に始まったことではない。ゲームの世界の支配権を奪われてからずっと思い続けてきたことだ。
「狭間雷様……」
不意に狭間雷の背後から声がかけられた。
「お前達……。あの時天に行かず、姿をくらましていたのは何故だ……?」
狭間雷が振り向くと、そこにいたのは『清高学園』高等部の『オカルト研究会』のメンバーがそこに居たのだ。
「我々は盛田家の影」
と、副室長の3年の女子生徒が。
「あの時の無念。我々にも晴らさせて下さい」
と、2年生の女子生徒が。
「今回は皆でやりましょう。みんなでやれば何とかなりますって」
と、2年の男子生徒が笑いながら言う。
「……馬鹿者が……。今回は魂が消失するかも知れないのだぞ?」
狭間雷がそう言うと、
「承知の上です」
副室長はそう言って狭間雷をまっすぐ見た。
「いいだろう……。……すまん」
狭間雷は自らの力のみを使って巨大化した神命に勝てる可能性があるかわからなかった。
盛田家を裏から支えてきた彼等三人の魂を使ったとしても力の向上は微々たるものだろう。
だが、ここでやらなければ現実世界に出た神命が何をするかわからないのだ。
「私を慕う一族は、貴様のせいで人生を狂わされた」
狭間はこれまでの経緯を思い返した。
最初に盛田家の長男、盛田 庄平の幼馴染であり恋人であった野和 彩香が神命に襲われた。
一人目の犠牲者である。
翌日、野和 彩香に別れを切り出された庄平は見ていられなくなるほど酷く落ち込んだ。
野和 彩香に新しい恋人が出来たと言われ、その相手が神命ということも伝えられた。
庄平は狭間に復讐の助力を求めたが、狭間は首を縦に振ることは無かった。
現世の人間を無闇に殺してはならないし、怪我をさせるような事をしたら自身は厄神になってしまう。
狭間は現世と異空間を司る神であり、役目を放棄……とまではいかないが、越権行為をするという考えはこの時点ではなかった。
二人目。
豊森 奈菜が襲われた。
最初に事件に関わった犯人は羽間であったことと、豊森 奈菜が庄平の父の姉の子。つまり従姉妹であったことから、羽間に僅かな呪いを掛けた。
死んだ後に狭間が作った苦痛を受け続ける空間に呼び込むというものであった。
その後、羽間は神命によって警察へと通報され逮捕された。
神命は前日より豊森 奈菜の家を盗撮しており、その時記録した動画を羽間が普段学校で使用しているUSBメモリーに入れ、「道端で拾ったが、中身を確認したらとんでもないものが出てきた」と警察に届けたのだ。
後日、豊森 奈菜は神命が羽間の逮捕に協力した事を知り、羽間魔の手から救ったと本気で感謝したのだが、彼の見せた羽間に襲われている自身の映像や画像を見せ付けられ、忠実な下僕とならなければ映像、画像をばら撒くと脅され、豊森 奈菜は彼に従うことになった。
三人目。
三田川 麗子は元々庄平の親友から恋人になった存在であった。
だが、彼女は自身が虐められている事と、親から虐待を受けていることを庄平に言えなかった。
彼を巻き込みたくなかったからだ。
ある日、偶然にも神命は三田川 麗子がクラスメイトや先輩に虐められている事を知った。
その日は三田川 麗子が上級生に襲われている最中だった。
暗がりで口を押さえられながら涙を流す三田川 麗子。そこに神命がやって来た。
神命は虐めの主犯格であった上級生の男子生徒を倒し、動けなくした後裸の写真を撮り、いじめに関わった三田川 麗子のクラスメイトの女子生徒達をその場で犯し、ついでに三田川 麗子も犯した。
続けざまに衝撃的な体験をした三田川 麗子はその場で狂い、神命を自分を助けてくれた恩人と信じ込み彼の非道に力を貸すことになる。
四人目。
ある日、野和 彩香と神命が旧校舎で不純異性交遊をしている姿を目撃した光明院 桜はその場で注意をしてしまった。
彼女は偶々倉庫として使われていた旧校舎の一角に備品を取りに来ていたのだ。
神命は空気を吸うが如く当たり前のように光明院 桜を襲う。
いつの間にか後ろで控えていた三田川 麗子と一緒に。
そして神命は生徒会長という駒を手に入れてしまった。
転校してきたばかりの神命は、学園の生徒の情報源とするために光明院 桜を利用し、襲い易く力の無い女子生徒達の情報を多く集めていった。
ついでに盗撮犯の紫藤を捕まえ、データだけはコピーして警察に突き出した。
五人目。
次々と神命によって恋人を取られ続けた庄平は、とある人物に相談をした。
坂江 由梨である。
狭間雷に訴えても動いてくれない為、もう頼れないと判断した庄平は幼馴染であり恋人でもあった坂江 由梨に相談を持ちかけたのだ。
庄平の頼れる人物の中で最も強い人物が坂江 由梨だったからだ。
学校の副担任で恋人でもある豊森 奈菜に相談をしても『神命君はそんな事をしない』と何故か強く否定する。同じく生徒会長を勤める恋人の光明院 桜も同様の反応をした。
話を聞いた坂江 由梨は一人で神命に向かうことを決意し、庄平に内緒で神命を呼び出して決着をつけようとした。
結果、勝てると思っていた坂江 由梨は大敗北し、神命ハーレムの一員に加わることになってしまった。
ついでに弟が不良グループに所属している事を知った神命は、弟の不良グループに乗り込み、男は力ずくで従わせ、女は犯して不良グループを乗っ取ることに成功。
町の不良グループを手に入れた神命は街中の若い女性の情報を情報を集めさせ、狩りと称した外道な行為を夜な夜な行うことになる。
六人目。そして七人目。
自らの憧れの存在でもあり、自身と同じく恋人の彼女であった光明院 桜の様子がおかしいと感じた長友 理音は、彼氏の妹でもあり親友の盛田 真希と共に真相を探っていた。
二人は情報を集め、どうやら最近彼氏の様子がおかしい原因は最近転校してきた神命が原因ではないかと掴むことに成功。
神命の行いは噂で多く聞いていた。
あまりの件数の多さであったが、何故か問題になっていないと有名だった。
長友何人かのクラスメイトの男子と共に神命に突撃した。
だが、襲撃を予測していた神命は配下にした不良達と共に彼らを捕まえ、男子生徒達は脅し、女子生徒達は順番に頂かれた。
その時長友 理音が国会議員の娘という事を知り利用をしようとしたが、片仲 周蔵という別の議員が長友議員を落としいれようとしたことで、適当に片仲を始末した。
八人目。
元々日本に住んでいた経験があり、一時イギリスへと引越してまた日本へ戻ってきたイリス=フリュードは、遠距離恋愛中の盛田 庄平と会える事に対し期待を胸に道を歩いていた。
偶然神命がそれを目撃し、不良グループと共に誘拐をしようと付いて行っていたが、先に別の犯罪組織にイリス=フリュードは捕まってしまった。
これは自分の獲物だとイリス=フリュードを取り返した神命は、飽きるまで犯し続けた後、道端にイリス=フリュードを放り捨てた。
これを機にイリス=フリュードは自らの命を絶ってしまった。
この他にも、庄平が通う学園の女子や町中の女性達も多くが被害に遭った。
そして数日後、長友 理音と共に一緒に襲われた盛田家の娘『盛田 真希』もまた、ショックから立ち直ることなく自らの命を絶った。
庄平が豊森 奈菜、光明院 桜、そして相談した相手である坂江 由梨が神命の手に落ちた事に気付いたのはこの時であった。
居候予定であったイリス=フリュードが死亡したことで大忙しであった庄平は続けざまに妹まで失ったことで、一族の死の真相を狭間雷に相談をした。
流石に盛田家の人間が死ねば狭間雷も本気で調べるはずだと考えたからだ。
予想は当たり狭間雷は盛田 真希が自害した理由を調べたが、事実は庄平にとって非常に耐え難いものだった。
まさか自分が敵視していた神命に恋人全員が寝取るというには語弊があるほど酷い目に遭わされた上に、妹まで襲われ、それが原因で自殺したという事を聞かされた庄平は怒り狂った。
まさかイリス=フリュードの自殺の原因も神命が原因だったと知り、怒りに火が付いた盛田一族。
庄平は最初は狭間雷を罵倒したが、やがて神命達に復讐するという利害の一致で庄平は狭間雷を信仰し直した。
儀式は3日かかり、術の完成の為庄平の両親と庄平、そして親族の肉体を生贄とした。
こうして狭間雷が作ったゲーム世界の中に庄平達は取り込まれ、復讐の為に出来る限りの過去未来、そして平行世界の神命達の魂を取り込んだ。
ここで予想外の事態が起きる。
なんと、庄平達が生きた次元で神命が死ぬと、野和 彩香、豊森 奈菜、光明院 桜、坂江 由梨、長友 理音らが次々と事故死や自殺をしたのだ。
身も心もボロボロになっていた彼女達はフラフラと町を徘徊していた所、事故にあったり、衝動的に道路や線路に飛び込んだのだ。
狭間は最後まで生き残ったが、結局自殺を選んだ三田川 麗子が死んだ段階で、彼女達の魂も救い上げ、イリス=フリュードの魂も地獄から引っ張ってきた。
ついでにゲームの中で様々な世界の人々に神命達を痛めつけて貰うため、各世界の狭間雷に依頼をして発売をした。
ゲームで起きた事は全て狭間雷が作った異空間に居る神命達に影響を及ぼす。
最高の復讐の幕開けだった。
これで被害に遭った庄平の大切な人達の安息の地を作る事ができたと思った。
それは他の神からも邪魔をされず、地獄からも追手がかからない自分達だけの空間だったからだ。
だが、かつて神通力を使用していた経験がある神命一族の末裔である神命 成一は、同一の魂が大量に集まったため、変異を起こし、強力な魂だけの神通力使いとなってしまった。
神命は早速ゲームの世界を乗っ取るために動き出す。
狭間雷は対抗をしたが、既に多くの力を使っていた彼には抵抗するだけの力は残されてはいなかった。
次々と敵役としてこのゲーム世界に取り込んだ魂を手下として増やしていく神命は、瞬く間にゲーム世界の支配を広げていった。
こうして盛田一族と狭間雷が作り上げたゲーム世界は乗っ取られてしまった。
狭間雷は最後の抵抗としてゲーム内で主人公として活動する神命をはじめとする敵キャラの記憶を一部改ざんしたが、彼らのゲスな行為は変わることはなかった。
「私が愚かであったと思う。初めから神としての役割を放棄してでも貴様を殺し、庄平を助けておけばよかったのだ」
狭間雷は神通力を使い、周囲の天候を操作する。
空には暗雲が広がり、ゴロゴロと不快な音がいたる所で鳴りだす。
「ンア?
ンアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
巨大化した神命は只ならぬ変化に気が付き、それが人ならざる者の仕業だと直感で理解し周囲を探る。
「ソォォォオオオオオオオ、コォォォオオオオオオオオオ、カァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
今の神命からでは蟻と同等かそれ以下の存在を探すのに等しい行為だった。
しかしそれを一瞬で突き止めたのは狭間雷が建物の屋上へ登っていたことと漏れ出す力のせいだろう。
巨大化した腕を振り下ろし、狭間雷を叩き潰そうとした。
「……『神人の子が歩んだ道、天より地に落ち命育む為の道標。かつて天と地を繋ぐ道は更に地に続く道となりて、今この世界に一つの柱を建てよ』」
狭間雷は呪文を唱え始める。
「「「『我等三種の魂はその人柱にならん!!!』」」」
オカルト研究会の……いや、盛田家の影である三人は狭間雷の呪文に続く。
「「「「『天雷柱』」」」」
狭間雷と影の三人がそう呪文を唱えた後、その現象は起こった。
一発の雷が神命の頭上に落ちた。
ただの雷ではない。神命をすっぽりと中に入れるほど極太で、長時間続くまるで水道の蛇口から出る水を被っているかのような勢いで落ちたのだ。
「ギェェェェエエエエエエエエエエエ!!!??」
神命の悲鳴が聞こえる。
地上の小さな建物は吹き飛び、車は浴びせられ続ける高エネルギーの熱で大爆発をする。
アスファルトは融解し、大地は赤く染まった。
「これで……」
「我等は……」
「盛田家の復讐を……」
そして次々と影の三人は魂をすり減らせ、消滅していった。
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「あれは……なんだ?」
遠くに避難をしていたゲーム世界の自衛隊隊員はそう呟いた。
「本部へ、緊急連絡。此方、囚人攻撃部隊。今目の前に天から巨大な光の柱が化け物に落ちた。繰り返す。巨大は光の柱が化け物に落ちた」
遠くから見た狭間雷が出した雷は、天と地を結ぶ大きな柱のようであった。
「<本部了解>」
という声が無線から聞こえてきたが、自衛隊員達の意識は雷の柱に向いていたのだった。
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